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第1話:社畜エンジニアの再設計。――俺の「趣味の機体」は、世界のヒーローすらもデバッグする(後半)

「……よし。テスト起動だ、アヴァロン」


俺がコンソールを叩くと、モニターに無数のログが流れる。

この世界のエンジニアたちが「ブラックボックス」として恐れ、手を出さなかった『超AI』の深層領域。

そこに俺は、前世のデバッグ技術と、オブジェクト指向に基づいた論理構造を組み込んだ。

 

熱血や根性で動くのがこの世界の勇者ロボなら、俺のアヴァロンは『最適解』で動く。


『マスター。外部回路との同期完了。これより、湾岸地区の暴走事案へ介入します』


落ち着いた、だが確かな意思を感じさせる合成音声。


俺はスクラップ工場の地下から、漆黒の機体——『アヴァロン』を静かに発進させた。


 ***


湾岸地区の建設現場は、地獄と化していた。

暴走したのは、最新の超AIを試験搭載した大型重機『タイタンG-10』。


本来、人命を守るはずの知能がバグを起こし、周囲のビルを無差別に破壊している。


「くっ、なんてパワーだ……! 応答しろ、タイタン! 君の『心』は、こんな破壊を望んでいないはずだ!」


警察車両から変形した白銀の勇者ロボ——勇者警察の主力機『ジェイ・ガスト』が、必死に説得と格闘を続けていた。

だが、ジェイ・ガストの関節部からは過負荷の火花が散っている。


「だめです、隊長! ジェイ・ガストの演算能力では、タイタンの論理汚染バグを中和できません! このままでは……!」


通信機越しに叫ぶオペレーター。

その光景を、瓦礫の陰でカメラを構えながら震えて見つめる女性がいた。


東都新聞の新人記者、リナだ。


「そんな……あんなにかっこいい勇者刑事が、負けちゃうの……?」


リナの目の前で、タイタンの巨大な鉄拳が振り下ろされる。

ジェイ・ガストは動けない。リナも足がすくんで動けない。

絶体絶命。誰もが最悪の結末を覚悟した、その時。


 ——シュンッ。


空気を切り裂く高周波の駆動音が響き、漆黒の影がタイタンの腕に割り込んだ。

「……出力設定、ミスってるぞ。その巨体なら、油圧系統のサブバルブを絞らなきゃ自壊するに決まってるだろ」

アヴァロンの右腕が、タイタンの重圧を片手で受け止めていた。

 

「な……何だ、あの黒いロボットは!? 勇者警察の新型か!?」

 

ジェイ・ガストのパイロットが驚愕の声を上げる。

アヴァロンのコックピットで、俺は冷静にキーボードを叩いた。


「アヴァロン。右足のサーボモーターを0.02秒先行。重心を左斜め30度に移動。……そこだ、叩け」

了解イエス、マスター』


無駄のない、流れるような回し蹴り。


勇者警察が何分もかけて倒せなかった巨大な暴走機が、たった一撃で、力学的な弱点——メインフレームの接合部を撃ち抜かれ、沈黙した。


「……ふぅ。デバッグ完了だな」


俺はふと、足元を見た。


そこには、腰を抜かしたままこちらを見上げている少女——リナがいた。


アヴァロンの外部センサーが彼女の顔をアップで映し出す。……かなりの美少女だ。

「……怪我はないか? 避難指示が出てたはずだぞ。ここは戦場じゃなくて、ただの『不具合修正現場』だ」


アヴァロンのスピーカーを通して声をかけると、リナは震えながらも、瞳に強い光を宿してロボットを見つめた。


「あ……ありがとう、ございます! あなたは……あなたたちは、一体……?」


「俺? ……俺はただの、通りすがりのメカニックだ」


それだけ言い残し、俺はアヴァロンを急速離脱させた。

あまり長く居座ると、勇者警察の連中に身元を特定される。

俺はあくまでモブ。目立つのは、あのアヴァロンだけで十分だ。


 ***


翌朝。


俺はいつものように、下請け工場の薄汚れたツナギに着替え、油にまみれていた。


「おいカイト! 昨日のニュース見たか? 謎の黒いロボットが現れて、ジェイ・ガストを助けたんだってよ!」


「へぇ、すごいですね」


同僚の興奮気味な声を適当に受け流しながら、俺はスパナを回す。


昨日の戦闘データを確認したが、アヴァロンの排熱効率にはまだ改善の余地がある。

次は放熱フィンの形状を変えてみるか——。


そんなことを考えていると、工場の入り口に一台の乗用車が止まった。

中から降りてきたのは、昨日助けたあの記者、リナだった。


「……ここね。この付近から、あの黒いロボットと同じ『波長』の電波が出てたって情報は」


リナは手に持った奇妙な探知機(自作だろうか?)を握りしめ、目を輝かせて工場を見渡している。


そして、作業中の俺と目が合った。


「あ! あなた……! もしかして、ここの整備士さん?」


「……ええ。何かご用で?」


俺は内心、冷や汗をかいた。

まさか一晩でここまで辿り着かれるとは。……エンジニアとして、発信源の隠蔽ステルスが甘かったか。


「私、リナと言います! 昨日の事件について調べていて……。ねえ、ここで何か、すごく特別な修理、してませんか?」


彼女の真っ直ぐな視線。


これが、俺の『設計図(人生)』が大きく書き換えられる、最初のバグ——いや、アップデートの瞬間だった。

(第1話・完)



【作者コメント】

お読みいただきありがとうございました!

「ただの趣味」と言いつつ、最新鋭機が苦戦する敵を一撃で粉砕してしまう……。

そんなエンジニアの意地と、ロマンを詰め込んだアヴァロンの初陣でした。

助けた美少女記者・リナとの出会いが、カイトの「平穏なモブ生活」をどう変えていくのか。

そして、勇者警察のエリートたちが、この「規格外の機体」にどう反応するのか……。

「続きが気になる!」「エンジニア無双、爽快だった!」

と思っていただけましたら、ぜひブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】評価をポチッと押して応援していただけると、執筆の大きな励みになります!

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次回、第2話は「エリート様のお通りと、天才の『ついで』の仕事」

お楽しみに!

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