第1話 分岐点
興味を持ってもらいありがとうございます。
初めまして竜宮です。
楽しんで貰えたら嬉しいです。基本的にコメディですが残酷な描写が苦手な方は戻って下さいね。
通学中の満員電車は苦手だ。僕は電車に揺られて高校に向かっていた。
朝の電車の込み具合は異常過ぎる。都会では毎朝の出来事だ。高校に通い出してから人間の適応能力を駆使すれば満員電車にも慣れると思っていたけれど現実は違う。やはり苦手なモノは苦手だと自覚するしかない。
人間に挟まれている僕は窮屈な体勢で両手を上げている。周りは同年代の女性ばかりだった。
僕が向かう駅は不運な事に女子高が複数あるので電車の中は社会人より女子高生の方が多いのだ。今も背中に見知らぬ女子高生が張り付いている。もちろん嬉しくはない。可愛い女子と寄り添えるからラッキーと思うのはこの状況を毎朝体験していない思春期男子の意見だとは思う。
毎朝、痴漢に間違われないように神経を削るのは精神的に疲れる。
すると電車が強く揺れる。僕は横にいる女子高生に身体をぶつけてしまった。
満員電車でスマホをいじる女子高生は僕を睨み上げて舌打ちする。不快感を顕わにされたので咄嗟に裏声った声で「すみません」と謝罪した。
何で僕が謝らないと駄目なの? 満員電車なんだから揺れるよね? そんなに怒ることなくない? と心の中で文句を言ってみる。僕がガツガツ系男子だとして可愛いからって調子乗るなと言えたらどれだけ気持ちがいいだろうか。
僕は妄想を膨らませながら吐息を付く。
人見知りで内向的な性格なので文句なんて言えるはずもない。もし文句を言えば陰キャが調子に乗るなと反撃を食らいそうだ。
見た目が地味な僕は陰キャそのものだった。自分でも思う。
学校には友達なんていない。家を出てから帰るまで会話はゼロに等しい。
まぁ別に友達なんていらないけれどもね。学生時代の薄い関係など必要ない。どうせ本当に困った時は裏切るに決まっている。だったら友達なんて最初からいない方が勝ち組なのだ。
僕はいつものように自己防衛に向かう。すると虚無感が押し寄せてきた。
本当は分かってる。僕だって好きなアニメや漫画、ゲームなどの話をして盛り上がりたい。クラスメイトのように些細な事で騒いでバカ騒ぎしたい。
羨ましいくせに何も行動を起こせない。本当に情けない男だ。
目の前に同年代の女子生徒がこんなにも存在しているのに恋人も出来た事はない。そもそも地味で何の取柄もない男に魅力など無いのを理解しているのも虚しい。
自己嫌悪が加速していると「きゃ!」っという声が響き全員が耳を傾ける。
「あなた! 私のお尻を触りましたよね!?」
気の強そうな少女が僕の腕を掴む。僕は状況が全く理解出来ずに「ふぇ?」っと間の抜けた声を出した。
周りから非難する視線が集まると理解が猛追してくる。女性達の視線が痛いほど刺さる。
もしかして痴漢に間違われてる!? 待て待て! そもそも僕は常に両手を上げた状態だったはずだけれども!?
「痴漢は許せません! 次の駅で降りて下さい!」
「あの……ちょっと待って下さい……僕は何もしてない……」
気の強そうな見知らぬ少女が僕の肩を掴む。身動き取れない状況なので逃げられるはずもない。いや、逃げる必要もない。そもそも僕は本当に何もしていないのだ。
そして次の駅で強制的に駅に降ろされると騒ぎを見た駅員が駆けつけてきた。
中年男性の駅員は慣れているのか僕の逃げ場を奪う位置に立つ。
そして僕の地味な雰囲気を察すると強気な態度をとった。
「君ね。痴漢は犯罪だよ? 学生だって関係ないからね」
「信じて下さい……僕は本当に何もしていません……だって! だってずっと両手を上げていたし――」
「痴漢した奴は同じような事を言うんだよね。いいから事務所の方に来なさい。警察を呼ぶから覚悟しておくように」
「待って下さい!」
駄目だ。全く信じてもらえない。やばい。この状況はやばすぎる!
正義感の強い父さんに知られれば怒られる。絶対にグーで殴られる。
どうする。逃げるか。僕は監視カメラの位置を確認する。ホームの端に一台、背後に一台。反対側のホームにも設置されている。記録が残されればこの場を逃げきれても捕まるだろう。いやいや、逃げる前提で考えるな。逃げたら余計に犯罪者扱いされてしまうではないか!? そもそも僕の走力はクラスで最下位だ。逃げきれない。
なら、助けを呼ぶかと周りを見渡したが知り合いはいなかった。そもそも友達がいないので同じ学校の生徒がいても助けてくれはしないだろう。
これは終わったかも知れない。視界が揺れる。僕は自然とホームの屋根裏を眺めた。
痴漢は高確率で有罪になるとネットか映画で見た気がする。示談金を払えばいいのだろうか。お金で解決してもらえるのだろうか。
焦りで喉が渇く。このまま警察を呼ばれたらどうなると考えると背筋が凍った。
大学受験を控えている状況で痴漢に捕まって警察沙汰になれば将来が終わる。
母さんに迷惑を掛けるのも嫌だ。妹に嫌われるのも好ましくない。
謝って見逃してもらうか。いや、そもそも痴漢をしていないのに謝りたくはない。
こんな所で無駄な正義感が主張してくる。僕は本当に不器用な人間らしい。
目まぐるしく考えが廻る。しかし全ての考えの行きつく先は最悪なゴールばかりだった。
「人間は本当に欲深いわね。全員死ねばいいのに」
困り果てていると金髪の少女がいつの間にか真横にいた。
異様な存在感を放つ赤い瞳の少女は駅のホームに行き交う人達の視線を向けている。虚ろな視線は生気を失っているようだった。透き通るような声と素肌は人間とは思えなかった。
年齢は僕と同じくらいだと思うけれど身体は小柄だった。
「この地味な男は何もしていない。そもそもこんな退屈な男に女の尻を触るような度胸はないわ」
不機嫌な金髪の少女が挑発を口にすると被害者である女子高生が詰め寄る。
「無関係の人は黙って下さい! そもそもあなたの意見は聞いていません! この痴漢男は私のお尻を触ったのは事実です!」
早口でまくし立てるが金髪の少女は全く動じない。
「呆れた……そんなに意中の男が大事なの? 所詮あんたは三番手よ。金持ちの娘だから利用されているだけ。そう。その男の指示なのね……浅はか過ぎて吐きそう」
「はぁ!?」
不要な言い争いが続く中で僕は金髪の少女が何者なのかを考えてしまった。
ヒートアップする女子高生に言い寄られる少女は金髪を掻き上げて睨み上げる。
赤い瞳を光らせたのは見間違いではない。
「鬱陶しいから黙ってくれない? そもそも人間風情が私に意見しないで。殺されたいの?」
すると女子高生が急に大人しくなった。つり上がった眉毛を下ろして無表情へと変わる。
急な変わりように僕も駅員も戸惑った。すると女子高生は真顔で「私の勘違いでした」と僕に向かって頭を下げて背を向ける。
何がどうなったのか分からない。もしかして冤罪から救われたのだろうか。
混乱する僕は女子高生の後姿を眺めながら立ち尽くすしかなかった。
金髪の女の子が命令するとヒステリックな子が急に落ち着いた。むしろ操り人形のように感情が無くなったのが不気味だ。
ただ、金髪の女の子がいなかったら僕は犯罪者にされていた。
とにかくお礼をしなければ、と振り返ると金髪の少女の姿は無い。
視線を左右に振り目を凝らすとホームの階段を降りる後姿が見えた。
僕は困惑したままの駅員にお辞儀してから助けてくれた金髪の少女を追いかける。
この時、異様な気配を放つ少女を追いかけなければ穏やかな日常が続いていただろう。
僕にとって駆けだしたこの一歩が運命の分岐点だった。
リアクションなどしてもらえると嬉しいですね。




