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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は打ち明ける


「ありがとう。よく分かった。辛い記憶だと思うが、全て話してくれたことに感謝する」

「本当に。ありがとうございます。助かりました。ちなみにナタリアさんのお話もうかがってもよろしいかしら? あなたはなにか、頭を乗っ取られたりした?」

「してないですわよ。まあ皆が突然イカれた行動をしはじめるものだから、別世界に放り込まれた気持ちにはなったけれど」


カイルの話を聞いたついでにナタリアにも水を向けてみるが、まあ予想通りの答えが返ってきた。あの日、最初から最後まで唯一まともな意識を保ってたのはナタリアだけかもしれない。どうやら彼女には強制力は適応されないようだ。


「ま、強いていうなら、あの女が夜会で常識外れの行動をしていた時、異様に頭に来たくらいですわ! 我ながら今考えるとあの怒りは普段より激しかったような気もするけれど……まあ普段あんな無礼な人は見ませんものね。普段よりイラつくのは当たり前だと考えると、やはり私はあの日なんともありませんでしたわよ」


ふふんと胸をそらすナタリア。そうかそうか。まあもしかしたら彼女にも強制力は来ていたのかもしれないけど、誤差みたいなものだったか。


「そうでしたの。2人とも、話してくれてありがとう。それでは……」

「ああ、今度は俺たちの番だな」


私はアルベルトを、アルベルトは私を見た。


正直ここからは話すのに躊躇いもある。だって信じてもらえるかも分からないほど荒唐無稽な話をするわけだから、なるべく人に話したいことじゃない。


――それでも。


私はこちらを見つめる2人のやや不安そうな顔を見た。


ここまで巻き込まれ、訳の分からない状況を体験した2人には知る権利があるだろう。


視線を戻すと、アルベルトの赤い瞳が穏やかな色をたたえてこちらを見ている。彼に頷いてみせると、そっと手を握られた。


思わず瞬きをした私に微笑むと、アルベルトは安心させるようにぎゅっと手に力を込めたあと、これまでのこと、強制力のこと、乙女ゲームについて、全てを話すべく口を開く。


不安もあるけど、力強いその手の温もりに勇気をもらう。


私はぎゅっと手を握り返して、背筋を伸ばしてしっかりと覚悟を決めた。


ーーーーーーー


「お二人共、話してくれてありがとうございます」


話が終わると、しばらくしてカイルがそう言った。

私たちの長く複雑で荒唐無稽な話を聞き、色々な質問や意見などを交わしたあとのことである。


たくさんのことを話し合ったあと、しばらく考えさせてくれと黙考しだした2人を私たちはじっと待っていたが、ついにカイルが結論を出したようだ。


「色々考えた結果、俺は2人を信じることにした。確かにありえない話だけど、そうじゃなきゃ説明がつかないこととか……なによりあのおぞましい体験を考えると……」

「ありがとうございます……!」


そう切り出したカイルに私は心からのお礼を言った。本当に、信じてくれてありがとう。


「私も一応信じてあげますわ」


カイルに続いてナタリアが憮然とした声で言った。


「まあ、カイル様じゃないですけど、あの時の皆さんの意味不明な行動とか、あれだけ騒いだのに誰も来なかったこととか……。説明がつかないことが沢山ありすぎでしたわ。私は皆さんみたいにおぞましい体験とやらはしていないけど、一応信じることにします」

「ありがとう、カーマイン嬢。そう言ってくれて本当に感謝する」


上から目線で信じることを告げたナタリアは、アルベルトにお礼を言われてにへらっと笑み崩れて嬉しそうにした。


おい。本当に信じたんだろうな? アルベルトに同調しただけじゃないよね? ……まあさすがにそれはないか。


と、その時、柱時計がボーンと鳴って3時を告げた。あれ、もうそんな時間?


「えーっと、ひとまず区切りがいいということで、ここで一旦甘いものでもいかがですか」


それをきっかけとしてカイルが一旦場を仕切り直した。


さて。

休憩時間を経た私たちは早速、対策会議に入った。


私とアルベルト以外の人と初めて対策会議をする記念すべき話し合いは、アルベルトの体験談から始まった。


そう。ズバリ、あの日のアルベルトの精神状態はどうなっていたのか。


被害者アルベルトの証言によると、突然あらわれたヒロインの話を聞きながら怒りと絶望が湧いてきてこんなことなら一緒に死んでやると強烈に思ったらしい。ここまではカイルと一緒だね。そして気づいたら物陰から飛び出してヒロインを責めていた。


「ここでセリーナに魔導銃で撃たれて我に返って咄嗟に目をつぶって耳も塞いで全てをシャットアウトした」

「なるほど……。ちなみになんですけど、それ効果の程はいかがでしたか?」


アルベルトの答えは簡潔だった。やらないよりマシ。なるほど。やはり痛みの方が効果があるんだな。そんなわけで正気と狂気の狭間におり私を騙そうとしたと。アルベルトはあの時の罠についてあっさり認めた。やはりか。


そして私がそれに気づくきっかけとなったナタリアは小鼻を膨らませて得意げだ。

アルベルトとカイルにも感謝と賞賛をされた彼女はますますふんぞり返った。ふん、そのまま海老反りになってしまえ。……まあ感謝してるけどさ!


「しかしセリーナが気づいてくれてよかったよ。あのままだと俺はカイルに負けていただろうから、殺されていたところだった」


私が心の中でナタリアに対し、けっ、という気持ちになっていた時、ぽつりとアルベルトがそんなことを呟いた。


え? そんな危機的状況だったの? アルベルトそんなに追い詰められてたの?


「まあ! そんなことありませんわ! アルベルト殿下は文武両道、魔力量も凄まじいではありませんか! カイル様なんかに負けたりしませんわよ!」


私が驚いているとナタリアが大声でカイルをこき下ろしつつアルベルトを賞賛した。ぶれないなお前は。

アルベルトは苦笑して首を横に振る。うーん、でもぶっちゃけ……


「ぶっちゃけお二人ってどちらが強いんですか?」

「それはカイルに決まっているだろう」


私の不躾な問いにアルベルトがこともなげに答え、カイルは苦笑していたが否定はしなかった。

へー、そうなんだ。


「それはそうだよ。殿下は色々とやることがあって忙しい中を縫って片手間に鍛錬をしてるけど、俺は鍛錬がメインだしなにより騎士見習いだからね……。むしろあそこまで俺と渡り合えた殿下はすごいと思う」

「たしかに。そう言われればそうですね」


言われてみれば、別に強さを求めていないアルベルトが騎士団長目指して努力してるカイルより弱いのは当たり前だった。


「ええ、そんなこと……」

「ありがとう、カーマイン嬢。気持ちだけ受け取っておこう」


そんな解説にも不満そうな声を漏らすナタリアはアルベルトに宥められて渋々納得した。


私は生暖かい目で彼女を見た。

カイルとナタリアに蜜月が訪れるのは一体いつになることやら……。


「話は変わるが、カイルは絶対に攻略キャラの1人だと思っていたんだが、どうやら違うようだな」

「ええ、そうですね……。強制力の発動条件とかを考えても、むしろ私寄りな気がします」


分析した結果、カイルはアッシュに好意的に接するリランを見ると嫉妬に狂い、アッシュを攻撃しようとすることが分かった。


リランにデレデレするアルベルトを見た私が嫉妬に狂ってリランを攻撃しようとするのと非常に良く似ている。


「ひょっとしてカイルはセリーナと同じ悪役なんじゃないか。本当の攻略キャラはアッシュだった可能性が高い気がするんだが」

「私も同感です」


側室の息子で実家から冷遇され、正妻から嫌がらせを受け、理想の息子である兄と比較され続けグレた不良。

努力したって意味なんてないんだ! この世はクソだ!

と叫ぶアッシュは、とても攻略キャラっぽくないだろうか。


ヒロインがつけ込む隙が十二分にある。

ヒロインは基本思春期をこじらせた奴を堕とすが、思春期をこじらせた奴とは心に隙があるやつと同義だ。


1週間前、アッシュに向かって怒鳴った言葉はおそらくカイルの本心なのだろうが、その思想から鑑みるに、彼の心にはブレがなく隙なんてないように思える。


この2つを考えると攻略キャラに相応しいのはカイルよりアッシュだな。うん。


私と同じようなことをアルベルトも思っていたらしく、彼も同じような仮説を披露した。


「つまりカイルは悪役だったということか? 悪役なんてお前以外にいたんだな」

「ええ……、私も知りませんでした。少なくとも幼なじみはカイル様の存在に触れませんでしたね。でも彼女が何も言っていなかったということは、アルベルト様のルートには出てこないはずですので……。おそらくアッシュ様のルート限定で出てくる悪役なのではないでしょうか?」

「ああ、なるほどな……。そうか、そんな可能性もあるのか」


まさかの事実である。同士よ! 私以外にもいただなんて! 私は親しみを込めてカイルに握手を求めたが、生暖かい笑顔で拒否された。ええーなんでよ薄情者。


「リランが言っていたバッドエンドという言葉と、ハイレインとリランの関係についてだが」


アルベルトが緩みかけた場を仕切り直した。


「まずバッドエンドとはなんだ?」

「文字通り捉えれば悪い結末ってことかな? セリーナ嬢」


アルベルトとカイルの疑問に頷きながら私は説明を始める。


「はい。選択肢とかに失敗しすぎたら悪い結末になることです。今回のことから考えるとこのゲームにおけるバッドエンドとは、攻略キャラに無理心中されることでしょうか……」

「ああ……、そうか。アッシュを堕とそうとしたセリフを、攻略途中の殿下が聞いてしまったことで嫉妬に狂ってバッドエンドに突入したと」


納得したように頷くカイルにアルベルトが付け加える。


「あとはお前もだな、カイル。あそこに俺が来たことでお前に働く強制力が途中でねじ曲げられたのも原因の1つじゃないか?」

「たしかカイル様は、俺のものにするのは難しいからあの世に攫う、とか気色悪いことを言ってましたわよ」


ナタリアの証言にカイルが黒歴史を抉られて顔を歪めた。やめてやれ……。


なるほどね。カイルにかけられた強制力も途中で変わっていたし、アルベルトの登場が鍵となったのかな。


というかカイルの頭の中が引っかき回されたのも途中でルートが変わったからだろうな。だから彼は強制力が消えた後、とんでもなく体調を崩したんだろう。


いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。

これから夏過ぎまで忙しくなるので更新頻度が落ちると思います、すみません……。

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