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魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺  作者: ウミガメ
第3章 闘技場とハーレム
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優しい瞳

息が上がっていた。

目の前にいる人物の姿が、信じられなかった。

脳に、酸素が回っていかなくて、麻痺しているみたいだった。


―――髪、背丈、口元、形の良い耳。


「エル!!」


そして、その声が、さっき決勝戦中に聞いた声と同じ―――

サム、なんだ。

と、分かった途端、そのまま思わず飛びつきそうになった。


そして寸での位置で、立ち止まる。


「お、俺は……謎のウィルスに感染してるんだ……俺に触れちゃダメなんだ……」

「なんだよ、それ」


俺は謎の言い訳を披露する。

そしてサムが、優しく笑ってくれる。


―――その時、周辺の人々が俺の存在に気づいて、騒がしくなった。


「あれ、その衣装は」

「今さっきのエルネスト……じゃ、ないか?」


俺はフードをすっぽりと被った。


「こっちに来て」


そうサムに言って、俺は闘技場の外へ走り出していく。


 *


外に出て、人気の少ない脇の路地へと駆け込んだ。

追ってくる人が、どうやらいないことに安堵して、ため息をつく。


改めてサムの姿をまじまじと見つめた。


勝手に外に出てきたことに対して、サムが「いいのか?」と俺に目配せをした。


その眼が―――すごく優しく見えて。


その瞬間に、突然胸がぐっ、と締め付けられて、目の奥がジンとした。

何かが喉に詰まってしまったように、うまく声が出せなくなる。



「この後、表彰とか色々あるんじゃないか?」

「……いいよ、そんなの」


―――言いたいことがたくさんある。

―――言えなかったことがたくさんある。


でもその思いは、今突然の事に何一つうまく言葉として出てこない。


「……ごめん」

「……え?」


口をついて出た言葉は、その言葉だった。

何に対しての謝罪なのか、自分でもよくわからなかった。


「俺、サムの気持ちが……何にも、分かってなかったと思う」


サムと別れることになった最後の夜の事を思い出していた。


まだ外の空気は少し肌寒い頃で、星がたくさん輝いて綺麗な夜空だった。

でも、月明かりに照らされたサムの顔は歪んでいて。

翌朝、ドアの隙間にサムからの手紙があって、それ以来―――か。


あの日の事を、何度思い返していただろう。

その度に、何度胸が苦しくなっただろう。


「……いや、俺の方こそ、至らない自分をエルに押し付けた」

「そんなことない」


しばらく沈黙が流れる。

お互いに何を口に出していいのか、考えあぐねていた。


「……ハハ」


その沈黙を破ったのはサムだった。


「え? どうしたんだ?」

「……いや、やっぱり変わってないなって。エルは、そういう優しいところが」


「そうかな?」

「うん、変わってない。俺の知ってるエルだ。……何も、変わってない」


そう言ってサムは笑う。

その顔がやっぱり変わってなくてサムが好きだ、と俺も言いたかった。

だけど、それはうまく言葉に出てこなかった。


―――でも、きっと今はそれでいい。


そう今この瞬間、サムの笑う顔を見ながら思った。


「エルはこの街ですっかり人気者、みたいだね」

「そう、なんだか不思議なことにね」


思わずドキッとする。


それというのも魔女の力によるものである。

俺に負けた人々は熱血な信者となって、そしてその人らを中心に、あることないこと俺の素晴らしさを街で吹聴しているようだ。


「サムは、この街にはいつ着いてたんだ?」

「昨日だよ。今日、エルの試合が見れて良かった」


「そっか。……それで、どうやってこのキサスの街まで来たんだ?」

「……え? 自力だよ、ただの、自力」


―――そんな、まさか。


ギルバートが言うにはコルリの街からはここまで最低でも1ヵ月はかかるとのことだった。

確かに修行の期間、それだけの時間は経過していた。

俺の驚いた顔を見て、サムが説明を始める。


「幸いな事にさ。エルやラルフが置いていった荷物とかもあったし、泊まるはずだった宿代も返金してもらってお金もあったし。結構なんとかなったよ」


そう言うと、サムは手持ちの財布を取り出して、

それを―――逆さまにひっくり返した。


「まぁでも、ここに来てついに、ほぼ空になったけどね。……勝手に使ってごめん」

「いや全然いいよ、それくらい。……本当は闘技祭が終わったら、コルリの街へ再びギルバートにワープさせてもらって、サムを探すつもりだったんだ」

「ギルバート?」


そうだ。

サムはギルバートには、会っていない。


「あ、そうそう。詳しくはまた今度話すけど、俺を助けてくれた人なんだ。今、そのギルバートの家に世話になってる」

「……そっか。やっぱり、その人が」


サムは納得したような表情をした。

しかしその返答に少し、違和感を覚えた。


「……やっぱり、って?」

「ああ、いや、なんでもない」


しかし、サムはその内容を話そうとしなかった。

俺は、ここまでの経緯を考える。


サムが自力でここまで来たことはわかった。

きっと並大抵の苦労で辿り着いたわけじゃないだろう、ことも。


でも。


―――どうやって、俺らが今このキサスの街にいることを知ったのだろう?


今の反応と言い、もしかすると誰かから情報を貰ったのかもしれない。

じゃなくても、サムはその気さくな性格と容姿から、情報を集めるのが得意だったはずだ。


「俺やラルフがここにいること、サムはどこで知ったんだ?」

「……ああ。うーん、それは……内緒、かな」


「内緒ってなんでだよ」

「俺の我が侭に付き合ってくれた、その人のために、かな」


我が侭というのは、なんなのだろう。

それにサムに協力してくれた人というのもわからない。


「ふーん。誰……だろ?」


ラルフは―――

俺と一緒にワープをして同じ状況だ。連絡手段がそもそもない。たとえサムに協力できていたとして、俺に伝えない意味がない。


ユウリは―――

想像できないな。宿屋の前でユウリとサムが初めて対面した時の事を思い出す。あの時ユウリはサムに敵意を剥き出しで、とても協力できる状況じゃなかっただろう。


ギルバートは―――

やっぱり、という言葉からもしかして面識があったのだろうか。だとすれば、一番可能性はありそうだが……しかし情報が少なすぎる。


―――それ以上の事は、サムの口からは聞けそうになかった。


「でも、もう俺が着いたってことは、コルリに戻る理由はないね」

「……そうか!」


言われて初めて気づいた。

俺は魔術闘技祭に優勝して、当初の目的を果たした。

次はコルリに戻りサムと再会することだったが、今その必要はなくなった。


「実はここまで来る途中で、魔女の情報を色々入手したんだ。この街の少し先に、魔女の城があるんだってさ。別荘の一つ、みたいなもんらしいんだけどさ」


―――別荘って。


やはり魔女はお金持ちなんだろうな。

魔女の道楽にどこまで付き合わされればいいんだ、と俺は胸のペンダントに向けて悪態をつきたくなった。


それにしても魔女の別荘とは、趣味が良さそうとは思えない。


魔女に会う必要は正直ないのだが、魔女討伐に向けて皆と結束力を高める必要はある―――。


「そうなのか、何かヒントがあるかもしれないな」

「うん、そう思うよ」


すると、目の前のサムがこちらを見てニコニコしている。

次の俺の発言を待っているみたいだった。


「また、一緒に旅をしよう、サム」

「ああ、もちろん。その言葉待ってた。……よろしく、な」


その瞬間、故郷であるダンテ村の風景を思い出した。

あの日―――俺が退院した日、帰り道でサムと魔女を倒す旅をしようって決めたんだ。

あの時もこうして挨拶を交わした。


その時、サムから握手を求められて、俺は―――応じられなかった。

そして、それをサムはひどく気にしていて。


今、サムはもう―――握手を求めてきたりしない。




「……俺の、力になってほしい」




気付けば俺は、右手を差し出していた。

それは、ここまで必死に守ってきた「サムに力を使わない」という自分の中の誓いを崩すものだった。


サムは案の定、驚いた表情をしていた。


「そこまで言ってくれる、って思わなかった」

「いや……。これからまた、よろしく……」


そして、固く握手をした。


―――サムの手は温かかった。


魔力がサムに向かって、少し、また少し、と細い糸のように流れていくのを感じていた。


「ああ、よろしくな」


―――もしかしたら。


幼い頃からずっと一緒に居た、サムじゃなくなってしまうかもしれない。

俺への感情が、何か変わっていってしまうかもしれない。


―――それでも。


今、目の前には、左手で目頭を少し抑えて、涙目で、でも嬉しそうに笑うサムがいた。


もうサムの苦しむ顔は見たくなかった。

だからそうしたんだ。

と、そう自分に言い聞かせていた。


それが正しいのか、正しくないのか、そんなことはわからなかった。


胸がなんだか少し、苦しかった。


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