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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第3章 闘技場とハーレム
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新たな旅のパーティ

「……何を見た」


ギルバートは無表情のまま俺に問いただす。


「4年前の魔術闘技祭の決勝戦の日……この家での、ブルーノ、とギルバートの会話」


激怒する―――。

そう思って思わず目を閉じたが一向に怒鳴り声は聞こえてこない。

おそるおそる目を開けると、ギルバートは頭を抱えたまま、ため息を吐いた。

呆れ―――か。


「……その、悪かった。勝手にギルバートの昔を覗き込んだりして」

「いや、構わない。……むしろ俺こそ、悪かった」


しかし予想外にギルバートは俺に対して謝罪をした。

俺は先ほど鏡の中で見た、2人のやりとりを思い出す。


「……好きだったんだな。ブルーノって人のこと」


その言葉にギルバートは肯定することも、首を縦に振ることもなかった。

ただギルバートの目元が少しだけ優しくなった、そんな気がした。


「……お前が毒に侵されて、コルリの家に来た時、あいつが生きて帰ってきたんじゃないのか、て衝撃だった。……慌てて治癒したら、魔力を使い切った。……バカだろ」


ギルバートの口元にふっと笑みが浮かぶ。


「まぁ直ぐにお前とあいつが違うってわかったけどな。顔も違うし、背丈も違うし、中身も、な。……だけど、俺はもっと決定的なものが欲しかった、あいつとお前が違う確証が。……だからお前を魔術闘技祭に無理やり出場させた。……ボロボロに負けるお前を見てやろう、と思ってな」

「……そういうことか、なるほどな」


自身にメリットのない提案をギルバートが俺にしたことについて、ずっと疑問だった。

しかし今、ようやく納得することができた。


ギルバートが突如ぐっと、拳に力を込めたのがわかった。

その眉間にまた皴が寄っていく。


「……だが俺の予想に反して、お前はどんどん勝ち上がっていった。そして毎晩、毎晩、お前に魔力を渡されるたび、あいつとお前の顔が重なって……試されてるみてぇだった」


毎晩の儀式の中で、冷静な表情の奥で、ぐっと何かを堪えているようだったのは―――

魔女の力によるものだけではなく、そういった理由があったのか。

俺はそうとは知らずに悪いことをしたのではないか、と少し罪悪感を覚えた。


「決勝戦の前の夜、伝統衣装のローブを着てお前が現れた時……俺はお前に勝ってやらなきゃ、と思った」


その時、俺の頭にはある1つの事実が引っかかっていたことを思い出す。

決勝戦の試合のことで、どうしても一つギルバートに尋ねなければいけないことがあった。


「……ごめん、これは意地悪じゃなく聞きたいことなんだが。ギルバート……本当は、勝ってたよな?」


―――それは試合が終わってから、ずっと考えていたことだった。


ギルバートに視界を奪われ、足の自由を奪われ、俺はその瞬間に負けていたはずだった。

なぜなら、その間にギルバートが俺に止めを刺す時間は十分にあったからだ。

本当ならサムからの呼びかけに俺が応えるような暇はなかったんじゃないか、と。


「……ああ。……あの時、お前の名を叫ぶ声が会場から聞こえて、それからお前が……暗闇の中で笑った顔が俺の目には見えた。その顔がな……」


ギルバートが口ごもる。


「一瞬重なって、な……。あいつの屈託のない笑顔に……似ていたんだ」

「それでブルーノを思い出して、ギルバートは躊躇、した」


その目元がまた優しくなる。

俺はその顔を見て、先ほど鏡の中で見た青年とギルバートの会話を思い出していた。


《ギルはね……優しいから》


ギルバートは無表情に戻ると、俺の顔をまじまじと見つめた。


「実はな。一度お前の修行を見に行った。お前は気付いてないと思うが」

「それ、本当か?」


修行というのは、もちろん俺と師匠の修行の事だろう。


―――いつの話なんだ?


ギルバートが修行を見に来てたとは全く知らなかった。

話題に上がった事すら、修行初日の時くらいのはずだ。


「それも本当は鼻で笑ってやるつもりだったんだけどな」

「……ブレないなぁ全く」


ギルバートは再びため息を吐く。


「……でも、真剣に挑むお前がいた。……本当はこんなことしているのも、俺のくだらない提案のせいだというのに、な」


突然、視線が合う。

ギルバートの瞳の中が、ギラリと輝く。

俺の胸が少しだけざわついていた。


「お前が優勝したのは、俺が躊躇したからだ」


―――わかっている。本当は負けたのは俺の方。

―――あの時、サムに呼びかけられて俺が笑った顔が、たまたまブルーノという青年に似ていたから。


「……だけど、お前の努力の力でもある」

「……え?」


その言葉の内容を理解した途端、目の奥がジンとした。


「ギ、ギルバート……!」


今、ギルバートが俺のことを認めている。


―――皮肉なんかじゃなくて。


「……お前が優勝して、わかった。お前はやっぱり、あいつとは……違うんだ」


俺は感動のあまり、感情が溢れてしまい、思わずギルバートに飛びつこうとした。

その瞬間、視界が閉ざされて、顔に衝撃が走る。

顔を強く右手で掴まれていた。


「やめろ! 俺に、触るんじゃねぇ」


しかし、その声に明確な怒気はなかった。

ギルバートはゆっくり手を離すと、深くため息を吐いた。


「第一あいつの方が、お前と比べられないくらいまともだった。……お前は、性格が悪すぎる」

「ギルバートにそう言われるとやっぱり、ちょっとへこむな」


気付けば、先ほどまでのピリッとした空気が失われていた。

ずっとギスギスしていた俺とギルバートの間に流れている空気が、正常に戻りつつある、と感じていた。

俺は肩の力を抜いた。


「そういえばギルバートはなんでここにいるんだ? 今日は一晩、闘技場の救護室で休むって」

「あ? お前ごときの傷なんて治る、って出てきてやった。それに、お前がその鏡でろくでもない事するって目に見えていたからな」

「……すみません」


―――お前ごとき。

その言い方が、流石にギルバートらしくて思わず笑ってしまう。

でも見下しているような含みは―――今は、ない。


「そういえば10万ギルは俺のものだからな」

「え」

「もともとその約束だろう? 俺の過去を勝手に覗き見したんだ。それでチャラにしてやるよ」


コルリの街に戻る必要はなくなり、お金も少し、などという淡い期待は見事に打ち砕かれた。

それを問われてしまってはしょうがない。

ギルバートに怒られなかっただけ、今は良しとするしかない。


俺は深呼吸をした。


「俺もさ。言いたいことが……あるんだ。実は……」




―――それは少しばかりの罪悪感の気持ちからだった。




ギルバートの秘密を知ってしまった償いなのだろうか。

それとも何かを期待する自分がそこにいたのだろうか。


男が好きだという人間に会ったのは、ギルバートが初めてだった。


―――今、俺は打ち明けようとしている。


自分という人間について。



―――魔女の呪いの内容全てを話すことはできない。

―――でも俺の秘密全てを話さなくてもいい理由にはならない。



しかし、俺の口より先にギルバートの口が開いた。



「……闘技場でお前の名前を叫んでた奴―――サムだっけ、か。……あいつが好きなんだろ」


頭の中がパチパチとして、思考がショートした。

次に口に出そうとした言葉の―――更に一歩先、を言われた。

言葉が続かない。


「……え?」


その俺の反応が意外だったのか、ギルバートは逆に驚いた表情をした。


「いや、いい……興味ねぇから」


ギルバートはニヤリとした笑みを浮かべる。

俺は突然恥ずかしくなって、顔が熱くなっていくのが分かった。


「なぁ、ギルバート。……お前、性格悪いな」

「お前には、言われたくねぇよ」


俺の言葉に間髪入れずにギルバートはそう返す。

そんなやり取りをギルバートと出来ることが嬉しくて、俺は思わず声を出して笑った。


―――笑っている中で、俺は次にギルバートに言う言葉を考えていた。




「一緒にこれから、旅をしてくれないか」




俺がそう声に出すと、ギルバートは眉間に皴を寄せた。


「なんでだよ。……お前は俺が嫌いだろ」


―――ギルバートを嫌い?

俺はその言葉の意味がわからなかった。


「……え? そんなことは一度も言ってないぞ」

「あ? だって俺は、何度もお前を嫌いだって言ったぞ」


ギルバートは俺に嫌いだと言って―――自分自身で俺を嫌いと思い込もうとした。

そして更に俺に嫌われようとしていた、という事だろうか。


それが近づきたくない一心なんだとしたら。

なんだかそれが面白くて、心の中で少しだけほくそ笑む。


―――正直に言って、いくら性格の悪い俺でも、命を助けられた恩を忘れているわけじゃない。


「俺があの時死にかけてた所を、ギルバートは苦手な治癒魔法で治してくれたんだろ。それがブルーノって人に似ていたって理由かもしれないけれどさ。でもそれは俺には関係ない。……いや確かに、この前まではなんでここまで嫌われてるんだろうって、ちょっと、その、しんどかったけどな」


俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、ギルバートは少しだけすまなさそうな顔をしたように見えた。


「でも事情も分かったし、ギルバートを嫌う理由は、俺にはないんだ」

「そうか……」

「もしギルバートが嫌なら、無理にとは言わない」


するとギルバートは俺から視線を逸らして、口をゆっくりと開けた。


「本当はあいつに似ているお前が嫌いだったんだ……。いや……嫌おうとした。……別に、お前自身が嫌いなわけじゃない」


その言葉に俺は笑みが抑えられなくなりそうで―――

なんとかそれを必死に堪えていた。


「じゃ、やっぱりもういいじゃないか。俺と一緒に旅を、しないか」


しかしギルバートは首を縦に振ろうとしない。

そして俺の目を見つめる。


「……俺にメリットは」

「ないよ」



俺はギルバートの目を真っすぐに見つめ返す。



「ただ、俺がギルバートと旅をしたいだけだ」



するとギルバートは今までになく、深く大きなため息を吐いた。



「……さっきの発言は撤回する。やっぱり俺は……お前のことが、嫌いだ」



そしてギルバートは俺の顔を見て、諦めたように笑った。


―――その笑い方が、鏡の中で見た穏やかな笑みに、少し似ている。


そんな気がした。





第3章 ~END~

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