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No.72 集うチカラ②

「――いぃぃやっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 テンションの高い声がし、セントーの顔面に金属製ブーツの蹴りが炸裂した。駆け抜けていくボード状の金属。その軌跡が魔法陣を描くと蹴り飛ばされたセントーの頭上から、直径3メートルもの雷の柱が落ちて派手な音と光をまき散らす。着地したアークがシュザリアとクロエを振り向くと、にっと笑顔を見せる。

「久しぶり!」

「アーク!?」

 まだ小さいが、背が伸び、髪型も服装も変わっているアークにシュザリアが驚いた声を上げる。

「うん。どう、登場かっこ良かった?」

「ええ、助かったけれど……まだ、あれは動くみたいよ」

 クロエが言い、アークはセントーを肩越しに見た。剣で体を支えるようにしながら起き上がっている。しかし、ダメージはちゃんとあるようだった。

「うわ、丈夫だね……。あれ、セブンは?」

「まだ見つからないの」

「嘘でしょ? そろそろ見つかったかと思ってお迎え来たのに……。まあ、いいや。セブンの代わりにぼくがやっつけるよ」

 率先して誰かの陰に隠れるばかりだったアークが背を向ける。その成長にクロエは感心していた。シュザリアもすっかり成長したアークに驚いていて、それよりもノアに興味を惹かれていた。

「お前……このおれを邪魔したな?」

「邪魔だった? ごめんね」

「ごめんなどと、このセントー様を何だと心得ているのだ!?」

 怒号とともにセントーはアークの足下と頭上を空けた4面の魔法陣を展開した。前後左右がそれに阻まれるが、アークはブーツで思い切り正面の魔法陣を蹴ると、そこが破れて脱出してしまう。均衡の取れなくなった魔法陣は暴発したが、体を掬うようにして飛んできたノアに足をかけてまっすぐセントーへ向かう。

「魔界の王様でもないんでしょ?」

 一瞬でセントーの目前へ迫ると、そのヘルムを軽く叩いた。そこに魔法陣が展開され、アークはそのまますれ違っていく。振り向いたセントーのヘルムが輝き、激しい爆発を起こした。

掌の革命(ハンド・ボム)――」

 セントーは動かなくなり、アークはゆっくりノアでシュザリアとクロエに近づいた。ノアから飛び降りるとプレートになってポケットへしまう。

「どう? 強くなったでしょ?」

「アーク、すごい! 何、何、何だったの、あの乗り物!」

「あれはね、ノアって言ってぼくが造った新しい金属と、ぼくの全てを詰め込んだ魔術具なんだよ」

 得意気に言ってアークはプレート状のノアをシュザリアに見せた。シュザリアは興味津々でノアを眺め回す。

「どうやってピンポイントでここへ来られたの?」

「ああ、ぼくがリングあげたでしょ? あれと、ぼくの持ってるチェーンがセットの魔術具でさ、どんなに遠い距離でも連れていってくれるようになってたの。1回きりしか使えないんだけど。とにかく、会えて良かった」


 魔界という場所は力こそが全てあると言われるが、その理由は縄張りに強い力を持つ主がいるという点だ。地上のように国という単位の中に割り振られた支配者ではなく、ただただ、そこにいて一番強かったからその辺り一帯を支配する、という原理に基づく。そしてその中でも特に強力な者は魔界の王と呼ばれ、それはまさに地上でいう王のごとく君臨する絶対的支配者であった。

 魔界の住民は支配者が気に入らないために打倒しようとする。しかし、打倒しようにも魔界の王はとても強い。そのために手当たり次第、喧嘩を吹っかけては強くなっていくというのが全ての行動原理であった。魔界が危険であると言うのは環境的な面も確かにあるが、そこにいる住民のことも含んでいた。

「ねえ、魔界の王様って会った?」

「魔界の王には会ったことないよね?」

 シュザリア達はどうにか腰を下ろせる岩陰を見つけ、そこで休憩していいた。アークの質問にシュザリアが答え、クロエに同意を求める。

「ええ。さっきのセントーみたいな魔物には何度も会ってるけれど、魔界の王ともなると一度も見たことはないわよ」

 クロエにも言われ、アークは残念そうに肩を落とした。

「何だあ……。魔界の王ってどんなのか見てみたい」

「アークは随分と変わったのね。……どれくらい経ったのかしら?」

「知らないの? 2年も経ったんだよ。ぼく、これでも3年生の主席」

 2年という単語にシュザリアとクロエは揃って顔をしかめていた。

「それ、わたしはもう……学院に戻れない感じかしら?」

「2年ってことは、わたしはもう4年生なの? どうしよう、お城戻らなきゃならなくなっちゃう……」

 へこんでしまった2人をどう慰めていいかも浮かばず、アークは苦笑する。

「とにかくさ、セブンを探して地上に早く帰ろうよ。どうやって探してたの? 手がかりとかあった?」

「どうやっても何も、歩き回るしかしてないよ」

「手がかりなんか一切なしどころか、何が手がかりかさえ分からないわ」

 2年などあっという間に過ぎていくのであろう回答にアークは肩を落とす。2年前、自分もついて行った方が良かったのかも知れないと少し思う。

「ノープランでよく地上の方に戻って来てるよね」

「え、そうなの?」

「そうだよ。だからわざわざ迎えに来たのにセブンはいないし、本当にただ歩き回ってるだけだったなんて……」

「じゃああなたは分かるの?」

「分かるよ。要するに魔界っていうのはとんでもなく魔力が満ちてる状態でしょ。魔界の階段はその中でも特に濃度が高くなってるんだから、そっちの方へ向かっていけばいい。しかも目印らしい場所なんて広すぎてないから、魔界の住人が集まるのは階段の付近。その辺を縄張りにしている魔物に聞いていけばセブンはきっと目立つからすぐ情報なんて集まるんだよ」

 アークの説明にシュザリアとクロエは納得していた。嘆息し、アークはノアをボードにして足をかけた。地面から数センチほど浮上してノアは緩やかに滑走する。休憩している岩陰の周りを暇そうに回る。

「ねえ、アーク。それ、面白そう」

「難しいけど、やってみる?」

 シュザリアに声をかけられてアークがノアで彼女に近づく。ノアを降りてシュザリアに渡す。早速ノアに両足で乗るシュザリアだが、ぴくりとも動かない。

「どうすれば動くの?」

「んー……魔力を込めれば動くんだけど――」

 説明途中でシュザリアがノアに魔力を込めると、ふわりと浮き上がった。かと思うと、急にとんでもない速さでノアが走り出す。アークが止めようとする間もなくシュザリアの姿が見えなくなるほど遠くまで行ってしまった。それを呆然とアークは見送り、クロエを向いて困った顔をしながら言葉を続ける。

「魔力消費を抑えるために少しの魔力で動くようになってるから、張り切って魔力を込めると、とっても速いし、止めるのにコツがいるんだけど……」

「追いかけられる?」

「追いかけるのは、ちょっと……。ノアをぼくのところに戻すことは出来るんだけど、シュザリアは置いてけぼりになっちゃうから」

「仕方ないわね。探しに行きましょう。その内止まるでしょう?」

「うん。多分、あの速さだと秒速60メートルはあったから、短くても3キロ先にはいると思いたい……」

 肩を落としてアークは走り出した。ノアに乗れれば3キロなんてあっという間なのに足を使わないといけない。すぐに息切れしてきて、どうしてか平気な顔をしているクロエを何となく見た。

「何で、余裕なの?」

「あなたがノアを開発したように、わたし達もそれなりに魔力の使い方を知ったのよ」

 ぱちぱちとまばたきをしてからアークは、ふうん、と返事をした。それから、頭の中でノアをどう改良するかと考えた。

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