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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
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02.ヨロシク


「じゃあ席は一番目後ろの柑……あのオレンジ色の下睫毛の後ろな」

 そう言って柑実を指差す。

「おいこらなんだよ下睫毛って! 指差すな!」

「はぁ〜い! あそこッスね!」

「お前も納得すんなよ!!」

「元気だな下睫毛」

「梛莵?」

「ごめんごめん……ふふっ」


 席に座る転校生・曷代は改めて挨拶をした。

「よろしくな下睫毛くん! 変わった名前なんだな」

「違いますけど!?」

「ぷっ…あっははっ、もうだめ」

 完全にツボに嵌った梛莵を柑実は引っ叩く。教師は何事もなかったかの様に授業を始めた。

「あ〜教科書は梛莵、見せてやってくれ」

「はーい。俺の使っていいぞ、全部暗記してるし」と梛莵は教科書を渡す。

「ありが……え、何て? 全部暗記?」

「暗記」

「お、ほへぇ……」

 急に宇宙の話を持ち掛けられたような顔で変な声を出す曷代。前の柑実は肩を震わせて笑っていた。


 * * *



  ――キーン、コーン――



 授業の終わる鐘が鳴る。やっと休憩時間だ。

「腹減ったー」

「なんだ飯食べてないのか?」

「帰ってきて羽蘭んトコ行って報告して戻ってきたらすぐ授業だったから……」

 そう言いながらさっき貰ったチョコレートを食べる。美味いな、コレ。


「なぁ、教科書ありがとう。えっと……」

 そういえば名前言ってなかったな。

「あぁ、俺は朱鷺夜梛莵だ」

「俺、柑実如斗。下睫毛じゃないからな」

「おう! なぁ、これ全部暗記って本当か?」

「ふっ、んなわけないだろ」

半分は。

「あはは、だよなー! すげぇびっくりしたわ」と笑う。

 柑実も「初対面にすることじゃないな」と軽く笑った。



  ――なはは、と笑う少年。



 過去の記憶が頭を過る。


「はは……悪ぃ、ちょっとトイレ」

「え? おー……」

 そうして梛莵はふらっとした足取りで席を外す。

「な、何か俺悪い事言ったかな?」

「……いや?」

 柑実は曷代をじっと見る。曷代は困惑していた。

「??」

「ちょっと見てくるわ」

「あぁうん……」


 * * *


 梛莵は水を顔にかけ、冷ます。


「はぁ……」


 何、重ねてんだ。ちっとも似てなんかない。


 すぅ、ふぅー……と深呼吸していると声をかけられる。

「風邪引くぞ」

 ほら、と柑実はハンカチを差し出す。

「……柑実」

「まぁ、無理はすんなよ」

 そういって柑実は梛莵の頭をぽんぽんっと軽く撫でる。


「少し、似てたか」

「似てない。似て、ない……けど何か重なって、」

「……そっか」

「うん……」

「何か悪い事言ったかって気にしてたぞ」

「それは……悪い事したな」



  ――キーン、コーン――



「あ、チャイム……」

「梛莵、先生には言っとくから保健室行ってこい。少し貧血気味だろ。顔色も悪いし」

「ん……」

「教科書、勝手に貸すぞ」

「あぁ構わない、頼む」

 柑実はひらひらと手を振り教室に戻って行った。察しのいい幼馴染だ。


 * * *


 梛莵は保健室の扉を開く。

「先生ーちょっと寝かせ、て……」

「あ」

「え?」

「すみませんでした」

 そして即閉めた。


 ぬかった。検査って保健室でしてたのか。


 壁に寄りかかり座り込む。ちょうど服を捲っている所を開けてしまい罪悪感を感じた。

 すると中から先生が出てくる。


「朱鷺夜くんどうしたの? あら、貧血?」

「亜妻先生」

「もう中入って大丈夫よ。立てる?」

「大丈夫です、すみませんノックもせずに」

 気にしないで大丈夫と言われるが気にする。

 入ればこちらを向く燐。

「梛莵」

「おう……悪い」

「? なにが?」

 本人は気にしてる様子はなく何とも言えない気持ちになる。少しは気にしてほしい。

「朱鷺夜、なんだー覗きか?」

「違います」ともう一人いた教師が茶化す。

 養護教諭は席を外しているようだった。

「もう! 見野口(みのぐち)先生じゃないんだから一緒にしないの!」と亜妻先生は言ってくれた。それはそれでどんな返しなのか。


「梛莵、もうホウカゴか?」

 燐がこちらに寄ってくる。あ、やばい。

「いや、ま、だ……」

 視界が、揺れる。

「梛莵? おい? 梛莵!」

 立っていられず燐に(もた)れ掛かる。情けない。

 支えてくれたおかげで倒れずには済んだがどうしたらいいかわからず燐は必死に声をかける。

「朱鷺夜! 大丈夫か!? とりあえずベッドに……」

 そういって見野口は梛莵を抱きかかえベッドに運ぶ。姫抱きである。もう本当やだ色々。

「保健の先生呼んでくるわね」と亜妻先生は部屋を後にする。


 梛莵は現実逃避と言わんばかりに目を閉じた。


 * * *


「ぅん、」

「あ、起きた」

 寝てしまっていたようだ。声のする方に目をやると羽蘭がいた。


「大丈夫?」

「あぁ。悪い、どのくらい寝てた?」

「二時間くらいじゃないかな? 柑実が保健室行ってるって言ってたときからだと。あ、これ荷物預かったよ」

「そうか……ありがとう」

 何から何まで本当ありがたい。

「あんまり具合悪いようなら点滴受けてきなよ。で、このまま話していい? 場所変えるのも億劫でしょ」

「あぁ……悪い。頼むわ」

「別に謝る必要ないよ。えーと、燐ちゃんは特に身体は問題なく健康。血液も獣人でなく人間のものだったから本人の言う通り燐ちゃんと身体は別物と見ていいだろうね」

「そんなのわかるのか」

「まぁその種族特有のものがあるからね」

 なるほど、と関心する。


 ふと周りを見渡し誰もいない事に気づく。

「そういや燐たちは?」

「あぁ、先生達と色々買い揃えに出掛けたよ。一応十也(とうや)に付いて行ってもらってる」

「大丈夫なのか?」

「危険はなさそうって判断。でも警戒はしとくべきかな」

「やっぱりそうなるよな。……買い揃えって何を?」

「え? そりゃ服とか日用品とか色々?」


 何故そんな事に? 着替え、ということは……


「おぅ? 誰か預かるのか?」

「梛莵だよ」

「……え? 何て?」

 聞き間違いかと思って聞き直す。


「だから梛莵が、だよ。梛莵、今一人暮らしでしょ? ……楜莵(こと)たちもいないし、正直梛莵が心配なんだよ」

「……それとこれは別では、というか俺一応男だ「よろしくね当事者」」

 にっこり、有無は言わせないと言わんばかりの笑顔で圧をかけられる。

 引きつった顔で「はい……」とそう答えるしかなかった。




「戻ったよ」


 ガラリと扉を開き声を掛ける男子生徒【裙戸(ふちど) 十也(とうや)】。


 そして後から先生たち、燐が入ってくる。

「や〜久しぶりに色々見たわ、楽しかった」

「燐ちゃんいろんなの似合うから選ぶの迷っちゃって」

「つ、疲れた」

 先生達のテンションに振り回されたのだろう燐の耳が垂れていた。

「すみません先生方、ありがとうございます」

 領収書は預かりますね、と受け取る。

「十也も急にこんな事に付き合わせてごめんね」と羽蘭は裙戸に謝る。

「大丈夫だよ。明日奈(あすな)で慣れてるしね」


 一息ついた燐はこちらに気づき耳を立て、近寄る。

「梛莵! 起きてたか。大丈夫なのか?」

「あぁ問題ない」

「そうか、よかった」

 頭を撫でられ固まる。

「? 梛莵?」

「あ、いや」

 そんな梛莵を見て「あらあら〜」と見野口はにやにやしていた。

「燐ちゃんはしばらくの間梛莵の家で世話になってね。あとこれからの事はまた明日伝えるから一緒に来て」

「わかった」

「本当に俺ん家なの?」

「駄目か……?」と眉と耳が下がる。正直な耳だな。

「いや、燐がいいなら別にいいけど……」

 その言葉に微笑む燐。


「ありがとう、しばらくよろしく」




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