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苺パフェを食べて冒険に出かけよう  作者: 沙φ亜竜
第5章 世知(せしる)を救え!
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-3-

 いつものオープンカフェに、僕たちは集まっていた。

 もちろん、苺ぱるふぇ・オンライン上でだ。

 隣のテーブルには、フランさんたちのパーティー4人も座っている。


 今回も、チビはテーブルの下……いちごの膝の上でうつらうつらとしている。

 ぽかぽかとした陽気は、眠るには絶好の気象条件と言えるだろう。


 とはいえ、僕たちには眠気なんて感じている余裕はなかった。

 それぞれが苺パフェを食べながら、ぽつりぽつりと会話している現状。

 ぽつりぽつりなのは、どうしても暗い雰囲気になってしまうからだ。


 失踪事件の噂は、ニュースになって報道されるまでに至った。

 当然ながら、オンしてこなくなる人も目に見えて多くなっていた。

 この場合、遊んでいる人の数が目に見えて少なくなってきた、と言ったほうが的確なイメージとなるだろうか。


 そんな中でも、僕たちはいつもどおり。

 ……かと言えば、そうでもなかった。

 それは会話が少ないことからも、ある程度は想像できるに違いない。


 いつもとなにが違っているのか。


 いちごが一心不乱にパフェを食べていて、

 それを僕がニヤニヤしながら眺めていて、

 クララが気色悪い微笑みをたたえていて、

 天使ちゃんが控えめなツッコミを入れたりして、

 いちごの膝ではチビが眠りこけていて、

 フランさんが爽やかな声で語りかけてきて、

 フランさんのパーティーメンバーもいて……。


 お気づきになられただろうか?

 そう、ひとり足りない。


 ミソシルがいないのだ。


 筋肉もりもりの大男だというのに、毎度毎度僕に抱きついてくる暑苦しいやつ。

 中身はともかく、オンライン上では鬱陶しい以外のなにものでもない。

 ……随分と慣れてきてしまっている感じではあったけど。


 そんなミソシルがいない。

 せいせいする、といった気分ではなかった。

 いつも一緒にいるメンバーがいない。

 たったひとり欠けただけではあっても、空気を重くするのには充分だった。


 実際のところ、ミソシルがいない理由は、べつに深刻なものではない。


「今日は用事があるからオンできないと、つい先ほど連絡がありましたわ。他の人にも伝えておいて、って」


 オンするやいなや、クララが僕といちごにそう伝えた。

 すぐに天使ちゃんもオンしてきたけど、今日はパーティーメンバーが全員揃わない。

 だったら、オープンカフェでお喋りでもして時間を潰そうか。

 そんな流れになっただけのことだった。


 それだけ。

 だというのに、周囲の空気は有毒ガスかなにかのように、重く苦しく感じられた。


 ……いちごを見つめてニヤニヤしているくせに、といったツッコミはしないでもらいたい。

 それは僕にとって、息を吸うのと同義と言ってもいいくらいの行動なのだから。

 ただ、そのニヤニヤ顔も、ここで一旦消えることになる。


「失踪事件の話……ニュースで報道していたとなると、やっぱり現実に起こっていると見るべきなのでしょうか?」


 クララがぼそっとつぶやく。

 僕も含めた全員が、頭の中ではいろいろと考えを巡らせていただろう。

 だけど誰も答えないまま、しばらく時間が経過する。


「そう考えたほうがいいのかもしれないね」


 やがてフランさんが遠慮がちに意見を述べると、他の人もちらほらと口を開き始める。


「知り合いに失踪した人がいるってわけじゃないから、実感は湧かないけど……」

「気をつけておくべきなのは確かよね」


 フランさんのパーティーの女性2名は、随分と怯えている様子だった。

 それを、フランさんやもうひとりの男性が安心させようとしている。

 向こうのテーブルは今、そんな状態のようだ。


 かくいう僕たちのテーブルも、さほど変わらない。

 むしろ、会話が全然ない分、重苦しさでは上かもしれない。


 いちごはパフェを食べることに集中しているし、チビも安らかに寝息を立てている。

 その点だけで考えれば、普段どおりなのだけど。

 今日はいちごでさえ、いつもの勢いがない。

 それでも、苺パフェの味に満足して笑顔をこぼしているのだから、まだマシと言えるだろう。


 とくに元気がないのは、僕と、そしてクララだった。


 クララに関しては、笑顔を見せてはいる。

 でも、中学からではあっても友達づき合いはそれなりに長いからよくわかる。

 その笑顔の裏には、明らかな不安が隠されていると。


 失踪事件が起きているらしいというのは、以前から噂になっていた。

 それなのに、事件の詳細については、まったくと言っていいほど伝わってこない。

 よくわからないことほど、怖いものはない。

 身を守ろうにも、防ぎようがないからだ。


「でも、なにをどう気をつければいいのかな?」

「情報がなさすぎるよね……」


 向こうのテーブルの女性ふたりが、不安そうにつぶやく。


 ……何度か会っているのに、女性とか、そんな表現も失礼かな?

 ふたりはそれぞれ、レイピアさんとクリスさんという。

 なお、残ったもうひとりの男性は、ファルシオンさんだ。


 以前会ったときにお互いに自己紹介も済んでいる。

 それ以前に、じっと見つめれば名前とレベルとクラスが表示されるシステムになっているのだから、相手の名前すらわからないなんて状況は、この世界ではありえない。


「苺パフェの味がおかしかったのは、完全に無関係だったしね」


 フランさんが微笑みながら口を挟む。

 場の雰囲気を和ませようという意図があったのだろう。


「そ……その話はもういいだろ!?」


 いちごが真っ赤な、ついでに口の周りにクリームをべったりつけた顔で、猛抗議。

 そんな微笑ましい光景によって、空気は確実に和らいだ。

 ライバル視している相手の行動とはいえ……。

 悔しいけど、これは『グッジョブ』と言わざるを得ない。


「ま、僕たちはいつもどおりゲームを楽しめばいいよね」


 僕の言葉に、みんな頷く。

 フランさんのパーティーメンバーも含めて、みんな。


「今日はもう遅いから無理だけど、明日にはミソシルも来るだろうし、ちょっと難しめのクエストにでも挑戦してみようか!」

「そうだな!」

「ええ、それがいいですわ!」

「……うん、わかった……」


 僕はパーティーのリーダーとして、をまっとうする。


 ……いや、失礼。正確にはリーダーなんかではなかった。

 共有財産管理を任されているだけの雑用係でしかないけど。

 気持ちの上では、僕はリーダーなのだ。


 リーダー(仮)、もしくはリーダー(偽)、だろうか。

 (偽)はちょっと違う気もするな……。


「兄者は、リーダー(笑)だろ!」

「いちごにまで、僕の心の中を読まれた!?」


 再び、僕たちのテーブルとフランさんたちのテーブルには、笑い声がこだまする。

 以前とは違って人の少なくなった通りにまで、僕たちの明るい声は響いていたに違いない。


 不穏な噂なんかに踊らされるものか。

 僕たちはこのゲームで、楽しい時間を過ごすと決めたんだ。

 僕には仲間がいる。

 フランさんたちだっている。

 絶対にいちごの笑顔を曇らせたりなんてしない!


 決意を新たに冒険を続けていこうと誓い、愛しの妹のそばでだらしない笑みをこぼす僕だった。

 そんな顔を見られ、みんなから冷やかされる結果になったのは、言うまでもないことだろう。




 しかし……。


 こんなふうに笑っていられるのも、ここまでだった。

 なぜなら、それから数日経っても、ミソシルが姿を見せることはなかったからだ。


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