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第4話:鉄の令嬢と、秘密のガレージ

「——信じられない。このパッチコード。

 論理構造が完全に『次世代』だわ」


翌々日。

坂本重機整備の薄暗いガレージに、場違いなほどに凛とした声が響いた。


そこにいたのは、勇者警察の技術顧問を父に持つ、若き天才設計士。

セレナ・フォーン・ブレイブ。


十代にして数々の勇者ロボを設計したという、この世界の「技術の象徴」のような少女だ。


彼女は、ポリス・ガードのデータターミナルを食い入るように見つめ。

その震える指先でモニターをなぞっている。


「AI自身が自己進化したの? それとも……」


「この世界のどこかに、私たちが到達していない『特異点』を知る者がいるというの?」


「……あの、セレナ様? そんなに凄いものなんですか、それ」


親方が恐縮しながら尋ねる。

セレナは青い瞳を鋭く光らせ、振り返った。


「凄いなんてものではないわ。

 これは、ロボットに『心』を教え込むのではなく」


「ロボットが『最も効率的に心を運用する』ための最適化よ。

 ……これ、誰がやったの?」


ガレージの空気が凍る。


俺は、いつものように隅っこで古いモーターのグリスを拭き取りながら。

内心で舌打ちをした。


(……まずいな。あのレベルのエンジニアには、俺のコードの『異常性』が筒抜けか)


「あー、それ、ウチの……」


親方が俺を指差そうとしたその瞬間。


「それは『奇跡』ですよ、セレナさん!」


割り込んできたのは、工場の看板娘(自称)として居座っているリナだった。


「昨日の戦闘で、ポリス・ガードの超AIが限界を超えて、偶然そうなったんです! そうよね、カイト君?」


リナが俺の背中を強めに叩く。

彼女なりに、俺の正体を隠そうとしてくれているらしい。


「……君が、カイト?」


セレナの視線が、俺を射抜いた。


彼女は優雅な足取りで近づくと。


俺の「油まみれの手」と「使い古した工具」をじっと見つめた。


「下請けの整備士……。その割には、君の使っているスパナ。

 ミリ単位で重心を加工しているわね。自分で『最適化』したの?」


「……ああ、これですか。ただの趣味ですよ。手が滑るのが嫌だったんで」


俺がとぼけると、セレナは不敵な笑みを浮かべた。


「趣味、ね。……いいわ。

 なら、君のその『趣味』の腕前、見せてもらいましょうか」


彼女が合図すると、外のトレーラーから一台の純白の機体が運び込まれた。

勇者警察の最新鋭試作機『ホワイト・ヴィクトリー』。


「この機体、超AIの出力が安定しなくて、誰も起動できないの」


「もし君が『洗浄ついで』にこれを動かせたら……。

 君を、私の専属メカニックとして本部に引き抜いてあげてもいいわよ」


「ちょっと待ちなさいよ! カイト君を勝手に連れて行くなんて許さないわ!」


リナがセレナの前に立ちはだかる。


記者の情熱と、名門令嬢のプライドが激しく火花を散らす。


「……別に、引き抜かれたくはないんですが」


俺はため息をつきながら、ホワイト・ヴィクトリーを見上げた。


(……酷いな。設計思想が贅沢すぎて、逆にエネルギーのバイパスが渋滞してる)


(これじゃ、宝の持ち腐れだぞ)


エンジニアとしての魂が、静かに疼く。

前世のブラック企業で、納期直前に「動かない最新システム」を預けられたあの時の怒りが。

不思議と心地よい集中力に変わっていく。


「……いいですよ。ただし、引き抜きは無しだ。

 俺はここで、自由にロボットを弄っていたいだけですから」


俺は腰の工具袋から、自作のデバッグ端末を取り出した。


「見てなさい、リナさん。……これが、社畜エンジニアの『デバッグ』のやり方だ」


俺がシステムに直接介入を開始する。


周囲が「また無駄なことを」と冷笑する中。

セレナだけは、俺のタイピング速度と、一切の無駄がないコード修正の手際に。

目を見開いて硬直していた。


十秒、二十秒。


そして一分後。


『——システム・オンライン。……マスター、私の意識を縛っていたノイズを消去してくれて、感謝します』


誰も動かせなかった最新鋭機が。

まるで赤ん坊が初めて笑うように、穏やかな光を放って起動した。


「な……ッ!?」


セレナが絶句する。

彼女が数ヶ月かけても解けなかった構造欠陥を。

名もなき整備士が、わずか数分で書き換えてしまったのだ。


「……よし、これでいい。

 あとの細かい調整は、本部の凄いコンピュータでやってください」


俺は汗を拭い、いつものモブ整備士の顔に戻る。


だが、セレナの瞳はもう、俺を「ただの整備士」としては見ていなかった。


「カイト……。あなた、何者なの? その技術、この世界の常識ではありえないわ」


「……だから、ただの趣味ですよ。エンジニアのね」


その時。

工場のセンサーが、異様な空間の歪みを検知した。


『マスター、警戒を。……『ネオ・ギアス』の工作員が、この工場を包囲しました』


脳内の通信デバイスに、地下に隠したアヴァロンの声が響く。


どうやら、俺の「趣味」が。

ついに世界の平和を脅かす連中を、本気にさせてしまったらしい。

【作者コメント】

お読みいただきありがとうございます!

ついに二人目のメインヒロイン、セレナが登場しました。

カイトの「凄さ」を一番理解できる彼女の登場で、物語が大きく動き出します。

次回、第1章クライマックス!

「第5話:沈黙の勇者と、漆黒の相棒アヴァロン

工場のピンチに、ついに主人公の真の愛機がそのベールを脱ぎます。

「続きが楽しみ!」「カイトの無双をもっと見たい!」

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