表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/7

第1話 恋の応援団

三学期の初日。

放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静かだった。


新聞部の部室は、暖房が効くまで時間がかかる。

早川はやかわ史帆しほはマフラーを外さないまま、机に向かっていた。

長い髪の先が、マフラーの外にこぼれている。


机の上には、去年の学校新聞コンクールの紙面。

整った構成と、読みやすい見出しが目に入る。


「……さて、どうするかな」


史帆は、白板に貼られた付箋に目を移す。


面白いかどうか。

評価されるかどうか。


個人的な興味より、全体の完成度。

感情よりも整理。

思いつきよりも構成。


部長を引き継いでから最初の大仕事。


――毎年、参加賞、今回は入賞が目標。


史帆は、何度も付箋を並べ替えた。




***




勢いよくドアが開いた。


「史帆ーっ!」


飛び込んできたのは、鮎原あゆはら摩季まき

史帆の親友で、野球部のマネージャーだ。


摩季が息を切らせて現れるときは、たいてい厄介ごとだ。


「ちょっと聞いてよ」


「で、今度はどんな問題?」


「もう、言い方!」


摩季とは、一年のときに同じクラスで、隣の席だった。

性格は正反対なのに、なぜか気が合う。


お互い、気持ちを探りあったり、空気を読む必要がない。

それが、心地よかった。


摩季は、息を整えながら話し出す。


「大翔のことだけど……」


「ん?」


「史帆、大翔とは幼なじみだよね」


「そうだけど、それがどうかした?」


「あいつのこと……どう思ってる?」


「ただの野球バカ」


「……好きとかは?」


史帆は驚きのあまり、椅子から立ち上がりそうになる。


「えっ、何それ、悪い冗談!?」


摩季の表情が、瞬間、真剣になる。


「私……大翔のこと、好きなんだ」




***




突然の告白に、史帆は驚く。

頭の中で、情報を整理する。


榮倉えいくら大翔ひろと

野球部キャプテン。

みんなからは、信頼されている。


史帆と大翔は、幼稚園からの付き合い。

小学校のころは、毎日のように一緒に帰っていた。


なんでも言い合える仲だが、恋愛対象とは思ったことがない。


史帆の知る限りでは、女っ気ゼロ。

恋愛には、とにかく鈍い。


「どうして、あいつを好きになるのか分からない」


ぽろりと、本音が漏れた。


「背が高くて、カッコいいし」


「がっちりしてるけど、カッコいいとは違うでしょ」


「やさしくて、頼りがいがあって」


「昔から面倒見はいいけど、お節介だよ」


「男らしいし!」


「キャプテンなんだから、そう見えるだけなんじゃないの……」


史帆は淡々と返す。


「……それに、昔、泣き虫だったし」


「そこがいいの!」


摩季が胸を張る。




***




史帆は、結論を先に出す。


「大翔は鈍いよ。好きなら、告白しないと伝わらない」


摩季はうなずいた。

でも、すぐに表情を曇らせる。


「失敗したら……野球部で気まずくなるし。

マネージャーとして、居づらくなる」


冗談めいた勢いは、もうない。


史帆は、少し考える。


「実はね……」


摩季が、声を落とした。


「チア部の山藤やまふじ玲菜れいな

大翔のこと、狙ってるって噂」


史帆の中で、玲菜のイメージが立ち上がる。


目立つ。

場の空気を変える。

感情表現がストレート。


「ああいうタイプに迫られたら、さすがに大翔もあぶないかも」


史帆の言葉に、摩季はさらに深刻な顔になる。




***




「お願い、史帆の協力が必要なの」


摩季は、頭を下げた。


「ねえ、どうすればいいと思う?」


「どうすればって……」


史帆は、視線を落とす。

机の上には、書きかけの企画メモ。


――高校生の恋愛事情。


(野球部主将を巡る三角関係……か)


「……わかった、協力するわ。

取材も兼ねてね」


「取材って……記事にとかするの?」


「面白ければね。

でも、そのときは匿名にするから」


「……面白いって、他人ひと事みたいに」


「だって、他人ひと事だもん」


史帆は、ニヤリと笑った。


「そのときは、絶対にバレないようにしてよ」


念押しされて、史帆は小さくうなずく。




***




「頼んだよ」と言って摩季は部室を出ていった。


史帆は一人、メモを取り始める。


でも、ふと、手が止まった。


「……これ、記事で済ませていい話なのかな」


小さな違和感。


けれど、史帆は、その先に踏み込まない。


私は、応援役。

――そして、観察者だ。


そう自分に言い聞かせる。


窓の外から、グラウンドの声が聞こえていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ