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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
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03.共に


 [二階建てアパート【クオーレ】 梛莵宅]


「おつかれさん。ちゃんと休むんだぞ」

「はい、ありがとうございました」

「いいっていいって燐ちゃんの荷物もあったし」

 お大事に、そういって見野口は車を走らせた。

「しかし随分買ったな……」

 前に抱えた荷物を見て呆れる。

 そうだ、と燐は惣菜の入った袋を見せ「夕飯にってこれも買ってくれた」と。

「助かる」

 玄関を開き招く。


「どうぞ、なんもないけど」

「お邪魔します」


 * * *


「おぉ……結構広いな?」

「そう?」

 1LDKの一人で暮らすには広めの部屋だ。


「前に色々あって、父さんが借りてくれたんだ。セカンドハウスってやつだよ」

「……梛莵の家はオカネモチ、なのか?」

「え、別に普通だと思う……けど」

 父さんの稼ぎとか知らないし……。


 燐は素朴な疑問を問いかける。

「家族と居られるのに、一緒に暮らさないのか?」


 沈黙。

 やってしまったかと思う燐。梛莵は少し黙ってから口を開く。


「……今誰もいないんだ。数カ月前に皆どこかにいなくなっちゃった」

「あ……」

「まぁ、無事だと思うよ。両親は元々放浪癖(ほうろうへき)のある人達だからあまり心配してない」

「……」

「ただ、妹がね。同じ時期に出かけたきりいなくなって、そっちが心配かな」

 物理的に強い子だから大丈夫だとは思うけど、そういって飲み物を渡される。

 ありがとう、と受け取る。


「すまない、事情も知らずに無神経な事言った」

「別に、そのうち知る事になるんだろうし気にしなくていいよ」

 片付けは後にしてお腹空いてるからご飯にしよう、そう言って惣菜を広げる。

 念願の食事だ。



「悪いけど部屋は分け与えられるほど広くはないから」

「そこまで気にしなくて大丈夫だ。世話になる身だからな」

「布団とか色々買ってこないとな」

「すまない、お金とか何も持ってなくて……」

「まぁ……というかよく今まで生活できたな」

 今思うと普通に連れてきてしまったが燐……いや『鈴』の家の方は大丈夫なのだろうか。

「よくわからないが鈴は一人で山奥に住んでたみたいだぞ」

 だそうだ。可愛らしい顔して鈴は野生児なのか?

 なんだか会ってみたいようなみたくないような複雑さだ。

「なるほど。とりあえず家の心配はしなくていいって事だな?」

「あぁ」


 女の子が山奥に一人って……だからあんな所にいたのか。それに誰にも知られず取り憑かれて過ごしてたって事になるよな。

 よく今まで無事だったな。


 ピピッとピアスが鳴る。この感じは羽蘭か。


《朱鷺夜だ、どうした?》

《お疲れー、梛莵明日なんだけど朝来たら燐ちゃん職員室に連れて来てくれる? 亜妻先生にも伝えてあるから》

《わかった》

《それととりあえず必要な物とかメモでもしといて、用意するから。他の費用とかに関しても明日の放課後まとめて話そう、午前授業だからゆっくり話せるでしょ。燐ちゃんにこっちの説明とかもしたいし》

《あぁ。何から何まで悪いな》

《大丈夫だよ。あと請求は本部にいくから》

《お、おぉそうか……》

《タダではないと思うから今後の働きじゃない?》

《俺の給料から引かれんのかな……》

《ははっ、大丈夫。父さんはそんな事しないよ》

《悪い……》

《まぁそういう事だから。落ち着けないと思うけどしっかり休んでね》

《ありがとう。よろしく頼む》

《また明日》

 じゃあね、と通信が途切れる。


「梛莵?」

 燐はこちらを覗きこんで眉を潜めていた。

「ん? どうした」

「いやどうしたはこっちの台詞なんだが……急に黙るから」

「あぁ……羽蘭、さっきの紫髪のから連絡がきてて」

「そうなのか? 話してる様子はなかったが……」

「あ、そうか。これ、これで話してたんだ」

 梛莵は自身のピアスを指差す。


「『伝通石(でんつうせき)』って言って通信が出来る特殊な術石(じゅせき)なんだ。これで何ていうかな、テレパシーって言えばわかるか? そんな感じで連絡取れるんだよ」


「へぇー……そんな事ができるのか」

 興味津々に尻尾をゆらゆらと揺らし目を輝かせていた。

「そういえばここに来る前もピアスをいじっていたな。そういう事だったのか」

「こういうの興味あるのか?」

「あぁ。私の父が研究者でな、色々見ていたから」

「前の事、覚えてるんだな」

「そうだな……うん。覚えてる。……忘れちゃいけないんだ」

「そうか」

 燐は懐かしむかの様にゆっくりと、そして寂しそうに言った。


 忘れていたが纒憑である以前に彼女も『生きる者』だったのだ。

 『燐』の事、『鈴』の事。

 わからない事だらけだが一度に聞くことでもないだろう。素性も何もかもゆっくり聞けばいい。

 そして必要とあれば、俺の事も話せばいい。誰しも話しにくい事、話すべきタイミングがあるだろうから。


 燐が警戒すべき存在として預かった身であることは不思議と感じなくなっていた。

 彼女は彼女だ。纒憑だからと一括(ひとくくり)にするのは間違いなのだろう。


「こんなふうに話せてたら、今と変わっていたのかな」


 小さい声で呟くと燐は不思議そうな顔をしていた。

 梛莵は「何でもないよ」と軽く笑ってみせた。


 * * *


「すみません、お願いします」


 次の日、梛莵は燐を連れ亜妻を訪ねる。

「聞いてるわ。心配しないで大丈夫よ」

 亜妻は嫌な一つ顔せず受け入れる。巻き込んで申し訳無いがとてもありがたい。

「よろしく頼む」

「ええ。ふふっ洋服よく似合ってるわ」

「そ、そうか? 着慣れない服だからよくわからない」と燐は照れくさそうにしていた。


 * * *


 燐と別れ教室に向かっていると曷代を見かけた。

 教室と逆に向かっていて迷ったのだろうかと声をかける。


「曷代」

「わっ、あ! 朱鷺夜……」

「梛莵でいい。教室はこっちじゃないぞ」

「あはは、迷って……ここ広すぎる」と予想は当たっていたようだ。

「一緒に行こう。そっちは普通科の棟だ」

「あぁ! ありがとう」

「いや、いい。……昨日は悪かったな」

 あの後戻らず帰宅した為に昨日の事を謝る。

「いやぁ…柑実から体調悪いって聞いたから。大丈夫?」

「ん、問題ない。貧血持ちなだけだ」

「そっか、大丈夫なのかよくわからないんだけど」

「大丈夫大丈夫」


 ぎこちないながらも少し話しながら二人は教室に向かった。


 * * *


 教室に着くと柑実と鉢合わせになった。

「お、二人一緒か。おはよう」

「おはよう。大きな子供の曷代くんは迷子になってました」

「迷子になってました……」

 曷代は面目ない、と頬を掻いた。

「ま、ぁ……俺も入学当初とか迷子になったし?」と柑実もフォローしていた。

「そっかぁ」

 胸をなでおろす曷代。

 コイツ迷子になった事なんて一度もないぞと内心ツッコむ。


 そうこうしていると朝のチャイムが鳴った。後ろから入ってきた担任にぽんっと出席簿で軽く叩かれる。

「はい、おはよーさん。お前ら席に着けー」

「叩くなよ、縮むだろ」

「縮まねぇよもう伸びねーだろうがな」

「おい伸びるわ。超伸びるわ」

 担任とやり取りをしていると横から柑実がニヤけながら言う。


「梛莵、牛乳って別に意味ないらしいぜ」

「なんで今そういうこと言うの?」


 別に小さくはない。周りがデカイだけだ。

 ムスッとしていると曷代に「はいはい座ろうなー」と手のかかる子供のように席に促される。

 それを見ていた周りは笑っていた。解せぬ。


 ふと、左の席が一つ増えてるのに気づく。

 なんだ? 曷代分の間違いか? そう思いそこまで気に止めなかった。

 するとそこへ亜妻が入ってくる。


「先生、準備できたので連れてきました」

「おぉ、ありがとうございます」

 廊下で「じゃあ頑張ってね」と言うと去っていった。


 準備。連れて、きた? 亜妻先生、さっきまで燐といたはずだよな?


 まさか、と思っていると予想は的中した。

「昨日の今日だが事情があってまた新しい仲間が増える。入ってきていいぞ」

「あ、あぁ……」


 そこに預けていたはずの燐が制服姿で入ってくる。


「梛莵は聞いてるよな」

 そういうと周りはまたこちらを注目する。

「いや、聞いてないっす……」

 本当どういう事なんだ。思わず苦笑いになる。

 柑実もこちらを見てどういうことだ? という顔をしていた。そりゃそうだ、昨日説明するって言ってしてなかったから。

 離れた席にいる羽蘭を見るとひらひらと手を振り薄っすら笑っていた。これは事後報告ってことか。

 何もかも任せていたから何も言えない。


 急に放り出された燐は目を泳がせ「私は燐……王城鈴、だ。えっと……私は燐だが私は王城鈴という子で……??」と何といえばいいのかわからず意味の分からない説明をした。

 当然といえば当然だ、不安もあり耳が下がっている。

 説明をと梛莵は口を開く。


「あー……簡単にいえば纒憑の稀なケース、元魂と纒憑が一人に収まってる子だ」

 その言葉に教室内がざわつく。


 続けて羽蘭が「梛莵が昨日どうしたらいいかって連れてきてね。本部と相談して『現段階で脅威ではないだろうが警戒を』と。監視も兼ねてこっちで預かる事になったんだ」

 燐は羽蘭と目が合い軽くお辞儀をする。

「安心してとは言えないけど、ある程度は『仲間』として接してほしいな」


 そうして燐は席を案内され、座る。

「後で説明しろよ」と柑実。梛莵は頷き、燐に声をかける。

「大丈夫か?」

「あ、あぁ……梛莵と別れた後亜妻に『今日からうちの生徒よ』って言われて着替えさせられたんだ。何がなんだか……」

「何だか淡々と進むな……」

 周りも気になるのであろう、チラチラとこちらに視線を寄せる。

 HRが終わり「次の用意しとけなーあとよろしく」と担任は出る。放置か。それとほぼ同時にクラスメイト達が集まる。


「おい梛莵どういうことだ? この子纒憑って……」

「大丈夫なの? なんで纒憑なんか」

「いや、あはは……昨日任務帰りに会ってぇ…」

 そりゃそうですよねー言ってしまえば皆の敵相手(かたきあいて)だしな……。


「ねぇねぇ、獣人? 君獣人なのぉー?」と一人の小さい女生徒が燐に声をかけていた。

 彼女はクラス唯一の獣人だ。

「あぁ。私は獣人だ。この身体の鈴は人間なんだが」

「んぇ? でも今の君ぃ……燐ちゃん? の耳と尻尾出てるよねぇ?」

「それなんだが、そこは私もよくわからなくてな」

「ふぅんそーなんだぁ??」

 わかりません、と頭に疑問符を浮かべていた。そこに関しては自分からも説明できないので何も言えない。


「よくわからないけど、紅ちゃんは【卯鮫(うざめ) (こう)】だよぉ。よろしくねぇ、燐ちゃん」

 にっこりと燐に笑顔を向ける卯鮫。


「あぁ、あぁ。よろしく、紅」

 安心したようで耳は戻っていた。


 とりあえず、大丈夫そうだな。


 で。先程から俺を睨みつけるかのように見ている不機嫌な柑実くんにはどう説明しようか。

 梛莵は胃が痛くなりそうだと腹をさすった。



「……せ、」

 燐は柑実の方をじっと見る。


「どうしたのぉ?」

「あ、いや。何でもない」

 卯鮫に声をかけられ視線を戻す。

「そぉ? あ。授業始まるねぇ」と言って卯鮫は席に戻っていった。


「……せん、せいの……?」

 そう小さく呟いた。

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