放たれる悪意
あれから宿屋を出て、ラルフと手紙の住所に向かって歩いていた。
今日の天気はすっきりとせず、空は厚い雲に覆われていた。
「それにしても、えらく外れた所にあるんだなァ」
目指す住所は今まで行った範囲よりも、ずっと遠い所にあった。
街の中心部とはかけ離れており、今歩いているこの通りも、人影はほとんどない。
「こんな所に本当におじいさんの言う人が住んでるのかな」
「道が狭くて随分薄暗ェな。正直、この近辺に住んでる奴は趣味がいいとは思えねェな」
確かにこの辺りに住みたいとは、とても思えない。
道を照らすランプもよく見るとかなり少ない。
夜は更に暗くなりそうだ。
「目的の住所は、もうそろそろかな」
「あぁ、そうだなァ」
そのまま、しばらくラルフと歩き続けた。
その間、俺は昨日のサムとのやり取りを思い出していた。
「なぁ、もし仮の話なんだけどさ。俺が、ラルフのこと、好きだ……って言ったらどうする?」
「……なんだそれ。そりゃオメェに言われるのは光栄だな。……でも、誤解を生む言い方はやめた方がいいと思うぜ」
で、ですよね。
ラルフは万に一つも俺が本気とは思っていないようだ。
これが普通の反応ということだ。
「もしかしたら、サムにも伝わってないのかな」
「……それ何の話なんだ?」
まずい、声に出していた。
ラルフは怪訝な顔でこちらを見つめる。
「いや、なんでもないんだ」
「……そうかよ」
サムが戻ってきたら、もう一度昨日のことを話してみようと思った。
そして俺の告白が伝わっていたのか、勇気を出して聞かなくては。
「なぁ、ところでラル……」
―――その瞬間、背後にピンと張った殺気のようなものを感じた。
隣のラルフを慌てて見ると、ラルフは目を見開いて固まっていた。
「な……ンだ、……う、ごかねェ」
ラルフの足元が黒く覆われていた。
おそらく魔法の類のようなものが発動している。
しかし俺の身体の自由は奪われていなかった。
―――これはラルフを狙っている?
辺りを急いで見回す。
すると背後の遠くの家屋の屋根上に、魔術師のローブを纏う男と、隣に"弓矢"を構える男が2人見えた。
その矢が放たれようとしている。
―――考えるより、身体が先に動いていた。
「ラルフ……!」
矢がラルフに当たる直前で、俺はその直線上に割って入った。
脇腹に何かが突き刺さった衝撃が走る。
「ざっ……けんな」
俺はそのまま咄嗟に背負った弓を構えて、相手に向かって矢を放つ。
―――手元が狂い、大きく外した。
しかし威嚇にはなったのか、男たちは慌てて立ち去って行く。
「エル!!!」
これ以上俺は立っていられず、身体が傾いて地面に倒れた。
ラルフの覗き込む顔と、その向こう側に曇り空が見える。
余りの痛みにその箇所を見ると、そこには矢が突き刺さっていて、血がどくどくと流れ出していた。
突然のことに声も出なかった。
「待ってろ」
すると身体がふわっと宙に浮いた。
ラルフに抱きかかえられて、俺の身体はどこかへ運ばれていく。
手足に全く力が入らない。
「死ぬんじゃねェぞ…!頼む」
全速力で走るラルフの振動が伝わる。
あぁ、なんだか気持ちいいな―――。
全身が温かく包まれている心地良い感覚があった。
段々と視界がぼやけてきて、朦朧としていく。
心地良い揺れの中で、俺は意識をそのまま手放した。




