表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様のハーレムダンジョン ~俺は、ハーレム王になるっ~  作者: Red/春日玲音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/89

姫巫女の嫁入り。そして始まる……

その日、カンナギ国はまさにお祭り騒ぎだった。


 王宮前広場は人、人、人。屋台からは甘い菓子の匂いと香ばしい肉の煙が立ちのぼり、楽師たちが笛と太鼓を鳴らし、子どもたちは「姫さまー!」と黄色い声を張り上げている。


 主役である姫巫女カンナは――


 その喧騒を、窓辺から遠い目で見つめていた。


「……はぁ」


 ため息は、祝いの喧騒にかき消えるほど小さい。


 魔王のもとへ嫁ぐことに迷いはない。

 相手は魔王カズト。恐れられる存在ではあるが、あの会談で言葉を交わし、自分の意思で決めたのだ。そこに後悔はない。


 問題は――そこではない。


 三日前。

 花嫁衣装を携えてやってきた「先輩花嫁」たち。


 あれは会談ではない。

 あれは査定である。


 部屋に入った瞬間、空気が変わった。


 高位魔族サキュバス族の頂点に立つ、サキュバス王女エル。妖艶という言葉を擬人化したような存在で、微笑むだけで室温が二度上がる。


 巨大帝国の皇女にして勇者姫の異名を持つアリーナ。凛と立つ姿はまるで戦場の女神。視線が鋭い。いや、優しいのだろうが鋭い。


 パンニャ領領主の娘で、現シャガート代官のシーラ。柔和な笑みの裏に、計算高さと行政手腕が透けて見える。


 アルメリア聖王国の筆頭聖女イリシス。神々しい。後光が見える気がする。部屋に入った瞬間、なぜか空気が清浄になった。


 そして、幼くして最高の頭脳を誇る賢者ルミナス。小柄。無表情。だが目がやばい。あれはすべてを数値化している目だ。


 ――その五人に、ぐるりと囲まれた。


(囲まれてる……これ、歓迎よね? 歓迎……よね?)


 にこやかな笑顔。

 優雅な所作。

 柔らかな声。


 なのに。


 なぜこんなに背筋が寒いのか。


 まるで市場に並べられた野菜の気分である。

 鮮度、色つや、形状、将来性。


(品定めだあああああああっ!!)


 心の中で絶叫するカンナ。


 覚悟はしていた。

 他にも嫁がいると聞いていたから。

 うまくやっていこうと決めていた。


 でも。


 でもだ。


 横に並ばされた時の破壊力を、誰か教えてほしかった。


 エルは妖艶。

 アリーナは凛々しい。

 シーラは才色兼備。

 イリシスは神聖。

 ルミナスは天才。


 そして自分は――


(辺境の小国の世間知らず姫……)


 姫巫女と呼ばれていても、それはカンナギ国とその周辺だけの話。連合では「え? どちらの?」で終わる知名度。


(無理無理無理無理無理っ! どうしろってのよっ!)


 さらに追い打ちをかけたのが――


 胸。


 女性の象徴。

 誇り。

 威厳。

 戦力。


 横並びになった瞬間、カンナは悟った。


(……下から数えた方が早い)


 視線をそっと横に滑らせる。


 エル。論外。

 アリーナ。規格外。

 シーラ。安定感。

 イリシス。慈愛。

 ルミナス。


 ルミナス。


 年下。


 ……年下?


(負けてる!?)


 その瞬間、カンナの中で何かが崩れ落ちた。


 賢者ルミナスは淡々とメモを取っている。

「骨格は良好。成長余地あり。栄養管理で改善可能」


 なにを分析しているのか。


 エルはくすりと笑い、

「うふふ、初々しくて可愛らしいですわね」


 アリーナは真面目な顔で頷き、

「守ってやらねばな」


 シーラはにこやかに、

「仲良くやっていきましょうね?」


 イリシスは慈悲深く微笑み、

「主のお心のままに」


 ――全員、悪意ゼロ。


 なのにカンナの精神だけがゴリゴリ削られていく。


 現在。


 王宮の窓辺で、広場を見下ろしながら、カンナは胸元をそっと押さえる。


(……まだ、成長期かもしれないし)


 希望を捨てきれない。


 広場では花火が上がる。

 国民は歓声を上げる。


 その中心にいるはずの花嫁は、深刻な顔で自分の未来――主にバストサイズ――を案じていた。


 国の未来は明るい。

 花嫁の未来は……別の意味で前途多難であった。



賢者ルミナスは、全部わかっていた。


 カンナが窓辺で胸元を押さえ、遠い目をしている理由も。

 横並び比較という残酷な現実に打ちのめされたことも。

 「まだ成長期」という淡い希望にしがみついていることも。


 わかっていて、わざと追い打ちをかけた。


「統計的に言うと、十八歳以降の有意な増加率は――」


「やめてぇぇぇぇ!」


 両耳をふさぐカンナ。


 ルミナスは無表情のまま首を傾げる。

「事実の共有は大事」


 しかし。


 しばらくしてもカンナが復活しない。


 床に座り込み、膝を抱え、「私は辺境の小粒……」などとぶつぶつ言い始めたあたりで、さすがの賢者も気づいた。


(……やりすぎた)


 ルミナスは小さく咳払いをする。


「カンナお姉ちゃん」


「……なに」


 声が湿っている。


「魔王様が選んだのは“数値”じゃない」


 ぴくり、とカンナの肩が動く。


「政治力ならシーラがいる。武力ならアリーナ。色香ならエル。神聖枠はイリシス。頭脳は私」


 自分をさらっと入れた。


「でも、“カンナお姉ちゃん”は一人しかいない」


 カンナは顔を上げる。


「魔王様は、あの会談でお姉ちゃんの言葉を聞いて決めた。胸囲データは一切参照していないはず」


「参照してたらどうするのよ」


「そのときは私が解析して消去する」


 真顔で言う。


 思わず、カンナは吹き出した。


「なにそれ……」


「それに」


 ルミナスは少しだけ、ほんの少しだけ声を柔らかくした。


「私は、お姉ちゃんが好き。優しくて、すぐ顔に出て、守りたくなるところ」


 沈黙。


「……ずるい」


「事実の共有は大事」


 今度はカンナが笑う番だった。


 それから二人は並んでお茶を飲み、他愛ない話をした。

 魔王城の噂。

 エルの夜更かし癖。

 アリーナの意外な甘党疑惑。


 気づけば、カンナの頬はすっかりいつもの色を取り戻していた。


 そして――出立の時間が迫る。


 侍女が控えめに告げる。


「お時間です」


 いよいよだ。

 花嫁衣装に着替え、国民の前でお披露目。

 魔王の紹介。

 同盟締結の宣言。


 カンナは深呼吸をひとつ。


「……よし」


「はい、カンナお姉ちゃん。着替えるの手伝うね」


 ルミナスがドレスを差し出す。


 白を基調とした、気品あふれる花嫁衣装。

 繊細な刺繍、軽やかなレース。

 完璧だ。


 カンナは袖を通す。


 するり。


 腰もぴったり。

 丈もちょうどいい。


 ――だが。


「……あれ?」


 胸元。


 ぶかぶか。


 風通しがいい。

 やけに、いい。


 カンナはそっと中をのぞく。

 空間がある。

 余白がある。

 未来予想図が広がっている。


 静寂。


 ルミナスが一拍置いて言った。


「あ、ごめんなさい。それ、私のだった」


 にこり。


 カンナ、固まる。


 小柄な体格はよく似ている。

 だから最初は違和感に気づかなかった。


 だが――


 唯一にして決定的な違い。


 二サイズ以上の、厳然たる事実。


 無慈悲な現実が、布地のたるみとなって視覚化されていた。


「……ルミナス」


「はい?」


「わざと?」


「何のこと?」


「あげて落とすのやめてぇぇぇぇっ!」


 結局。


 正しいドレスに着替え直したカンナだったが、胸元はきっちり、きっちりと“適正サイズ”。


 余白ゼロ。

 夢もゼロ。


 王宮前広場では歓声が高まる。

 扉の向こうに、国民が待っている。


 侍女が告げる。


「姫巫女様、参りましょう」


 カンナは最後に鏡を見る。


 顔は凛としている。

 瞳もまっすぐ。

 花嫁として、完璧だ。


 ただし胸元だけが、やけに現実的だった。


「……成長期、まだだよね?」


「統計的には――」


「言うなぁぁぁ!」


 かくして。


 国の未来を背負う姫巫女は、

 胸の未来だけを置き去りにしたまま、


 晴れやかに――ほんの少しだけしょんぼりと――

 お披露目の舞台へと歩み出したのだった。



 あれから一年――。


 空は高く澄み渡り、かつて幾度も黒煙が立ちのぼった大地は、嘘のように静まり返っていた。


「カシミア共和連合……か。もう少し賢いと思ってたんだけどなぁ。」


 白銀の鱗を陽光にきらめかせるホワイトドラゴン――ユキの背で、カズトは眼下を見下ろす。

 風を切る翼の鼓動が、彼の黒髪を揺らした。


 大地には、新たな国境線が引かれている。

 崩れ落ちた城塞、焼け焦げた城壁。その隣では、すでに新しい街が芽吹きはじめていた。戦火に荒れた畑には若草が戻り、避難民だった人々が家を建て直している。


「まぁ、わかってましたけどねぇ」


 背中にぎゅっと抱きつきながら、ルミナスがくすりと笑う。

 その声音に、どこか達観した響きがあった。


 カンナギ国の脱退宣言から始まった一連の騒動。

 抗議、制裁、そして見せしめの侵攻。


 だが理のない刃は、やがて自らをも傷つける。


 加盟国の半数以上が恐怖に駆られて離反し、連合は怒りに任せて制裁戦争を拡大。

 結果は――共倒れ。


 主だった首謀者は戦場に散り、残されたのは疲弊しきった国々だけだった。


 最後に頭を垂れたのは、かつて「秩序」を掲げた側だった。


 そして今。


 カシミア共和連合のあった一帯は、正式にカンナギ国の庇護下へ。

 名を改め――


 魔王領・カンナギ自治区。


「なぜこうなった」


 半ば本気で、半ば呆れてつぶやくカズト。


 すると、前方で翼をはためかせるユキが、のんびりとした声で返した。


「おぬしが魔王じゃからじゃろう?」


 あまりにも単純な答えだった。


 白き竜が守護する魔王領。

 紫煙山脈を中心に、森と草原、そして再生する街々が広がるその地は、いつしか人々の間でそう呼ばれるようになっていた。


 恐怖ではなく、安寧をもたらす魔王。

 侵略ではなく、庇護を選ぶ魔王。


 皮肉なことに、それこそが周囲を最も不安にさせる。


 強大でありながら動かない存在ほど、計り知れないものはない。


 遠く、西の空。

 帝国の紋章を掲げた飛空艇の影が、雲の向こうに一瞬だけ揺らめいた。


 東方では、人族諸国が新たな同盟を模索しているという噂もある。


 争いは終わっていない。

 ただ、形を変えただけだ。


 だが――


 今この瞬間、魔王領には風が吹いている。

 戦の匂いではなく、草と土と、命の匂いを運ぶ風が。


「ま、なるようになるか」


 カズトは小さく笑い、ユキの首筋を軽く叩いた。


 白き翼が大きく広がる。


 カズトはまだ知らない。

 この地をめぐり、再び嵐が訪れることを。


 それでも――


 守るべきものがある限り、彼は立ちあがり、彼を守る者たちが刃を抜く。


 これは終わりではない。


 空を翔ける白き竜の背に乗った魔王の姿……それは、新たなる物語を紡いでいく……そう、これは始まりなのだ。魔王カズトの伝説の……。

長らくのご愛読ありがとうございました。

これにて完結です。

えぇ、「俺ただエンド」ですが何か?

っていうか、18禁版とごっちゃになってきびいしいんだよぉっ!

18禁版はまだまだ序盤ですので、これからも応援よろしくお願いします


新作を書く前に、マギアグレイヴをどうにかしなきゃ……



ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ