第3話:奇跡の量産機と、執拗な美少女記者。……俺の平穏なモブ生活がバグり始めた
「……な、なんだ。今の動きは……ッ!?」
絶叫したのは、勇者警察のゼニガタ主任だ。
彼の目の前で、装甲がボロボロの量産機『ポリス・ガード』が、重戦車のような敵の巨大ロボットの攻撃をフワリと紙一重でかわし――
流れるような動作で、強烈なカウンターを叩き込んだ!
ドゴォォォォォンッ!!
凄まじい火花が散り、敵の大型機が天を仰いで沈黙する。
最新鋭の勇者ロボがかりで倒すはずの相手を、型落ちの量産機が単独で沈めたのだ。
『……マスター。敵機、完全沈黙。こちらの被弾ダメージはゼロです』
『信じられません。自分の鉄の体が、まるで羽のように軽い……!』
俺は工場の物陰に隠れながら、手元のデバッグ用端末を操作して小さく頷いた。
「当然だ。機体の安全マージンを解除して、モーターへの電力供給アルゴリズムを俺が書き換えたからな」
俺がたった数分で書き換えたコード
一つで、この量産機は本来のポテンシャルを120%引き出している。
「だ、誰だ! 一体誰があの機体を裏で操作しているんだ!?」
腰を抜かしたゼニガタが周囲を見回して叫ぶ。
俺はサッと端末の制御を「オート(自律起動)」に切り替え、現場にいるポリス・ガードに指示をする。
「ポリス・ガード。俺の接続ログ(痕跡)は全部消去した。あとは『超AIが奇跡的に覚醒した』ってふりをしておけ。……徹夜明けで眠いんだ、俺は寝る」
『了解。……世界を救っておきながら名乗り出ないとは。本当に欲のないお方ですね』
***
翌朝。
案の定、俺の工場は勇者警察の本部からやってきたエリート調査団の立ち入り調査で、大パニックになっていた。
「ありえない! 量産機の基礎OSに、正体不明のパッチコードが書き込まれているぞ!」
「なんだこの美しすぎる論理構造は……! 本部のスーパーコンピュータでも、こんな計算はムリだ!」
真っ青な顔でタブレットを囲んで騒ぐエリートたちをよそに。
俺はいつも通り、スパナを回していた。
「 お前、昨日のメンテナンスで何か特殊なことをしたか!?」
ゼニガタ主任が血相を変えて詰め寄ってくる。
「え? 駆動部の洗浄液をちょっといいやつに変えただけですよ。たまたま『当たり』の個体で、AIが勝手に進化したんじゃないですかね?」
「洗浄液だけであんな化け物みたいに強くなるかよ!」
親方が呆れて笑う。
だが、プライドの高い本部のエリートたちは「こんな下請けのモブ整備士が、超AIをハッキングできるわけがない」とハナから俺を疑っていなかった。
「フン、素人は黙っていろ。これは我々エリートの領域の問題だ」
(……助かるよ。そのエリート意識のおかげで、俺の平穏なモブ生活が守られる)
俺が内心でホッと息を吐いた、その時だった。
「……みーつけたっ」
背後から、ひょっこりと顔を出したのは。
昨日、現場に居合わせていた新米の美少女記者――リナだった。
「あ、リナさん。今日は警察の取材ですか?」
「違うわよ。私の今日のターゲットは……『ただの下請け整備士、カイトさん』への独占取材よ!」
彼女の大きな瞳が、キラキラと燃えている。
「昨日、みんながあのロボットの奇跡的な動きをする映像に釘付けになっている中……私だけは見てたのよ。工場の影で、あなたがものすごいスピードでタブレットを叩いている姿をね!」
……しまった。
まさかロボットではなく、裏方の俺にカメラを向けている物好きがいるとは。記者の執念を見くびっていた。
「ねえ、あなたがあのロボットを強くしたんでしょ!? どんな魔法を使ったの!?」
「勘違いですよ。俺はただゲームでハイスコアを出してただけです。有名になりたいなら、あっちのエリートさんたちに聞いてください」
俺が面倒くさそうに背を向けると、リナは慌てて俺の作業着の袖をギュッと掴んだ。
「ダメ! ごまかしても無駄よ。私、見たんだから……あなたが、誰も傷つかないように裏で必死に世界を救っていた『ヒーロー』だってことを!」
「ヒーローって大げさな」
「大げさじゃないわ! 私、決めたの。あなたがどれだけ凄いエンジニアなのか、私が一番近くで記録してあげる! 今日から私は、この工場の看板娘 兼、あなたの専属記者よ!」
「はぁ!? いや、勝手に決めないでくれ!」
「ふふん、もう遅いわ。お弁当作ってきてあげたから一緒に食べましょ、親方!」
静かに生きたい社畜エンジニアのモブ生活は、押しの強い美少女によって、あっさりとバグを引き起こしてしまったのだ。
***
——だが、俺がリナの対応に頭を抱えていたその頃。
勇者警察本部、技術開発局の最上階。
「……信じられない。このパッチコード……」
展開されたポリス・ガードの戦闘ログを食い入るように見つめ、その震える指先でモニターをなぞっている少女がいた。
勇者警察の技術顧問を父に持つ、若き天才設計士。
セレナ・フォーン・ブレイブ。
「私の完璧な設計を......この『誰か』は、たった数分で完全に凌駕してみせたというの!?」
彼女の青い瞳に、強烈な敗北感と、未知の技術に対するゾクゾクするような探究心が灯る。
「この機体が最後にメンテナンスされた工場を洗い出しなさい。私が直接出向いて、この『神のコード』を書いた人間を引っ張り出してやるわ!」
俺の知らないところで、物語の歯車は完全に暴走を始めようとしていた。




