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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
5/52

04.これからの事

一応説明回、かな


 盆に朝飯を乗せ少女は部屋の扉を軽く叩く。


「雅、ご飯……」

「……」


 中からの返事はない。少女は部屋の前に盆を置き、何か言おうとしてやめる。


「……置いておくから食べてね」


 暗い部屋の中、雅と呼ばれた青年は膝に顔を埋め布団を強く握る。


「……ごめん」


 そう小さく呟いた。


 * * *


 一限が終わってすぐに柑実は梛莵の後ろ襟を掴み連れ出す。


「梛莵、説明」

「う、はい……」

 その様子に燐は何か言おうとしていたが梛莵は手を上げ制止する。


「あらぁ柑実くんおこだねぇ?」

「おこ?」

「激おこだよぉ」

 卯鮫は両手の人差し指を立て鬼のポーズをとる。

「あの二人ねぇ幼馴染なんだよぉ。柑実くんの方はだいぶ過保護だよねぇ? 裙戸くん?」

 そういって近くの席に座っていた裙戸に言う。


「え? 何で僕に言うの」という裙戸にいやぁ? と卯鮫は意味有りげに笑った。


 * * *


「で、どういう事だ?」


 怖い顔で問いただしてくる柑実に梛莵は目を泳がせながら言う。

「えっとぉ、昨日こっちに帰る時に会って……」

 すると遅れて登校してきた少女がその場に出くわす。


「「……」」


 沈黙。そりゃ黙る。柑実は梛莵を壁に追いやって宛ら『壁ドン』している状態だ。


「ご、ごめんね。お邪魔だよね」

 そそくさと場を去ろうとする少女を柑実は全力で止めた。

「違うからな! 絶対勘違いしてるだろ!?」

「そんな事ないよ? 大丈夫、二人の関係の事は言わないから?」と少女は目を泳がせていた。

「いやいやいやいや?? 違うから完全に誤解!!」

 焦る柑実を横にふと、梛莵は少女に話しかける。


「哉妹、由月はどうした?」

「!」


 困ったような顔をする少女【哉妹(かなまい) 千智(ちさと)】は梛莵を見て俯いた。


「ん。ちょっとね……」

「?」



 哉妹は先生のとこに用があるからと去っていった。

「梛莵はしばらくあいつ等に会ってなかったか」

「俺もあいつ等も任務でちょうどすれ違ってたからな」

 それがどうした? と柑実を見る。

「任務戻ってきてから由月の奴、学校来てないんだよ」

「由月が? 怪我したのか? 哉妹も怪我してたし」

「どうだろうな、あの双子が一緒にいないの珍しいから何かあったんじゃねぇか?」


 そう、二人は苗字は違うが双子であり常に共に行動していた。


「ふーん……?」

「で、それは置いといてだな?」


 くっ、逃れられなかったか。




 梛莵は事の経緯、今の状況を合わせて説明する。


「はぁ!? 一緒に暮らしてるだ? なんだよそれ!」

「まぁ俺が連れて来ちゃったからな……他の誰かを巻き込むわけにもいかないし」

「全然理解できない。何でそのまま斬らなかったんだよ」

「柑実……気持ちはわかるが別にあいつが何かしてきた訳でもないんだし」

「梛莵は甘い。何かってもう『憑いてる』じゃねぇか。斬る理由なんてそれで十分だろ」

「ま、ぁ……でもな、元が残ってるなら必要以上に手荒にはできないし」

「ほんとに元魂が残ってるって証拠はあんのかよ」

「それは……」

 ない。だって直接『鈴』に会ってないから。でも、



 ――梛莵、全部が悪と決めつけて見誤っちゃいけない。そんなことすればお前はお前でなくなってしまう――



 ……うん。父さん。俺は――


「柑実、ごめん。怒るのも最もだし心配してくれてるのもわかってる。だけど全部が全部悪いとは言えない」

「……」

「俺も纒憑は憎い。堪らなく。けど俺の、俺達の事とあいつは関係ない。だから――」

「はぁ……わかったよ」

「柑実」

「まぁ……時間はかかるかもしれねぇけど、梛莵の言う事も……理解できないわけじゃない」

「うん」

「……何かあったら、すぐ言えよ」

「ん。ありがとうな」

 甘い、なんて人の事言えないな。柑実だって十分甘い。でもその甘さこそ柑実の優しさだ。

「ふっ……」

「何笑ってんだ」

「いや、何でもねぇよ」

「全く……」

 戻ろうか、と教室に向かう。


 戻ると授業は普通に始まっていたので二人仲良く怒られた。


 * * *


 授業が終わり、帰り支度をする生徒達。


「あの、朱鷺夜くん」と哉妹に声をかけられる。

「哉妹? どうした」

「ちょっと、相談したいことがあって」

「俺に?」

「うん……」


 突然の話に読めない。そこまで哉妹と仲の良い訳でもなく、悪い訳でもない。寧ろ関わりなんてないに等しい。


「別に構わないけど……一ついいか?」

「何?」

「その怪我、どうした?」

「あ、と……」

 ちょっと任務でやらかしちゃっただけ、そう言った。

 この場で聞くことではなかったなと反省する。

「ちょっと待ってて」

「うん」



「羽蘭」

「あぁ梛莵、生徒会室に……」

「悪いんだが三十分くらい待っててくれないか? その間燐も預かっててほしい」

「? 別にいいけどなんか入用?」

「うんちょっと」

 待っている哉妹が目に入り、少し考え

「わかった。あ、必要メモだけ先に頂戴」

 頼む、と取っていたメモを渡す。

「じゃあ燐ちゃん、行こう」

「あぁ。梛莵は?」

「何か入用だって。先に行ってよう」

「あぁ……」



「哉妹、お待たせ」

「ううん。ごめんね、用事あった?」

「まぁ……大丈夫、ちょっと待っててもらうように言ってきたから」

「ありがとう……また転校生?」

 燐の方をチラッと見る。

 そうか、哉妹は朝いなかったな。

「ちょっと事情有りでね」

「そうなの……」とあまり聞いては来なかった。

 そちらに目が行くほどの余裕はないように見えた。

「屋上とかでいいか?」

「うん大丈夫」


 * * *


 [特化学科棟 屋上]


 冷たい風が吹く。


「で、俺に相談って?」

「うん、雅……の事なんだけど」


 雅、哉妹の双子の弟【由月(ゆいづき) 雅也(まさや)】の事だ。


「由月?」

 哉妹は頷き、続ける。

「今、その……こないだの任務で術の暴走を起こしちゃって……部屋に引きこもっちゃったの」

「……その怪我って?」

「うん、雅『自分のせいだ』って、それで」

「なるほど……」

 哉妹が元気がないのも由月がいないのもなんとなくわかってきた。が、

「でも何で俺? あんまり力になってやれそうな気はしないんだけど……」

「……朱鷺夜くんと楜莵ちゃん、とあたし達、少し似てるなと思って」

「そうか……?」

 妹の名前が出て少し顔をしかめてしまい、哉妹はハッとする。

「あ、ごめん……」

「あー……俺もごめん。大丈夫だから続けていいよ」

 慌ててお互い謝る。

「うん。……朱鷺夜くんだったら、こんな時、兄としてどうするかな」

「飛ぶなぁ……兄としてどう、か」

「声かけても返事もないし、雅のせいじゃないって、あたしどうしたらいいかわからなくて」

「うーん……由月の心情は由月にしかわからないし正直俺もわからない、が答えだな」

「そう、だよね……」

 哉妹は俯き、泣きそうなのを堪えていた。


「でも、そのままにはできないよな」

「え?」

 顔を上げ梛莵の方を見る。

「一度由月に会わせてくれ。会ってくれるかわからないけど」

「う、うん。うん。お願いします」

 そして軽く笑った。うん。とりあえずよかった。梛莵は哉妹を軽く撫でる。泣かれるのは勘弁だからな……。

 後日、と連絡先を交換する。伝通石は一応仕事用、なので携帯電話の方で。


 * * *


 生徒会室の扉を叩くと中からのどうぞ、と返事がくる。


「羽蘭、待たせた」

「おー何、告白?」

「違う」

 入ると羽蘭と燐、そして何故か裙戸と卯鮫がいた。


「やっほぉ梛莵くん。待ってる間に燐ちゃんと交流を深めていたところだよぉ」

「僕は巻き添え、と一応ね」

 そんな裙戸に卯鮫は横で「ほらぁ紅ちゃんの言うとおりじゃんねぇ?」とにやついていた。何の事のだかわからないけど、裙戸がいる理由は何となく察しがついた。


「じゃあお邪魔虫は帰るねぇ? ばいばぁい」

「僕も梛莵来たし帰るね」

 手を振り卯鮫と裙戸は部屋を出ていく。


「じゃあ話し合い、だね」

「おう。と、その前に燐が入学とか聞いてないんだけど」

 梛莵は椅子に腰掛け、一番に言いたかった事を言う。

 羽蘭は「今朝決まったからね」と笑った。いや、笑い事じゃないし。


「梛莵が学校や任務の間とか一緒に居られない時はあるからね。それを考えたら監視下に置くにも入学させた方がいいねってなって」

「案外軽いな……」

「まぁ。それに纒憑の事はまだわからないばっかりだしこれから知ってくのにも丁度いいでしょ。そこらへんは燐ちゃんには協力してもらうよ」

 ていう本部からの見解かな? と。


「構わないが……私はその『纒憑』の事はよくわからないんだ。協力になるのだろうか、他にもガッコウやらニンムやら何がなんだか……」

「なるほど、そこからか……元の時に学校は行ってなかったのかな?」

「あぁ。私は拾われ子で、研究所で育ってきたから」

「なかなかシビアな……」

 想像の斜め上だった為か先程までの楽天的な態度から真面目になる。

「そういや父親が研究者とか言ってたな」

「こうなる前には亡くなっているがな」

 こっちも結構軽いな? まぁ本人がこうだからいいのだろう。

「んーまぁそっちの話を掘り出すときりがないからね。追々行こう。とりあえず今後の事だ」

「だな」


 羽蘭は電子冊子を手渡し梛莵ら受け取った冊子に軽く目を通す。

「そこに書いてある通り、一つはまぁ予想はついてたよね。梛莵には燐ちゃんの状態とか定期的に報告してもらう事になる。簡単に言えば観察日記だよ。記入に必要な事項とかのデータはまた別途送るね」

「あぁ」

「凄いな。最近は書類もこんななのか」と燐は横で感動していた。呑気だな。

「二つ目は費用。燐ちゃんにかかった必要最低限の費用はとりあえずこちらが持つ。それ以外は個人でお願いね」

「とりあえず、ということは」

「それが三つ目。燐ちゃんもこちらと同じ様に任務に就いてもらう。ちゃんと給料も出るよ、そこから費用を差し引く形でね」

「なるほどな。だけど燐、戦えるのか?」

「検査結果で術の保持者っていうのはわかったからね。『燐』ちゃんのか『鈴』ちゃんの力かはわからなかったけど」


「鈴、が残ってる理由って関係あるか?」

「あるかもね。術者の纒憑は少ないからまだはっきりとは言えないけど」

「ジュツシャ……」

「これから力は最低限付けてもらう。あまり強くなられてこちらが抑えられなくなっても困るけどその辺も調査の一環として見てもらえれば」

 その言葉に燐は首を傾げていたが状況を考えれば妥当だろうと梛莵は頷く。

「そして四つ目は情報提供。思い出せる、出来る範囲でいい。今に至った出来事を教えてほしい。それによっては今後の事も変わってくるかもしれないからね」

「わかった」

「本当なら『鈴』ちゃんの確認も取りたいんだけど本人が出てこないなら何もできないからね」

「やはりそこだな、私からも少しでいいから出てこれないか声はかけているのだがどうもな……」

 だそうだ。

「出たくない理由が何かあるって事だろう」

 そう言うと燐は頷き、続けた。

「悪いがこればかりは私から話す事はできない。鈴の事情だから」

 理由は知ってはいる、という事だろうか。


 羽蘭はまぁ少しずつでいいから、と立ち上がる。

 会長机に置いてあった小さい箱を取り燐に手渡した。

「これは?」

 開くと二つの小さな紫色の石が入っていた。

「『伝通石』って言って俺達も持ってる通信用の特殊な石だよ。今後の連絡に必要だからね、あとGPSも備えさせてもらってる」

「梛莵が昨日言ってたやつか」

「聞いてるなら話は早いね。無くさないように身につけてもらいたい、使用者以外は使えないようになってはいるけど何があるかわからないから」

「どうすればいいのだろう、私も鈴もピアスの穴は開いてない」

「それは問題ないよ。これは術磁力型(じゅじりょくがた)だから挟むだけ」

「ジュジ……リョ?」

「要はマグネットピアスって言えばわかる? それに術力を加えてより強力に固定って感じかな」と自身のピアスを見せる。

「なるほど」

「できれば鈴ちゃんの方の耳に付けて。聞いた話通りなのであればもし鈴ちゃんが表になった場合に燐ちゃんの猫耳は消えるって事になる。そしたら伝通石も外れちゃうからね」

「わかった」

 そういって燐は両耳にピアスを付ける。


「詳しい使用法の説明は梛莵、できるよね」

「あぁ」

「よろしく、何人かは前もって登録してるから梛莵もしてね」

「わかった」

 横を見ると燐は初めてのピアスなのだろう、気になって見たいのか尻尾をゆらゆらさせながら辺りの見渡していた。

「鏡なら入口のとこにあるよ」と羽蘭が扉の方を指差すと燐は見に行った。女の子だな。


「あ、あとさっきのメモに書いてあったやつね。今買いに行ってくれてるよ」

「悪いな」

「亜妻先生達が」

「頼んどいてなんだけど先生の事パシリにしてない?」

「あはは……いや、よくわからないけど乗り気なんだよね。先生達の方が」

「姪っ子を可愛がる感覚なのかな……」とピアスに夢中な燐を見る。

「その考えが妥当かも……」

「助かるけども」と苦笑いになる。


「後はこの学校についての説明かな」

 羽蘭はチラッと燐を見る。

「燐、後で見てくれ。話が進まない」

 そう言って梛莵は燐を呼びつける。

「す、すまない」

 照れくさそうに耳を垂らすが尻尾は揺れていた。随分気に入ったようだった。


「じゃあまずこの施設の事から。ここは『羽蘭戦門高等学校』通称『羽蘭戦(うらせん)』。一般的な普通学科と俺達のいる特化学科、正式には『特化学専攻 戦滅科』だ。その二学科を主に持ってる高校だよ」

「なんだか穏やかじゃない名前だな」

「ははっまぁそうだね。この学校は特殊だから」

 羽蘭は学校のパンフレットを出す。

「普通科に関しては多分他の学校と変わらないよ。因みに見野口先生は普通科の先生だよ」と。

「あぁ。あの梛莵を抱っこしてた人か」

「え、梛莵あの人に抱っこされたの」とにやつく。

「やめてくれ……」

 急な流れ弾やめてほしい。


「ところで学校とはなんだ?」

「おぉ……ほんとにそこまで知らないんだね」

「?」

「んーと、学校とは何か、ね。学び舎……大人になっていく上で必要な知識を備える為の施設って言えばいいのかな?」

「ふむ……?」

「お勉強。お勉強するとこ。それはわかる?」

「あぁ。でも勉強なら家でも出来るのでは……?」

「そ、そうだね」

 学校のあり方の説明する事なんてないんだよ察してくれ、と言わんばかりに羽蘭は微妙な表情をする。

「まぁほら、外部から得る情報ってのも役立つし。一人ではできない事とかね? ある、し? 多分」と疑問系になっていく羽蘭が不憫に思えてくる。


「そんなもんなのか。じゃあ学科が分かれているのは」

「そこは何を学ぶか。普通学科は普通教育ってそのままの意味。その中でコース分けされてたりかな」

「コース、教育……ふむ」

「で、特化学科はこの学校にしかない学科だよ。普段は普通と同じで勉強するとこなんだけどね、俺等は『纒憑戦滅』も主としているんだ」

「纒憑の専門家ってとこか?」

「そんなとこかな。燐ちゃんのわかる範囲が俺はわからないんだけどね」

「すまない……」

「いやいいよ。多分文化的? なとこだろうし」

「ありがとう」

「戦滅関係専門術者……竒術師っていうんだけど、それの本部ってのがこの学校と繋がっていてね。こっちはそれの育成所に近いかな」

「育成所?」

「うん。本来は本部が現場対処するんだけど、何分今は人不足でね。学生傍ら本部所属って形で現場に出てもらってる」

「それが任務か?」

「そういうこと。経験にもなるし」

「なるほどな。大体わかった気がする」

「それはよかった」

 ふぅ……と一息つく羽蘭。


「それで、その本部からの情報整理をして生徒に指令するのが俺。支援班指令部で生徒会の一部」と自身を指差し得意気な顔をする。

「また難しそうな……」

「そんなことないよ。特科の中で何を得意とするかで分けられるチームみたいなものだ」

「また分かれるのか」


「皆が皆面と対立するのが得意ってわけじゃないからね。大まかに言うと

 『裏や後方からフォローする支援班』

 『捜索や対処も行える総合的な総索班』

 『対立対処が主な特攻班』

の三つに分けられる」


「どれかには属してるって事か」

「うん、そうだね。因みに梛莵は総索班だよ。燐ちゃんには支援班として梛莵のフォローに入ってもらう感じ。基本的には最低二人一組になってもらってるんだ。梛莵は一人の時が多いけどね」

 そう言うと横目で梛莵の方を見る。

「……一人の方が動きやすいし」

「まぁ梛莵の術性質を考えたらそうなのかもね」

「そういえば術、というのはこういうのを言っているのか?」


 そう言うと燐は立ち上がり窓を開ける。


「……ん?」


 燐を包むように風が吹きバチバチと電気を帯びる。

 そして窓の外に向かって腕を伸ばす。



燈風(ていふ) 『万雷煌々(ばんらいこうこう)』」



 身体から手に集まった力が光り放たれ外の木に当たる。


「なっ……!」

 外を覗くと木は真っ二つに裂けていた。

「ちょ、ちょっと何してくれてるの!?」

「えっ」

「えっじゃないよ!? 術は見る予定あったけど今じゃないし騒ぎになったらどうするの!」


 そうこう言っていると廊下の方が騒がしくなり勢い良く扉が開かれる。


「おい、羽蘭! 今の音何事だ!?」

「あ、浅鎌先輩……」

 隣の部屋で職務を行っていた生徒会役員達が駆けつけてきた。

「あっちゃん大丈夫!?」

「緋月お前なにしたんだ!」

「俺じゃないですけど!?」

 あまりの気迫に燐は驚いて梛莵の後ろに隠れていた。


「わー凄い、真っ二つじゃないか……」

 呑気に写真を撮るポニーテールの少女・庶務の【喜多見(きたみ) 知瑠(ちた)


「校内でこんなでかいの放つかよふつー」

 不機嫌そうに眉間を抑える銀髪の青年・副会長兼会計の【浅鎌(あさがま) 与未(よみ)


「まぁでも生徒に被害はないんだしいいんじゃないかしら? ね、あっちゃん」

 マイペースな黒髪の少女・副会長兼書記の【灯前(とうざき) 苺香(いちか)


「そういう問題じゃないだろ……」

「そういう問題じゃないですね……」

「あらそう?」

「報告書、反省文、うっ頭が……」と青ざめ呟いている羽蘭。

「ごめんなさい……」

 燐も流石に悪い事なのだと思ったようで謝っていた。


「えっこれあんたがやったのか」

 こちらに気づき浅鎌はまじまじと燐を見る。

「初めて見る顔だな? 前からいたか?」

「いや今日からうちの生徒になったんです」

 耳を垂らし隠れてしまう燐の代わりに答える。

「そうなのか。で、なんでこんな事になってんだ?」

「いや〜術の確認をですね……」

「こんなとこでやるなよ……専用の場所があるだろ」

 ですよね、と思いながらも笑うしかなかった。



 その後は校内に残っていた先生達も集まってきたりと騒ぎになっていた。

「こっちは処理しとくから、とりあえず後は梛莵の方から説明出来るだけして」と半泣きで帰される。

 今度羽蘭の好きな有名パティスリーのチョコレートでも渡そう。



他人の心情なんて誰もわかりません

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