第71話 初のダンジョン攻略者として、思いを馳せる。(その1)
新年あけましておめでとう御座います。今年も皆様にとって良い年で有ります様に、お祈り申し上げます。 一止。
切に良い年を越せる事を願いながら、この物語の行く末を語りたいと思います。もう少しで第1章の初級探索者編が終了できそうです。その後は第2章へと行きたいところですが、軽く書いていくつもりの別の作品が大事に成りそうな予感がして冷や汗を流しているイチトマルなのです。
取り敢えずはその物語の目途が付くまでは、ダンジョン探索の次作の確約はできません。話の流れから大方の予想は出来ているとは思いますが、とにかく暫くお待ちください。
それと、元の作品の”ダンジョンを探索すると、色々な事が分かるかも”ですが。ポイントをいただいている手前、消去するのも心苦しいので、見比べて貰う意味でも、そのままにしておこうかとも思っています。
それでは今年もよろしくお願いいたします。
一 止
日本の誇るクランリーダーの人達とキリドンテ達ダンジョンマネージャーとの話し合いは平行線をたどる事に為る、ダンジョンがなぜ地球に出来たのか、何の為に、しかもこの大変な時期に。その事の核心を知りたい荒川さん達トップシーカの人達にとって死活問題だと言って良い案件だ。
ただ単純に、ダンジョンに入ってきた生き物の命を、むさぼるだけの存在としてダンジョンが有るのか。それとも他に何かの思惑が有って存在しているのか現時点では判断しづらいのがこれまでの現状だったのだ。
例えば魔物を倒したときに自身の身体能力を向上させるとか、魔物を倒した時にドロップするアイテムや、特別な部屋を攻略した報酬を褒美としとしてもらえるにしても、ダンジョンに探索者をおびき寄せる為の餌だと言われても否定するだけの材料が無かったのだ。しかしダンジョンの深淵をクリアーした報酬としてダンジョンのマスターの称号と共に、ダンジョンマネージャーなる管理者を従える事でダンジョンそのものを改変できるとなれば話は変わってくる。探索者や人類のダンジョンに対する考え方や、心構えが違ってくるのだ。つまりダンジョンが何かの意思を持ち人類に貢献していると捉える事も出来るのだ。
要するに、現時点でどちらにも解釈が出来るという此の事態に、協会本部にしても政府にしてもどちらで有るのかの判断に困る頭の痛い事柄では在るのだ。
その事を正直に話して、ダンジョンマネージャ達から何とか協力を取り付けたい芽梶さんや香坂さんだが、キャサリンにしてもキリドンテにしても、話す事の出来ない事案に口をつぐむしかないのである。
話し合いの中で収穫の無いまま気落ちしていた荒川さん達だが、感触としては悪くなさそうなのが救いではある。仮想空間越しでは在るがむき出しの敵意は感じられなかった、それどころか自分達に対して友好的な感情を感じていていて、彼らと話し合った事を感じたままに信じるのなら、彼らは人類に対して慈悲の心があると思えたのだ。
「ふ~~。流石に二癖も三癖も有る方々だな。簡単には教えてくれそうもない、未だに五里霧中と言う訳だ」と香坂さん。
「でも収穫はありました。ダンジョンは我々人類に対して敵対していない、それどころか祝福を与える存在として機能しているかもしれない。その事が分かっただけでも有難い事だと思います」と荒川さん。
「しかし確信が有る訳では無かろう? 我々の感触だけでは政府どころか協会のお偉いさん方は納得しまいよ」と芽梶さん。
其々がチャット会議の緊張から解放されて一息を付いて交わした言葉だ。悠美とSDSのメンバーは荒川さん達とダンジョンマネージャー達との会話に口を挟まずに聞き役に徹していたのだが。
「ところで雫斗君に聞きたいのだが、彼らは正直信用できるのかね? 私の印象ではおおむね良い感触を持っているのだが、最後に君の意見を聞きたい。それとダンジョンのこれからの在り様についても聞かせては貰えんだろうか?」芽梶さんが代表して、最後に雫斗にダンジョンマネージャ達の心象とダンジョンに対する考えを聞いてきた。
「キリドンテとは一か月、キャサリンとは1週間だけの付き合いですが、僕の使役しているクルモと同じように信頼できます、彼らはその存在が有る限り僕に尽くしてくれると確信しています。ダンジョンの在り様についてですが、現在でも社会に無くては為らない存在として恩恵を受けています、これからは制覇されたダンジョンも増えていく事でしょうからますます社会から切り離す事は出来なくなるでしょうね」と正直に答える雫斗。
「ほう。ダンジョンを制覇する探索者が増えると踏んでいるのかね? その根拠を聞かせてくれないかね」と香坂さんが言う、ダンジョンの社会への貢献度は周知の事実なのだ、今更いう事でも無いらしい。
「僕がダンジョンを制覇できたのは、そのほとんどがイレギュラーですが、解ってきた事も有ります。挑戦する人物が成し得る事の出来る範囲で、昇華の試練は行われていると言う事です。魔物と対峙した時点で辞退する事も出来るみたいですし、最悪戦って見て無理だと判断した時点で退避したら良いのですから」そう答えた雫斗自身逃げ出す人は居ないだろうなとは思っている。昇華の試練に招待された時点で、その探索者は力も胆力も備わっていると言う事なのだから、後は少しだけの勇気と運が味方してくれる事を祈るのみなのだ。
「其れから此れは僕の贔屓目的な感覚が入っていますが、ダンジョンは意思をもった生物の様な意味合いが強いのかも知れません。生き物に例えると語弊がありますが、そう考えると腑に落ちる事が多々あります。つまり感情を持った生き物として接する事で、ダンジョンがそれに見合った賞与を返してくるのだと思います」そう言った雫斗の言葉に一堂がそれぞれ顔を見合わせた、ダンジョンを知能のある生物と断定する感覚におどろいているのだ。
「ただ一人のダンジョンを制覇した人の見識は重いな、ダンジョンが意思を持つか。・・・しかし今はその事を議論している暇はない。我々はパーティー単位での活動に慣れている、今更ソロで活動しろと言われても無理があるように思えるのだが、そこはどう考えているのかな?」と香坂さんに聞かれた雫斗は。
「それは此れからの問題でしょう。単独とは言っても使役している魔物はカウントされません、おおざっぱに言えば多数のゴーレム型アンドロイドや魔物を従えて昇華の試練に挑戦する事も出来るのですから。ただクルモや他のゴーレム型アンドロイドもそうですが、盲目的に主人に従事している訳では有りません、キリドンテ達もそうだと思いますが主人を見限れば離れていく事になるでしょうね」と辛らつに答えた。
これまでにもテイマーというスキルを過信した探索者や、財力に物を言わせて数多くの使役する魔物達を従えていたエセテイマー達の動画に、魔物達を酷使する映像が流れていたが、最近見る機会が少なくなっていた。
噂によれば魔物達が逃げ出して騒ぎになっていると言う事だが、雫斗に言わせれば当然の結果なのだと言いたい。クルモやモカ、ロボさんや良子さんを見ていても分かるが彼らには個性が有る、一人として同じでは無いのだ。つまり人格?(魔物だから魔格か?)が在るのだから、隷属している存在ではなく、一人の知生体として接しなければ離れていく事は当然と言える。
それは魔物にも言える事で、粗末に扱えばいくら主従関係が有るとはいえ心の底から主人に尽くす事は出来はしないのだ。その事案に頭を悩ませているであろうクランリーダの香坂さんが。
「確かに、戦闘中に使役している魔物にソッポを向かれた探索者が、命からがらダンジョンから逃げ出してきて、協会にスキルの性質について苦情を言っている案件が多々ある事は事実なのだが、そもそもスキルとはどう言った物なのかね、今まで使ってきてなんだが、同じスキルでも扱う探索者で性能が違う様なのだが、均一ではないと言う事なのか?」と不思議そうにつぶやく。
「これは師匠の受け売りなのですが、”出来る事と、使いこなす事の間には天と地の差が有る、そもそも出来る事が実戦で使い物になるかは鍛錬しだいだ、精進を怠った者には敗北の二文字しか残らんよ”。と言っていました。剣術や体術もそうですが技を覚えても、体に馴染ませる為の鍛錬を怠れば、実戦では使い物に成りはしないと言う事でしょうね」と雫斗が言うと。
「そうだな。我々も初期の頃は取得したスキルで、何が出来るのかと毎晩考えて、考え抜いていたのだが、最近の探索者は多くのスキルを取得する事が、強く成る為の早道だと考えている傾向がある、確かに使える事と使いこなす事の差は大きい」そう言って軽くため息をつく香坂さん、どうやらクラン内の事で思い当たる節がある様だ。
その後、ダンジョンを作り替えるに当たって、どういった事を考えているのかと聞かれた雫斗は、斎賀村のダンジョンは、1階層をダンジョン内の移動とダンジョン間での移動のプラットホーム的な施設にして。2~3層ではスライムや倒し易い魔物を残しつつ、ダンジョンでの立ち回りや、魔物との戦いの道場的な施設の構築と、スキルや身体能力の向上を目指す鍛錬場を作る計画だと伝えると。
「それなら、名古屋市内のダンジョンでも同じ様なものを作った方がいいぞ。でないとこの村に全国の探索者が殺到する事になる、それが嫌なら同じ規模・・・いや可能なら出来るだけ収容人数を増やした方がいいな、そうでもしないと収集が付かなくなる」と芽梶さんが言う。
当然ダンジョンからの生還率と深層へのアタック率や、報酬の取得率の向上を目指す為の鍛錬場なので、探索者協会主導となる。そうなると鍛錬場や模擬ダンジョンの使用に無料という事はないが、かなりリーズナブルな設定となる事は間違いない。どの道、探索者の報酬が増えれば、おのずと協会の収益に繋がるのだから、施設の使用料を安くしても元は取れる。
彼らの当初の目的では無いが、ダンジョンを改造するに当たって丁度良いタイミングではあった。ダンジョンマネージャと日本の誇る探索者達が一堂に介しているのだから、彼らの意見を取り入れながら、斎賀村の二つのダンジョンと名古屋にある九つのダンジョンの大まかな構想を練っていく、
「成る程、つまりダンジョンを移動の為のプラットホームと位置付けて、駅や空港の代わりにする事を考えているのか。確かにダンジョンは人口密集地に集中しているからな、線路も要らず滑走路も必要ない、しかも地上で使う土地はダンジョンに入る為の入り口だけの広さで良いか。これまでの常識が覆るな」と半分呆れた様にさんが言う。
「しかも、其処に併設されるのは自己鍛錬の施設で、其処でダンジョン攻略の自信が付けば即実践で下層に行く事ができると言う訳か、う〜〜ん、・・・訓練した内容をその日のうちに確かめる事ができるのは大きいな」と香坂さん。
探索者協会でも、講習という形ではあるが実践向けの技術の習得の場はあったのだが、どうしても道場をイメージした手合いの鍛錬しか出来なった。そういった兼ね合いから、ダンジョンの中で鍛錬が出来るのは画期的だった、雫斗達も意識して居なかった事なのだが、彼らの実力の一端は、ダンジョン内での鍛錬、しかも実践に即した内容であったのが大きかったのは言うまでもない。
荒川さんや香坂さん等の本来の目的とはかけ離れては居たが、キリドンテ達ダンジョンマネージャを交えてのチャット会議は充実した内容で終わった。
後は、中々腰の上がらない中央からの承認待ちではあるが、取り敢えず斎賀村のダンジョンを作り変えてみて問題点を洗い出していく事で、ゴーサインの出た時の名古屋支部ダンジョンを作り替えるに当たっての試金石とする事になった。
その数日後、ようやくダンジョン庁を交えての初の会合を行う運びと成ったのだが、都内のダンジョン庁舎の会議室で行われる事となり、雫斗は母親と一緒に東京へと向かうのだった。
「お母さん、ダンジョン庁の長官はどういった人なの?」東京に向かうリニア新幹線の中で雫斗は悠美に聞いてみた。
リニア中央新幹線の新しいプラットホームは、ダンジョンが出現する前は、東京名古屋間の営業だけで既存の新幹線よりは利用客が少なかった事で、ダンジョンからの影響は、新幹線の駅よりは少なかった。
しかし主要な駅がダンジョンに飲み込まれるか、ダンジョンが近くに出来るかして、何らかの影響を受けた事により、新幹線や従来線の駅が使えなくなった事で、その復旧作業が優先された。新たに駅を作り直し線路を敷設し直す事が優先された事で、リニア新幹線の大阪までの工事が遅れる事となったのだ。
「とても優秀な方よ、私のかつての上司でいろいろとお世話になたわね。本来なら今頃は外務省の局長か事務次官に成っていてもおかしくは無いのでしょうけど、ダンジョンのおかげでエネルギー問題も食糧も国内で賄えるようになったから、今更外国との折衝に優秀な人材をつぎ込むより、これから何かと問題を抱える事に為るダンジョン庁に回したと思いたいわね」と意味深に答えた。ダンジョン庁長官の梶山 嗣人はどうやら悠美の上司だったらしいのだが、ことば尻からの人物描写に優秀なのか困ったちゃんなのか何とも言えない性格の持ち主の様だ。
要するに大人の事情という事なのだろう、雫斗も「ふ~~ん、そうなんだ」と興味無さそうでは在るが、これから深く関わっていく事になりそうなダンジョン庁との初会合に悠美は懸念を抱いていた。
かつての上司の優秀さは、三週程回り切って明後日の方向を向いてしまう傾向が有る、要するに優秀さを通り越して化け物じみた秀逸さで周りを振り回すだけ振り回すのだ、使える人材は猫の手(人か?)でも使うのを信条にしている人物で、予言じみた先を読む洞察力と、その仕事に適した人を見極める観察力は神がかっており、彼が関わった事で間違いが起こった事は悠美の知る限り無いので有る。しかしその事で厄みと嫉妬で敵も多く、彼の昇進のスピードは、さほど速いとはいえなかった、彼もその事には無頓着で昇進するたびに。
「仕事が増えて嫌になる、プライベートでの旅行も出来やしないし、趣味の時間も取れなくなった。これじゃ〜給与が上がっても使い道がないぞ」と言っていたが、彼を知る周りの人は本心だと知っていた。
しかし優秀であればある程省庁の業務が放っては置かない、結局は順当に昇進していく事となっているのだ。今の所、この世界では雫斗を置いてダンジョンを攻略できた人は居ない、しかも都心での攻略ではない事が不安を掻き立てる、雫斗に対して東京のダンジョンの攻略の依頼が来ないとも言えないのだ。
「いい事雫斗。ダンジョン庁の長官は普段は良い人よ、でも業務となると人が変わるわ。手管口管で自分の思い、いえ社会に貢献できる事に関しては妥協しない人なの。ダンジョンを攻略できる人材をそのまま放置するとも思えないわ、たとえ子供でもね。いいわね、たとえ簡単な仕事だと思っても彼の頼みはことごとく拒否しなさい、それが無難よ」とアドバイスをする。
急造のダンジョン関連の法整備に不備はつきものだ、ダンジョン庁の緊急を含めた要請に、探索者の拒否権は無いに等しい。雫斗が未成年で有る事を理由に断る手も有るが、複雑奇怪な法の抜け穴はいくらでも思いつく事が出来るのだ。
「うん分かった」とのほほんと答えた雫斗では在るが、悠美の不安は尽きない。自分の息子である雫斗だが、まだ子供だと思っていた数か月前が懐かしいのだ。
最近の雫斗は普段は普通の中学生と変わりは無いのだが、ダンジョンを探索する事に置いて忌避を感じないのだ、恐怖も畏怖も無い、有るのはダンジョンの謎を解き明かしたことへの興味だけの様な気がしてならない。普段と変わらない雫斗の在り様に安心すると同時に、何処か遠くに行ってしまいそうな不安を感じているのだ。




