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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
14/52

13.事情


 病院は混み合っていて梛莵は椅子に座り呼ばれるのを待っていた。


「まだかの〜」

「出てくんなよ、病院に動物なんてだめなんだから」

「む……どこもだめだめばかりじゃな」と小声で話す。

 するとあれ? と言う聞き覚えのある声が聞こえた。


「梛莵くん?」


 名前を呼ばれ恐る恐る声の方を向くとそこには柑実の父・望がいた。


「の、望さん……こんにちは……」

「よかった、合ってた。久しぶりだね、最近あまり顔出さないから」

「あ、はは……」

 なんとなく顔を合わせるのが気まずく感じ声が吃る。

「ナオから聞いたよ。体調崩したんだろう? ちゃんと食べてるのかい?」

「はい……体調というか、一時的な術力の乱れというか……健康的には問題ないですよ(多分)」←結果待ちの人

「そうなのかい? ならいいけど……あ! そうだ、久しぶりに今日うちに食べにおいで。飾未達も会いたがってたし」

「……え?」

「この後学校でしょ? ナオにも連絡入れとくから」と言う望の周りには花が飛んで見える。

 断りづらい……どうする?

「で、でも〜……いきなりはさすがに迷惑じゃ」

「今丁度飾未が夕飯の買い物してるから連絡入れれば大丈夫だよ」

「ひゃ、ひゃい……」

「ふふ、じゃあまた後でね」と嬉しそうに去っていく望は自販機に激突していて近くにいた看護師に「呼ぶまで座ってて下さい」と止められていた。

 一難去ってまた一難。本当に胃に穴が開きそうだ。


「のう、のう、今のは昨日の坊主の兄弟かの?」

 隙間からピヨ助は望を覗き見る。

「いや、父親だよ。望さん童顔だからよく間違えられるけど」

「そうか、ふむ……随分まぁ……」

「朱鷺夜さんどうぞー」

「? あ、はい」

 ピヨ助が何か言いかけた所で呼ばれ梛莵は診察室に足を運ぶ。


 * * *


「梛莵遅いな〜もう昼だぜ」

「病院寄ってるからな。さすがにもうすぐ来んだろ」

 午前授業も終わり昼食を取っていた柑実達。

 飲み物を飲んでいると携帯が鳴り開く。

「メッセージ? ……父さんから? 珍しい……」

「どうかした?」

「……ブッ!!」

 するといきなり飲み物を吹き出し曷代に思い切りかかる。

「えっ汚!!」

「はぁっ!?」

 柑実の叫びは教室中に響いた。


『さっき病院でなとくんに合ったよ。

ゆうはん食べおいでて言ったから一緒に帰っておいで。あと鞄に隠れてた子も連れてきていいからね。今日はにぎやかなるよ〜 ついしん、自販機いた』

 と打ち間違いだらけの内容だった。


 病院……父さん今日検査の日だったのか。というかおいでって、梛莵だけならまだしも……あいつを一人にはできないだろ。それに鞄に隠れてたって、ピヨ助の事か? 何病院に連れてってんだよ。……いや隠れてたって事は隠してたって事だろ? また付いてきたって事か? 梛莵のやつ抜けてるしありえる……。

 父さんの事だし好意のつもりで誘ったんだろう。いや別にいいんだけど、いいんだけどっ……!!


 飲み物を吹っ掛けた事に触れず携帯を握り画面とにらめっこする柑実に曷代は「(俺いじめられてんのかな……)」と思い始めていた。


「はぁ、どうするよ……!」


 * * *


 [総合病院 診察室]


 パソコンに打ち込みながら男性は淡々と話をする。


「うーんそうだね、体温は低すぎだけど梛莵くんの場合は基準が普通より低いから問題なし。貧血もこれは君の術の属性が関係してるから問題なし。余り使わないように……とも言えないしね」

「はい」

 梛莵の方に向き直し話を続ける。


「あと体重。梛莵くんの場合今のとこ別に問題ないんだけどね、普通だったらぽっくり逝っちゃうくらいに軽すぎ。昔はもうちょっと普通だったよね……何で?」

「あはは……さぁ?」

「やっぱり術の問題かな……ふむ。しかし基準が基準にならないからほんとに面白いね、梛莵くんは」

「ほんと不思議ですね……」

「いや〜まぁでも、全体見ても健康的には問題なく。原因は精神的な術力の乱れというか、軽く……はないけど暴走状態だったって感じだね。けど貧血は良くないからね、鉄剤出すから飲んで」

「お願いします」

「しっかりご飯も食べる事。いいね?」と念を押す。

「はい」

「また違和感あったらすぐ来るんだよ。倒れる前に」

「はい……」

 男性は梛莵の頭を軽く撫で「……色々と辛いだろうけど、こんな時こそ周りに頼るのも大事だよ」という。

 梛莵は「はい」と頷く。


「と、まぁ俺が言えたことでもないけどね! にゃっはっは!」

「色々と台無しですよ院長」


 看護師にツッコまれる男性はこの総合病院の院長であり内科医で術専門医でもある【不動(ふどう) (あおい)】である。


「えー俺いい事言ったでしょ?」

「……いい事言ったとか自分で言わなければいいんですけど」

「えーだめー?」

「だめです」

「あはは……」

「冷たいなぁ〜。あ、そうだ、曷代くんって子転校してきたでしょ?」

「あ、はい。葵さんの紹介って聞きました。こんなとこ紹介するなんて人が悪いな、と」


 そう言うと笑顔で固まる葵、後ろにいた看護師は笑っていた。

「にゃっはは! 梛莵くん……新薬はいかが?」

 どこから出したのか空の注射器と何やら青い液体をチラつかせる。

「ご、ごめんなさい……」

「俺だってねー意地悪で紹介した訳じゃないよ。ちゃーんと話を聞いた結果ですぅ!」

「一応患者なんですよ。お止めなさい」

「にゃぅ! 俺の新薬!」

 頬を膨らませる葵から看護師は薬と注射器を取り上げて離れていった。

「一応……」

「皆冷たくてもう泣きそう。俺、院長だよ?」と言いながらしょぼん……としていた。

「それで、曷代がどうかしましたか?」

「あ、そうそう。あの子、大丈夫そう?」

「特には問題ないのでは……俺は術の扱いとか立ち会ったりしてないんでわからないですけど」

「そっかー……」と考え込む葵に「何か問題ありましたか?」と問う。

「んーまぁ問題って訳じゃないんだけどね。彼、術をしっかり扱える割に極端に術力量が低いんだよね」

「本人覚醒したばっかりだって言ってましたけど……覚醒しきってない訳ではなくですか?」

「可能性はなく、だけど。にしても才能だよな〜最初は暴走してなんぼだけどそれも無さそうだし」

「俺なんて辺り氷漬けにしまくって未だに迷惑かけてるのに……」

「そうだね。反省してね」

「優しさがない……」

 先程の仕返しだろうか……。

「まぁ特に今問題ないのならいいんだけど、少しの間でいいからちょっと気にかけてほしいなって。あと気になる事があったらいつでも寄ってねって伝えておいてくれるかな?」

「わかりました」

「うんうん。ちゃんと聞いてくれる子はいいね〜」

「……あの」

「ん?」

「曷代に紹介したのは、自分と……重ねてでしょうか」

 問われた葵はきょとんとした顔で少し考え「んー、いや。そんな事はないよ。彼は彼の事情をしっかり聞いた上での紹介だ。俺と重なる部分はないよ」と言う。

「そう、でしたか」

「俺は……息子としっかり向き合って来なかった結果、だからな」

「……」

「ちょこちょこ、家に帰ってこない事はあったんだ。どこ行ってたかとか、わかんないんだよね。聞き出そうにも顔を合わせるとどうも話せなくて……」


 話していると看護師が戻ってきて「次がつまってますよ」と声をかける。

「長話になっちゃったね。曷代くんのことよろしくね」

「あ、はい。ありがとうございました」

 じゃあね〜、と見送られ梛莵は部屋を出た。

 


「……ほんと、どこほっつき歩いてんだか。バカ息子は」と呟いた。


 * * *


「ぷはーやっと出れたわい」

「家にいりゃこん中に入らなくても済んだろ」

 梛莵の頭の上で一息するピヨ助。

「留守番なぞ嫌じゃ。余は自由でありたいんじゃー」

「我儘だな……」


 話しながら歩いていると携帯が鳴り、出る。

「もしもし柑実? どうしたんだ?」

「梛莵、病院終わったか?」

「あぁ、今学校の着いた所だ。教室ならもうすぐ着くけど……」

「わかった」

「?」

 そういって通話は切れた。なんだ?

「……梛莵、三歩下がるのじゃ」

「!」

 後ろに下がると目の前に人が落ちてくる。


「か、柑実?」

 降ってきたのは携帯を握った柑実だった。なんでそんなとこから降りてきたの?

 三階から曷代が「まじかよ柑実やべーな!」と言いながら覗いていた。止めろよ。


「梛莵、ちょっと」

「……おぉ」歩き出す柑実についていく。

 呼び出し回数多いな、と思いながら。


 * * *


 [中庭]


 買った飲み物を梛莵に投げ渡し壁に寄りかかる。

「結果どうだったんだ?」

「あぁ、健康的に問題なしって。術力の乱れが原因だって」

「そうか。まぁそれも問題だけどな」

「ははは、まぁな」

「……父さんから連絡きた」

「あー……そういや望さんに会ったわ」

「後半ちょっと意味わかんなかったけど」

「後半?」

「なんか自販機が居たとかって……」と言われ思い返す。

「自販機? あぁ、自販機に激突してたわ……」

「痛いって事か……なるほどな」

「……あと夕飯食べにって誘われた」

「それだよ話。……別に嫌とかじゃなくて、」

「わかってるよ。燐の事だろ」

「ん。……あとピヨ助。鞄に隠れてたのバレてたぞ」

「えっ」

 隠れられてたよな? 話してたの見られてた?

「……余、ちゃんと隠れられてなかったかの?」

「いや、だって葵さんにはバレなかったぞ?」

「あー……父さん気配には敏感なんだよ。特に動物にはな」

「なるほど……?」

「まぁそんなのはいい。ピヨ助はバレてるからいいとして、問題はあいつをどうするかだ」

「断われとかは言わないんだな」

「言ったろ、別に嫌な訳じゃないって。それにどうせ断われなかったんだろ」

「よくおわかりで……」

「まぁ梛莵が最近遊びに来ないって嘆いてたしな」

「しかしまぁ……色々とタイミングがよろしくて」

「ほんとにな。こっちは遠ざけてたのに、あっちから寄ってくるんじゃ避けられねぇな」

「んー、誰かに預けてってのもちょっとな。今日の今日じゃ……あ、卯鮫は、」

「任務だ。いない」

「そうか……」

「はぁ、もう腹括るしかねぇか」と柑実は座り込んだ。

「でも、」

「……正直、考えるのちょっと疲れたわ」

 膝を抱え込み顔を埋める。


 ピヨ助が「燐の嬢が何かあるのかの?」と聞いてくる。

「あーえっと……ピヨ助ってどこまで知ってんだっけ」

「何も知らぬ。じゃがその坊主と燐の嬢がぎこちないのは薄々と」

「そうか。燐の事の後だしな、ピヨ助が来たの」

「うむ。その歳で一つ屋根暮らしとは今時代からすると進んどるなとしか」

「なんかすげぇ勘違いされてんな」

「まぁ……事情知らないし……」

「?」


「えーと……ピヨ助、『纒憑』ってわかるか?」

「ぬ。人子に取り憑くろい魂を喰らう黒い影みたいな奴の事かの」

 ピヨ助は眉? を潜める。

「なんだ知ってるのか、なら話は早い。燐はその纒憑なんだよ」

「燐の嬢が?」

「あぁ。燐は稀なケースで纒憑となった燐の魂と元魂……身体の元の鈴って子の魂が一つに収まってる……らしいんだよ」

「曖昧なのじゃな」

「まぁ……その鈴って子に会ったことないから確信が得られない状態なんだよな。俺が一緒に暮らしてるのは燐の監視……って事」

「なるほどのう? しかし危険ではないのかの? 術者だからといえど取り憑かれぬ保証はなかろうに」

「うーん、全く危険がないとは言えないけどな……難しい所だよ。ただその鈴が燐の言うように残ってるってのなら話は変わってくる」

「そういうものか」

「あぁ」


 梛莵の説明に少し考えピヨ助は唸る。

「色々と……聞いとる感じじゃと主らのいる所は普通の学び舎に通う人子と少し違く思うの。術者ばかりじゃし」

「あ、そっか。前置きがなかったな。俺らのクラスは竒術師っていってその纒憑の討伐者なんだ」

「竒術師とな……ふむ、今は術者をそう呼ぶのか」

「術者全てをって訳じゃない。纒憑も相手にする術者の事をそういってるんだよ」

「……『も』?」

「相手するのは纒憑だけって訳じゃないって事。脅威が纒憑だけとは限らないからな」

「ふむぅ、なんじゃ混沌としよるの」

「平和そうに見えてもそうでもないって事だよ、この世界は」

「……まぁ、そうじゃな」

 それに、と梛莵は続ける。

「噂じゃ前に一晩で一山を焼け野原にした奴とかも出たらしいし。消火も済んでたみたいだけど。ぽっと出の纒憑が出来るような術力量じゃないって話だからな」

 どんな脅威があるかわかったもんじゃない、と。

「ほう」

「そういうのにも対処してかないといけないから」

「大変な世の中じゃの。いつ時代も争いは消えぬか」

「まぁ、全く争いのない世界なんて簡単にはいかないよな」


「うむ……して話を戻すが。坊主と燐の嬢がぎこちない理由はなんじゃ? 燐の嬢がその纒憑だからかの?」

「そうだよ」と黙っていた柑実が答える。

「あいつが纒憑だから俺はあいつが嫌い。だから家になんて呼びたくないんだよ」

「なんじゃ急に幼子の我儘みたいな事言いよるな」

「はっ、我儘で結構。嫌いなもんは嫌いなんだよ。ましてや父さんを探してる奴なんて」

「柑実……」

「わからんの。探してるのなら会って話をすればよかろう。何をそんなに嫌がる?」

「何も知らないくせに簡単に言うんじゃねぇよ!」

 拳を強く握り壁を殴る。

「……」

「俺は父さんとあいつを会わせたくない。過去に知ってる相手だろうと、今が纒憑であることに変わりはないからな」


「……その父親の術力の乱れと関係がありそうじゃな」

「!」

 柑実は目を見開いてピヨ助を見る。

「な、」

「お主の父親……目がよく見えておらぬのじゃろう」

「気づいてたのか」

 病院で言おうとしていたのはこれか、と梛莵は思う。

「人子にしては強い術力がずっと暴走しておる状態じゃったしの。ほとんど漏れ出す事なく自身には収まっとるようじゃがその影響が目に来とるとみた」

「……」

「慣れているようじゃし長い間それが続いとるという事じゃろ」

「そうだよ、でもだからなんだ」

「原因を探って治そうとは思わんのか?」

「……原因なんて、そんなのわかってんだよ」

「……」

「無理なんだよ。失ったものは、もう取り戻せないんだから」


 その言葉に梛莵も眉を顰めた。

「……さすがに無神経じゃったな。すまぬ」

二人の様子に思うとこはあったがピヨ助は謝る。

「しかしあのままじゃと影響は目に留まらず、じゃ。これは忠告じゃぞ」

「なに、」

「どのくらいの期間かは知らぬがな、所詮人子。あれほどの術力が魂を飲み命を蝕むのも時間の問題じゃという事よ」

「……」

「早いとこ、緩和させぬと取り返しのつかぬ事になるぞ」

「緩和ったって……ピヨ助、望さんから術力を取る事はできないのか」

「やらぬ。梛莵は外に溢れておったが故にやったまで。自身に収まっとるものを無理に取れば他に影響が出よう」

「影響って、どんな」

「そうじゃな……大袈裟に言えば植物状態じゃろうか」

「植物状態って……」

「術者の術力は魂の一部。その魂の一部が千切れてみよう、半死人となろうな」

「その魂の一部を取ったのか……」

「溢れ出す分は別じゃ。溢れた、という事は魂の一部として余分という事。千切れても問題はない」

「なるほど、な?」


「精神の乱れは魂の乱れ。術力の乱れは精神の乱れよ」

「魂の、乱れ……」

「多少の悪影響があろうとその悪影響が互いに良い影響に変わる事もある。嫌と言わず、会わせてみれば良かろう。何、燐の嬢が危害を加えんだろう事は気づいておるじゃろ?」

「そ、れは、まぁ……」

「お主、口では嫌いと言ってはおるが実際は別に嫌いではないじゃろ」

 そう言われ柑実は黙る。

「え、そうなの?」

「梛莵ちぃと黙っておれ」

「……へーい」

 梛莵を黙らせピヨ助は柑実に寄る。

「お主が父を大切に思うのはわかった。じゃが縁を切り離してまで守る事は優しさではないぞ。時に……突き放し、ぶつかる事も大事よ……」

「……そんなの、わかってるっつの」



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