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ダンジョンを探索すると、いろいろな事が分かるかも。(改訂版)  作者: 一 止
第1章  初級探索者編

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第73話  思惑とは常識の範囲内での出来事であって、非常識の中には入る事が無いという実例。(その1)

 名古屋市内の九つ有るダンジョンの一つ、探索者協会名古屋支部前ダンジョン、通称支部前ダンジョンに雫斗達SDSのメンバーは四人全員で来ていた。


 比較的新しいダンジョンで、雫斗達が探索者資格を取得した時に出現した、彼等とは兎角いわく付きのダンジョンだ。しかも雫斗がこのダンジョンを含め九つのダンジョンを制覇してしまった事で、他のダンジョンとは一味も二味も違うシステムとなって居る。


 魔物を倒す事によって経験値やアイテムを得て身体能力の向上に繋げる事に変わりは無いが、死亡するリスクが減ったのだ、まったくないとは言わないが、魔物との戦闘で怪我を負って動けなくなった探索者は戦闘不能の時点で三階層の神殿へと転送される仕組みを構築したのだ。


 転送されて来た瀕死の探索者は神殿に常駐している職員によって治療が受けられる。治療とはいっても中級以上のポーションを飲ませる事と、治癒系のスキルを持っている人にけがを治してもらうだけなのだが、それでも死亡するリスクは減った事には違いがない。


当然魔物に負わされた怪我や死の恐怖は表面的な物ではない、心の奥底に刻まれた恐怖を克服する事が出来ない探索者は魔物やダンジョンに対してトラウマを抱える事に為る。


 しかも一度でも死亡寸前の転送を経験した探索者は、二度と神殿への転送という命に直結する恩恵を受ける事が出来なくなってしまうのだ。


 死亡するリスクが少ないと思うと、無謀にも分不相応な階層へ挑戦したがる探索者が出てくるのは致し方ないが、当然力が上の魔物と相対する訳で魔物自体が弱くなった訳では無いのだ。


 倒せないとなれば、死ぬか逃げるかの選択をする事に為る訳で、運よく命からがら逃げだしてペナルティーを回避して事なきを得た人もいるが、それでもダンジョンペナルティーを受ける人を無くす事は出来なかった。


 何故その様な措置をしたかというと、ダンジョン庁と探索者協会からの要望で、せめて攻略済みのダンジョンでの死亡率を無くしてほしいと言う無茶を言われたのだ。


 ダンジョンマネージャのキャサリンとキリドンテとの協議の結果、苦肉の策として”戦闘不能の時点で神殿への転送を一度だけは許可します、その恩恵受けられるのは一度だけですよ”、と念押しされたのだ。ダンジョンの本質に触れる事なので雫斗も妥協するしか無かった、しかしそれは雫斗にも適用される、いくらダンジョンを攻略していても、魔物を狩る以上危険は付いて回ると言う事らしい。


 つまりたとえダンジョンマスターであっても、ダンジョンに入り魔物と戦闘を行う以上、他の探索者と同じ条件が適用されるらしい。


 そうは言ってもこのダンジョンの最強のガーディアンを討伐した事を考えると、雫斗にとって20階層辺りの魔物は脅威には成り得ないのが現状だ。




名古屋市内のダンジョンは斎賀村のダンジョンと瞬時に行き来できる為に百花達SDSのホームダンジョンといっても過言では無いが。その他のダンジョンに入る為に遠征するとなると、中学生である彼等には荷が重い、時代的に、探索者となった時点で大人と同じ扱いを受けるとはいえ、中学二年生ともなればまだまだ子供で有る。


 それを考えると週末に他県への遠征で、大人の人に引率して貰うと成ると気が引けるのだ。どの道、攻略済みのダンジョンでも経験値は貰えるし、ドロップ品も変わらないと成れば、死亡リスクの低い名古屋市のダンジョンで活動しても構わないのであった。


 「キェ〜〜」気合いと共に袈裟懸けに刀を振り抜く百花。


 ミノタウロスの肩口から脇腹までを切り裂いてトドメを刺す、実質百花と弥生、恭平の三人でミノタウロス一体とオーク二体の魔物を危なげなく倒して見せた。 


SDSのメンバーには、もはやこの20階層では魔物の討伐に苦戦する事は無い。


 「このまま引き返して16階層の転送門まで戻って帰るか、20階層のボス部屋のボスを討伐をして21階層の転送門を開放するか、決めないといけないね」魔物の遺留品であるドロップアイテムを集めながら雫斗が聞いてみる。


 ボス部屋と呼ばれる部屋の奥に設置されている階段を降りると当然次の階層となるのだが、その階段下には転送するためのポータルが設置されている部屋がある。初めてこの階層に到達した探索者がそのポータルを起動すると、次回からはこの階層のポータルのある部屋へと転移する事が出来るようになるのだ。


 「引き返すのは面倒だし、そのままボス部屋に挑戦するわ。雫斗の後方支援が有る内に行ける所迄は行きたいわね」と百花が20階層の踏破を提案する。


 「そうね、まだ時間があるわけだし慌てる事も無いものね。でも確か20階層のボスって亀さんじゃ無かった?」弥生も百花の意見に賛成する、しかし亀さんと愛称で呼ぶとは・・・・。


 「ジャイアント・タートルだね。動きは遅いが防衛力には定評のある魔物だ」恭平が正式な名前に訂正する。


 保管倉庫のスキルが発見される前は、討伐するには二の足を踏んでいた相手だ。硬い甲羅は攻撃を寄せ付けず、その甲羅の中に頭や腕を収納してしまえばほぼ無敵の防御力と成って居た。


 要するに動きの遅い相手の攻撃は高レベルの探索者であれば除ける事は難しくない、しかし相手の防衛力にダメージを与える事が出来ないという手詰まりの状態となってしまうのだった。


 普通のフィルールドであれば足の遅いジャイアント・タートルは無視すればよかったのだが、ボス部屋に居座られると困った事に為る、是が非でも討伐しなければ、次へ進めなくなってしまうのだ。


 やって来ました20階層のボス部屋。どのようなモンスターが中に居るのかは巨大なドアのモチーフを見ればだいたいわかる。当然このドアには亀の絵が描かれているわけだが、流石に普通のフィールドにいる様なジャイアント・タートルではなく、大きさは1.5倍あるため防衛力も其れなりに向上している、一番の違いは、魔法を使う事だ。


 ”アースクエイク”文字通り地面を揺らして相手を動けなくすると同時にめまいや吐き気などの症状を追加で付与してくる。


 動けなくなった相手に、ジャイアントプレスまがいの全体重での押し潰しが、この部屋の主の常套手段ではある。


 後は何処かの映画の怪獣の様に、火の玉を口から飛ばして来る、着弾すると砕け散り周りに被害を巻き散らかすという厄介な攻撃手段を持っている。


 さすがは20階層の最後の要という所なのだが、保管倉庫を使った攻撃方法での討伐が出来なかった頃は、一人がけん制して注意を引いている間に爆薬を腹の底、正確には甲羅の片側に設置して爆破、ひっくり返たジャイアント・タートルが元に戻ろうと首や手足を出した所を寄ってたかって攻撃するという、なんともお粗末な方法での討伐が主流だった。


 「いい事、入ったら私一人でやるから、手を出さないでね」と百花が宣言する。


 20階層のボスの、単独での討伐に挑戦するみたいだ、他のメンバーは「頑張って百花」とか「やっぱり一人でやるんだ」とか「時間を計ろうか? タイムアッタクするんだろう?」と何とも気の抜けた言葉を彼女に掛けている。


 「当然よ、初戦での最短記録を作るわよ」と意気込んでボス部屋のドアを押し開けて中に入る、全員が入りきると自然にドアが閉まっていく、閉じ込められる訳では無い、ダンジョンから切り離されて別の空間へと移動するためだとキリドンテが説明していた。


 ボスの討伐には本来は時間が掛かる、30階層当たりの深層ならまだしも、20階層では頻繁に探索者が階層攻略の為ボス部屋へと挑戦してくるのだ、部屋に入ったパーティーが階層を攻略するまで待っていては行列が出来てしまう、それを避けるために入った探索者を取り込んで別の空間へと移動して、ダンジョンのボス部屋を次の探索者に譲るための措置らしい。


 ドアが閉まったからと言って、閉じ込められて出られない訳では無い、逃げ出すためにドアを開けて部屋から出た瞬間、その階層の何処かに躍り出る事に為るらしいのだが、そのポイントはランダムで決まって居る訳では無い。


 しかし逃げる為にドアを開けるといった行為に、優勢な魔物が黙って居る訳もなく、逃げるという行為にも当然リスクを伴う事に為る、そこはボス部屋のボス部屋たる由縁でお遊び感覚で挑戦できる程簡単な事では無いのだ、


 ひとえに20階層の魔物最強は伊達では無い、その魔物を単独で倒そうとする事には意味がある、当然ダンジョン制覇の予行演習なのだ。


 一行が中に入ると、ドーム球場並みの広い空間の真中にたたずんでいた巨大な亀の怪物が、むくりと首をもたげて此方を認識する。走り出す百花、ジャイアント・タートルも完全に臨戦態勢だ、大地を踏みしめて大きな口を開けて首を高々と掲げる、まるで手でボールを投げるが如く首を限界まで後ろにそらしたのだ、


 ジャイアント・タートルの火炎投擲の構えだ、その体制を見た百花は不敵に笑う、無防備に突っ込んでくる小さな人の予測位置に火炎を放とうとしたその時、ジャイアント・タートルの目の前に巨大なコンクリートの杭が姿を現した。


 コンクリートの筒の先に鋼鉄の尖った先端を備えた凶悪なその物体の正体は、パイルバンカーという、百花が名づけたその兵器は元はただの建築資材だった物だ。基礎工事用の巨大なコンクリートの杭が、保管倉庫に収めた途端、空中から落下して小さな相手なら押し潰し、巨大な相手なら串刺しにする無残な兵器と変わり果てた。


 しかしジャイアント・タートルも防衛に特化した魔物だけは有る、甲羅に守られた体にはいくら重量が有ろうと10メートル程度の高さからの落下では、それ相応のダメージしか与えられない、しかし頭への直接攻撃にはかなりのダメージを期待できる、当たり所が悪ければ一撃死も有りうるのだ。


 その事を理解しているジャイアント・タートルも火球の攻撃を中断してまでもパイルバンカーを除けるという行為を選択するのだった。


 ジャイアント・タートルは慌てて口を閉じて落ちてくるパイルバンカーを避けようと首を強引にひねった。しかし発射寸前だった火炎弾はすでに実体化している、その火炎弾を無理やり口を閉じて暴発を防いでまで躱そうとした事は称賛に値する。


 しかしその巨大さが仇となった、体が大きいと言う事は、それに付随している頭も大きいと言う事だ、巨大な頭を支えている首を必死に傾けてパイルバンカーの直撃を防いだかに見えたが、どうやら頭をかすめた様だ。


 かすめたとはいえ、数十トンは有る高層建築用の杭の衝撃はすさまじく、口に含んだ火炎弾が暴発する、口もろとも顔の半分を吹き飛ばされたジャイアント・タートルだが、脳へのダメージはなさそうだった。


 流石は防衛に特化した魔物だけは有る、傷ついた顔の部分を修復しながら突っ込んでくる百花を睨み付ける。しかし百花のパイルバンカーの落下攻撃もけん制でしかない、火炎弾が暴発してジャイアント・タートルの顔の半分を吹き飛ばしたのは嬉しい誤算では在るが、この魔物の弱点を付いているわけでは無いのだ。


 顔の修復と、先制を期すはずが重量攻撃で後手に回ったジャイアント・タートルの次の手は近付いて来た敵をその巨体で押し潰す事だが、百花の狙いもそこにある、何もパイルバンカーの攻撃は上からだけではない。


 前足を思いっきり伸ばして、後ろ足で飛び掛かる体制になったジャイアント・タートルの腹の底からパイルバンカーが付き上げる、タイミングよく突き上げられたジャイアント・タートルはそのまま後方へと裏返しに倒れ込む。


 比較的柔らかいお腹の甲羅だが、百花の狙いは其処ではない、起き上がろう首を伸ばしたその一瞬を待っていたのだ、ジャイアント・タートルの腹を駆けあがり、そのまま駆け抜ける、起き上がろうとジタバタ伸ばした足を無視して狙うは伸ばした首。肩口から飛び降りざまに、限界まで伸ばして仰向けになった体を起こそうとしている首を刀でなぎ払う。


 頭が伸ばしきった首を残して飛んでいく、流石に首を落とされて生きている生物はいない、それは魔物にも当てはまる、暫くして光の粒と成って消えていくジャイアント・タートルの巨体の後には、魔晶石と魔核が残されていた。


 後は素材のカード数枚とスクロールが一つ、20階層のボスとしては良いドロップ品の様だ、百花もほくほく顔で回収しながら討伐に掛かった時間を聞いてきた。

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