ep33 絶体絶命part2
雀女はハミータに手首を縛られ、葉加瀬の寝室まで連れて行かれた。
「失礼いたします。緑野を連れてきました」
ハミータが深々と頭を下げる。寝室は照明のスイッチがオンになっていて、ベッドの上には葉加瀬が座っていた。そして、彼と対面するように玄麻が立っていた。
作戦では玄麻は葉加瀬を監視するだけで、よっぽどのことが無い限り顔を合わせることが無かったはず。二階へ向かう扉が閉まった際の、大きな物音が原因だろうか。持っている情報が断片的で、正確な状況の把握ができなかった。
「ご苦労ハミータ、やはり君は優秀だ」
「悪役だねぇアンタ。息子だけじゃなくて娘まで人質に取るとは」
一瞬だけ雀女と目を合わせた後、玄馬は再度葉加瀬のほうを向き、軽蔑した目で睨みつける。
「お兄ちゃんが人質……? どこ? 無事なの!?」
頭を左右に動かして龍我を探すが、部屋にはいなかった。
「別に人質というわけではないのだが……嫌な言い方をする男だ」
疑問に答えたのは葉加瀬であった。
「お嬢さん、僕はお父さんと駆けをすることにしたんだ」
そう言うと、ゆっくりと腕を上げ、壁を指差した。ちょうど死角であったため、雀女は首を前に傾けて差された先を見ようとした。
壁には埋め込み型の大型テレビがあり、画面には龍我とシンマオが映っていた。廊下を俯瞰で映したアングルから、監視カメラの映像であることが分かる。画面の隅には各部屋のカメラ映像もあり、手動で切り替えられるようだ。
「ここからシンマオ君を脱出させれば私はこれ以上君たちと関わらない。全て水に流すとなぁ」
「それで……できなかったら?」
出入口が完全に封鎖された状態で、監視カメラには他から出られそうな場所も見当たらない。雀女は脱出不可能なのではないかという懸念があった。
「シンマオ君を諦めてもらう、それだけでいい。僕はそれ以上望まない」
葉加瀬からしたら中道家の人間には興味の対象外というわけなのか、シンマオの独占以外を求めなかった。
「……だいたい、なんでこんなことするのよ」
「もう話した……中道君、お嬢さんに教えなさい」
「研究者の好奇心って奴だってさ。どこで、どんな風に作られたのかを解明したいって」
既に話を聞いていた玄麻から目的が明かされる。葉加瀬の思考回路は限りなく純粋であった。
龍我とシンマオは各部屋を探索し、脱出に使える道具がないか調べていた。
「あぁ~、全然ねぇなぁ。というかある訳ないよなぁ」
電動ドリルに匹敵するものが中々見つからない。見つかって試しても結局壁を開けられない。そんなことが続き、龍我もどんどん気持ちがしおらしくなっていた。
物が散乱している中、綺麗に清掃されたベッドを見つけると、その上で大の字に寝そべった。
「あぁ……、どーしたもんか」
龍我はボーっとして天井を見つめる。せっかくやる気に火が付いたというのに、再び消えそうであった。
「……いや、あれは!」
だが、部屋の隅に設置された一台のカメラが目に入り、やる気が再熱した。顔を上に向けたまま起き上がる。
「リューガ、アレは何アルか?」
同じ方向を見たシンマオも、カメラの存在を察知した。
「監視カメラだ……葉加瀬が見ているかもしれない」
龍我はカメラが映す範囲を確認しはじめる。床に置かれた物々を手で押し出し、平らなスペースを作った。
そのスペースに正座をしたかと思うと、手を床に付いて頭を下げた。
「お願いします!! ここから出してください!」
プライドを完全に捨てた土下座であった。額に床を付け、精一杯の大声で、いるかどうかも分からない相手に懇願をする。
「聞こえているか分かりませんが、シンマオと一緒に、俺は出たいんです! そのためなら……どんな事でもします! 俺にできることなら、何でもやりますからぁ!」
感情が溢れ、声が荒ぶりはじめる。
見た事のない龍我の様子に、シンマオは何も言わずポカンと見つめていた。
ブブブブブ──という音がしたのはその時である。
「何アルか?」
シンマオの声に反応し、龍我も首を後ろに回す。そこには見覚えのある、卵型の物体がブルブルと震えていた。
「これは……あの時の……!」
二日前、裏山に落下した物体だ。それから、卵型の物体に超常的な変化が現れる。
卵型の物体から一対の羽根が出現し、宙に浮き始めた。さらにその物体は変形を始め、蜂のような姿になった。尻部には針の代わりに鋭い刃が取り付けられていて、獲物を欲するかの如くギラりと光を反射させる。
「フシャアアアアア!!」
縦に割れる顎を開くと、攻撃的な威嚇の声を発生させた。
一部始終を葉加瀬たちも監視していた。
「おいおい! なんですかいありゃ!」
玄麻は食いつくように画面を凝視。画面から音は聞こえないが、蜂型のメカからは危険な圧が伝わっていく。
「ブレードビー、と僕は名付けた」
ネーミングから外見が容易に想像つく。玄麻たちの脳裏に強くこびりついた。
映像ではブレードビーが龍我たちをひたすら追いかけていた。動きはそれほど早くないものの、広くない空間で延々と追われているプレッシャーが画面越しに伝わる。
「シンマオ君から墜落した場所を聞いてねぇ。同じようなものが見つからないか、ハミータと探していたら発見できたんだよ」
葉加瀬があの時裏山にいた理由が判明した。ブレードビーを捕獲した理由もまた、好奇心によるものだった。
「僕も最初はびっくりした。急に襲い掛かってくるのだから。いやぁ、また再起動してしまうとは……」
ブレードビーの行動は葉加瀬の指示によるものではなかった。彼自身も追いかけられ、結局手名付けることができなかったらしい。
「賭けは中止中止! 俺たちの負けでいいからさ! 早く脱出させろ!」
そんな危ないものといつまでも一緒にさせていいわけがない。玄麻は葉加瀬に掴みかかって叫んだ。
「そうは言っても……部屋の開放は時限式だから無理なんだ」
「はいぃ……マジかいな……」
顔面蒼白になる玄麻。言葉もマトモに発せなくなり、膝から崩れ落ちる。
「ブレードビーはどこかの個室に閉じ込めてしまえば対策できるので、それを期待するしかありません」
ハミータは、せめてもの慰めになるであろう言葉をかけた。




