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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第3章 闘技場とハーレム
49/75

番外編3:ユウリの大冒険(2)

+++


じぃや


 元気ですか? ぼくは元気です。


 お手紙を書くのは、初めてなので、なんだかちょっぴり

 きんちょうしています。


 ぶじにギルバートさんの家までたどりつけました。


 外の世界はずっと広くて、おどろきつづきでした。


 1人でこんなにとおくまで来たのは初めてで、怖いこともたくさんありました。

 

 だけど、エルおにぃのことを考えたら、なんだかたくさん力がわきました。


 しんぱいしないでください。


 またお手紙を書きます。


                ユウリ

 

+++



「丸太の上って書きにくいんだなぁ」


草木が鬱蒼と茂る森の中、小さな背中を丸めたユウリの姿があった。

ユウリはサムと会った翌日に家を出発して、今日までに数日が経った。

キサスの街までは残り半分以下と思われた。


今いる場所は森の奥深く。

辺りは薄暗く、もうすぐ夜を迎える時間帯だ。


「うんしょ、っと」


ユウリは先ほどまでおじいさんへの手紙を書く台としていた丸太の上に座った。

大きな丸太ではないが足が地面に着かないため、ぶらぶらと足を揺らしている。


「この手紙を運んでもらうなら風の精霊さんかなぁ。でものんびり屋さんだからなぁ。じぃやに届く頃には、きっとボクがギルバートさんの家まで着いてるよね」


しばらく思案していたが、手紙を四つ折りに折りたたむと自分のポケットにしまった。


「明日も無事に過ごせたら、手紙をじぃやに送ろう」


ユウリは小さく息を吐く。

森はしんと静まり返っていた。


それからユウリは傍らに小さく収まっているルイを見つめると、その竜の頭をゆっくりと撫でた。

ルイは先ほどまで巨大化した身体でユウリを乗せて上空を飛び回っていた。


「くぅん……」


ルイは気持ちよさそうに目を細めて、撫でられるがままでいる。


「ごめんね。本当はボクの薬飲んでおっきくなりたくなんかないよね」


その言葉にルイは少しだけ目を開いた。

言葉が届いているかは定かではないが、その表情にユウリはどことなく安心したようだった。


しばらく静寂な森の中で、ユウリとルイはそのまま休憩していた。

長旅でかなり疲弊しているようだった。



カサカサ……


カサカサ……



その時、遠くの草陰で音がした。


「だ、誰……!?」


ユウリは立ち上がり、辺りを見回す。

それから木の陰にそっと身を隠した。


その顔に緊張感が走る。


ルイも目を見開いていて、辺りの様子をうかがっている。


ユウリは奥の草陰で大きな黒い影がうごめくのを見つけた。

それはどうやら何か大きな獣のようだった。


ユウリは緊張した面持ちで足元にいるルイに目を向けた。


「ルイ……はもう動けないよね。……ボクが無理をさせたもんね」


ユウリは小声でルイに話しかける。

それから膝を曲げてしゃがむと、ルイをゆっくりと抱きかかえた。

通常のルイはそれほど大きくないが、それでもその小さな胸にずっしりとその重量感を表していた。


「……走るよ」


一気に音のした反対側へと駆けていく。

足元は前日の雨でぬかるんでいて、走るたび泥が跳ねていく。


「ガウッ……!」


後ろの方で獣のようなうなり声が唸った。

それからドシッドシッと大きく、そして速い足音が追いかけるように聞こえてきた。


「もう、気づかれた……!」


それでもユウリは懸命に走る。

小さな足がひょこひょこと、今にも空回りしてしまいそうだった。

胸のルイは主人を心配そうに見つめるが、動ける状態ではないようだった。


「追いつかれちゃう……」


それでも懸命に走る。

足元で地面がビチャビチャと音を立てる。

静かな森の中でユウリの息を吐く音と、獣の唸り声だけが辺りに響いていく。


「……このままじゃ……どうすれば」


ユウリは意を決して後ろを振り向いた。


―――そこには大きな熊のような獣がいた。


そのあまりの大きさに、ユウリはヒッ、と声にならない悲鳴を上げた。

しかし直ぐに表情を引き締めると、素早くルイを地面に置いた。

それから両の手の人差し指を合わせると、小さく俯き目を瞑った。


「……風の精霊さん……! お願い!」


ユウリの手元に緑色の光がユラユラと現れた。

その輪郭は曖昧で、かろうじて人のような姿をしているのが見える。


―――ファサ……


その瞬間、辺り一面の草木が揺れた。


ユウリの目前に迫っていた熊の獣が立ち止まる。

その全身の茶色い体毛がゆさゆさと波打った。


しかし、辺りを揺らした風は直ぐに止んでしまう。

熊の獣がユウリを睨む。


「ガルルル……」


ユウリの手元に居た精霊の光は直ぐに消えてしまった。


「だめだよ、ボクの力じゃ……」


熊の獣は先ほどより興奮状態に見えた。

ユウリを明らかに敵視した目を向けている。

それからしばらくユウリと熊の獣のにらみ合いが続いた。


今にも飛び掛かってきそうな勢いの中、ユウリはなんとか平静を保っていた。


そして、ゆっくりと、そして小さく口を開いた。

ユウリは足元のルイを見ずに、右に視線だけを向けた。


「ルイ……あっちの木陰に隠れてて、いいよね」


ルイはユウリが熊の獣から目を離せないのを分かっているのか、それでも小さく頷いたように見えた。


「…………行って!」


―――その瞬間、ユウリは一目散に後ろに駆けだした。


「……ガルル!!」


熊の獣はユウリをドスドスと物凄い足音を立てながら追いかける。


「……大丈夫、大丈夫。怖くない。……チャンスは一度だけ」


ユウリは懸命に足を動かしながら、上着の懐に右手を入れる。

それから小さな小瓶を右手に取った。

小瓶の中には蛍光しているかのような、不気味なピンクの液体がギラギラと光っていた。


―――足を止める。


足元の泥がビチャリと音を立てる。

後ろを振り向くと、ユウリの眼前にはもう熊の獣が迫っていた。


「……!」


ユウリは左手で小瓶のコルク栓を抜く。

小瓶はキュポン、と小気味良い音を立てた。


「ごめんね……!」


ユウリはその小瓶を熊の獣の顔面に向かって投げつけた。

ピンクの液体が零れて、その顔面を濡らした。


熊の獣は液体が目に入ったのか、突然のことにバタバタと暴れまわった。

その様子を見てユウリは近くの木の後ろへと隠れた。

辺り一面からは鼻を塞ぎたくなるほどの強烈な甘い香りが漂っていた。


「ハァ……ハァ……」


ユウリは息を整える。


すると辺りで、ざわざわと空気を揺らすような大量の何かが動く気配がした。

不穏な空気が漂う。


ユウリの耳元で突然「ぶぅん」と何かの羽音が聞こえた。

その音にビクッとユウリは肩をぶるっと揺らした。


それからユウリは木の陰からそっと顔だけを出し、獣のいた方角に目を向けた。



―――熊の獣の顔には無数の虫が群がっていた。


そこには羽音を響かせた虫たちが飛び回り、足元にも獣の顔面目掛けて虫が這い寄っている。

熊の獣はそれらの群がる虫を懸命に払おうと暴れ回っている。


「ごめんね……」


ユウリは小さく呟いた。

それからルイの隠れた木陰まで走り、ルイを抱きかかえ、一目散に別の方角へ駆け出した。





「なんとか、逃げ切れた……」


ユウリはルイを地面に置くと、ドサッと力なくその場に座り込んだ。

その顔面は疲れ切っているように見えた。


「……森の中では何かに使えるかもって思ってたけど。まさか虫寄せの薬がこんな形で役立つなんて」


ルイは心配そうに主人の顔を見つめた。

その目はしぼんでいで、まるで捨てられた子犬のような表情だった。

ルイの顔を見つめて、ユウリは引きつりながらも笑みを浮かべた。


「怖い思いをさせたね……。大丈夫だよ。この森さえ、明日中に抜けられれば、きっと」


それから小さな手の平で、ゆっくりとルイの頭をよしよしと撫でていく。

辺りに獣の気配はなく、森はまた静寂を取り戻していた。

ユウリは辺りを見回すとほっと一息を吐いた。


「……ねぇ、おにぃに会いたいよ」


―――その声に応答する音はない。


静寂の中でポツリ、とユウリの一言だけが取り残される。

その瞬間、目に涙が零れそうになったのか。


慌ててルイを撫でていた手を引っ込めて、ユウリは自身の目を抑えた。


「……泣かないって決めたんだから!」


ユウリは座った姿勢のまま、ルイをひょいと持ち上げた。

それから人形に話しかけるかのように、ルイと向き合った。


「がんばるよ、ボク!」


それからユウリは、目の前のルイに向かって、「えへへ」と微笑んだ。


ルイはそんな主人の顔を見て不思議そうな表情をしてから、ふわわぁ、と大きな口を開けてあくびをした。


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