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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
13/52

12.安心感と


現在に戻ります


「……」


 目を覚まし、梛莵はボーッと天井を眺める。


「(学校……今何時だ)」


 時間を確かめようとするが身体がうまく動かずため息をついた。


「目が覚めおったか小僧」

「ピヨ助……」

 ひょこっとピヨ助が枕元に登ってくる。

「全く。なかなか目を覚まさんから大変だったんじゃぞ」

「……俺、どのくらい寝てたの?」

「三日くらいかの。燐の嬢が心配しておったぞ」

「三日も? はぁ……燐は?」

「紅達と買い物に出かけておる。もうすぐ帰ってくるじゃろ」

 話していると玄関を開く音と共に話し声が聞こえた。


「何かとすまない……わからない事だらけだから助かった」

「大丈夫だよぉ困った時はお互い様! ね! 柑実くん」

「別に、俺は梛莵が連絡つかないから……」

「帰ってきたようじゃの。ちょいと声かけてくるわい」

 そう言ってベッドを飛び降り歩いていった。

 飛ばないんだ……。

「っ、寝すぎか……身体痛ってぇ」

 重い身体を無理やり起こす。



「梛莵ぉ!」

 スパーンといい音を立て襖が開かれた。壊れるわ。

「目が、覚めたのか……!」

 安堵した燐はゆっくりとこちらに近づき梛莵を抱きしめた。

「ちょ、燐っ」

 戸惑う梛莵を余所に続ける。

「よかった……皆心配したんだぞ……」

「あー……ごめん」


 その様子を面々は覗き見ていた。

「おーおーアツいのぉ若いのぉ!」

「紅ちゃん達お邪魔かなぁ?」

「知るかよ……はぁ、ったく。とりあえず皆に連絡してくる」と柑実は一旦外に出ていった。


「梛莵くんおはよぉ」

「卯鮫」

「おはよぉ」

「お、おはよう……」

「うん! よかったねぇうんうん。燐ちゃんも梛莵くんも学校来ないし、連絡もつかないから大変だったんだよぉ! 特に柑実くんとあっちゃんがぁ」

「柑実はまぁともかく……羽蘭?」

「うん〜。『何かあったのかもー全部俺が押し付けたからだー』ってぇ。まぁ否定はしないけどぉ」

「お、おう……」

「それに! 梛莵くんってば燐ちゃんに伝通石の使い方教えてないでしょぉ!」

「あ、忘れてた」

「それで連絡つかなかったんだぁ。石のおかげで燐ちゃんが家にいるのがわかったからよかったものの、なかったらもっと大事になってたんだからねぇ」

「悪い……」

「もう! 後であっちゃんに直接連絡入れなよぉ」

「あぁ」


 連絡する為外に出ていた柑実が戻ってくる。

「梛莵、具合はどうだ」

「寝すぎで身体痛いくらい、かな」

「そうか、ならいい。とりあえず腹に入れないとな」

「じゃあ紅ちゃんお粥作ったげるー!」

 積極的に卯鮫は手を上げ跳ねるが即座に拒否される。

「「気持ちだけで十分です(だ)」」

「な、なんでよぉ!?」

「お前は梛莵を永久に眠らせる気か? 前にダークマター形成して裙戸を病院送りにしたの忘れたのかよ」

「あ、あれは初めてのケーキ作りだったからぁ……普通の料理はできるもん……」と目をそらす。

 梛莵は「あれ、ケーキだったんだ……」と闇を感じさせる本人曰くケーキ(?)を思い出しながら呟く。

「ダークマターって……大げさじゃないか?」

「燐ちゃぁん!」

 苦笑いする燐に卯鮫は抱きつく。

「お前はアレを見てないからそんな事言えんだよ……」と柑実は呆れ気味に言う。

「とにかく! 病み上がりに刺激物は駄目だ!」

「刺激物扱いぃ……」

「粥なんてレトルトでも十分だろ」

 そういって買い物袋からレトルトの粥を取り出す。

「レトルトかよ」

「文句あんのか?」

「ないっす」


 * * *


 温められた粥を冷ましながら食べる。

「そうだ。葵さんが検査受けに来いって」

「大事だな」

「丸三日も起きずに寝てたからだろうが」

「あはは……」

「……これ以上心配かけさせんなよ」

「ごめん……」

「卯鮫だってああしてはいるがお前がこいつらと住んでんのだって大丈夫なのかって気にしてんだぞ」

 卯鮫の方を見ると燐とピヨ助と遊んでいた。

「そうなのか」

「そこまで馬鹿じゃないって事だ。あんなんだが」

「ちょっと柑実くん聞こえてるかんねぇ!?」と言ってくる卯鮫にしっしっと払うように手を振る。


「……柑実、大丈夫なのか?」

「それはお前だろ。なんだ急に」

「いや、だって……」

「……はぁ。卯鮫がいてくれてよかったと今なら思うな」

「……」

「別に、何かしてくる訳じゃないならずっと突っかかっててもしょうがないだろ。それに今回に関してはあいつがいてよかったと思ってる」

「あぁ……」

「でも父さんに会わせる気がないのは変わらない、それだけだ」

「ん、そうだよな」

「ふぅ……そろそろ俺らも帰るわ。あんまし長居すんのも悪いしな」

「わざわざありがとな」

「おう、またな。卯鮫お前も帰んぞ」

「えーもぉ?」

「任務もないのに遅いと心配されんだろ?」

「ぷぅ……仕方ないねぇ」

「二人共、何かと助かった。ありがとう」

 改めて礼を言う燐にあー、と目を逸らし「……うん」と言って柑実は先に外に出る。

「もー柑実くん素直じゃないなぁ。梛莵くんお大事にねぇ〜燐ちゃん、ピヨちゃん、またねぇ」

 卯鮫は手を振り出ていった。



「ふぅ」

「あまり無理に食べなくていい」

「うん……」

「ゆっくり休め、だが今度はちゃんと起きてくれ」

「あぁ。心配かけた」


 大人しくしていたピヨ助が机に飛び乗り声をかける。

「梛莵よ」

「ん? 何、ピヨ助」

「お主……術力の種類はなんじゃ」

「種類? たしか……神術、妖術、魔術の掛け合わせだ」

「なるほどの。そういうことか」

「何がだよ」

「お主の術力は不思議な味がしたから気になっただけじゃ」

「味? ……というかまた術力取ったのか」

「術力のせいで死にかけたくせにの。余は助けてやったんじゃぞ、感謝せい」

「死にかけって、大げさな」

「精神状態がそれほど不安定と言う事じゃ。たかが人子、術力で押し潰されて崩壊してもおかしくはないぞ」

「……」

「お主の事情は余に関係はないが世話になっとるからの。多少の助力にはなろう」

「……どーも」

「しかしもう少し鍛えぃ。そんなんじゃいつまでも不安定なままじゃ」

「鍛えろったってそんなものどうやって鍛えんだよ」

「知らぬ!」

 知らないのかよ、と梛莵は苦笑いする。


「……精神状態、ね」

「自覚はあるのか」

「そりゃね」

「ふむ。まだ自覚があるだけ良しとしよう」

「何目線なんだよ、ったく」

「神目線じゃろう」

「はいはい」

「まだ信じとらんな? 今に見とれ! 余が戻った時、頭を垂れるがよいぞ」と偉そうに笑うピヨ助に苛立ちを感じつつもどこか安心感を覚える。

「なんだかな」

「何がじゃ?」

「……なんでもないです」


 * * *


 〈二日前 PM.14:40〉


 電話を掛けるも繋がらず柑実はトン、トンと指で机を叩く。

「梛莵のやつ、全然連絡つかねぇ」

「燐ちゃんの伝通石も繋がらないね……何かあったのかな?」

「わかんねぇけど……チッ」

「ちょっと舌打ちしないでよ〜怖いな。あー、俺が全部押し付けたからぁー……」

 羽蘭は頭を抱え机に突っ伏す。

「梛莵くんもしかして燐ちゃんに使い方教えてないんじゃないのぉ?」

 卯鮫は半泣きの羽蘭を撫でながら言う。

「えぇ、そんな……梛莵ならたまに抜けてるからありえるかも。どうしよー梛莵に何かあったら俺、色んな人に祟られそうだよぉ」

「……」

「そんな顔されてもぉ!! 俺が悪かったから怒らないでよ! 柑実怖いよ!」

「別に怒ってねぇよ。俺、今から梛莵ん家行ってくる。いなかったらあいつ探して切り刻んでやる……」

「は? いやいや何言ってんのさ! まだ燐ちゃんが何かしたとは限らないよ!?」

「あはは、梛莵、天に召されてるかもね?」

「ちょっと十也!?」

「全く。GPSで燐ちゃんのいる場所わかるでしょう」

「あっ」

「羽蘭ぁ……」

「ひぃーんっ! 怒ってるじゃん! 柑実怖いよぉ! 調べてくるよ今すぐにぃ!!」


 * * *


 [梛莵宅]


「梛莵、梛莵! いるだろ! 開けろ!」

 柑実は梛莵の家の呼び鈴を鳴らし、玄関を何度か叩いた。しかし返事はなく開く様子もない為焦る。


「(伝通石の反応からしてあいつは家にいるって言ってたが……もしかして外してるのか? 梛莵、なんで連絡つかないんだよ……!)」


 ――ガチャッ……


「!! 梛莵、」

「かん、み?」

「っ! テメェ、」

「柑実、助けてくれ……!」

 燐は縋るように柑実に抱きつく。

「なっ!」

 引き剥がそうとして止まる。

「梛莵が、梛莵がいくら声をかけても起きないんだ……!」

「……!」




「一昨日……具合が悪かったみたいで、頭痛いからって先に寝たんだが……その後一度声をかけた時は起きたんだ」


 燐は掴まれた時に触れた所を擦り続ける。

「でも凄く冷たくて。意識もはっきりしてないようだったんだ。誰かを、求めてるというか……」

「……」


「(息はある。浅いが……それに体温も異様に低い。脈は? チッ……手が震えてよくわかんねぇ。術が漏れ出てる感じもないが……とにかく葵さんに連絡するか)」


 燐を見て、梛莵に視線を戻す。

「?」


「(誰かを、ね。……慶悟)」


 眉をひそめ添えていた手に力が籠もる。

「……」

「あの、」

「専門医に、連絡入れる。他に変わったことは?」

「あ、ない……と思う」

「わかった」

「梛莵は恐らく軽い冬眠状態じゃろうな」

「……何?」

 ぷはっと布団の中からピヨ助が顔を出す。

「術力が自身の中で乱れとる。じゃが重大な影響は見られん」

「冬眠って……梛莵は人間だぞ」

「無い話ではないじゃろ」

「適当な事を……」


「……梛莵、泣いていた」

「……」

「いなくならないでって……寂しいのは嫌だって言っていた」

「……そうか」

 柑実は立ち上がり携帯をいじりながらリビングの方に向かう。


「……梛莵の側に、いてやってくれ」

 一度立ち止まりそう言われ驚きつつも燐はこくりと頷いた。



 * * *


「柑実くんよかったのぉ?」

「お前まで……何が」


 梛莵の家を出た帰り道、卯鮫は柑実に問う。

「だって、斬るチャンスだったでしょぉ?」

「……お前、腹黒いな。仲良くしてるくせに」

「ん? んーまぁね、つぐちゃんが仲良くしてねって言ったからぁ」

「はっ、あいつの為に怒ったのによ?」

「あれは柑実くんが怒鳴ったりするからでしょぉ? 紅ちゃん、怒鳴るの嫌いなのぉ」

「……」

「紅ちゃんは別に、恨みはないけどぉ。紅ちゃんを助けてくれた人達を傷付ける纒憑は嫌いだからぁ」

「……そう」

「だけど、わかんない」

「……」

「紅ちゃんのしてる事は、正しい?」

「さぁな。ほら着いたぞ」と入口の前に丁度見野口がいた。

「お、紅おかえり。柑実も一緒か」

「つぐちゃんただいまぁ! 梛莵くん所行ってきたぁ」

 卯鮫は見野口に抱きつき耳をピコピコさせた。

「なるほどな。朱鷺夜は大丈夫なのか?」

「あぁ。目覚ましたから飯食わせてきた」

「そっか。ならよかった。紅の事もわざわざ送ってくれてありがとね」

「別についでだし」

「柑実くん口悪いけど優しいよねぇ」

「そうだなー」

「……そのまま帰りゃよかったわ。じゃあな」

「うんありがとぉ〜ばいばい!」

「気をつけてな」

 ひらひらと手を振り帰る柑実の背を見送り卯鮫達は家に入る。


 はぐらかされた、と思い出すのは卯鮫が布団に入ってからだった。


 * * *


 次の日、申し訳ないと思いつつ柑実に燐を頼んで梛莵は病院で検査を受けてから学校に行く事になった。


「(さすがに断られると思ったけど引き受けてくれるとは……)」


 心情の変化? 寝てる間に何かあったのか?


 考えながら歩いていると


「梛莵ぉーー!!!」


「? ……ぐふっ!」

 後ろから勢いよく飛びつかれ下敷きにされる。

「梛莵、よかったー!! 心配したわっ」

「わかった、わかったからどいてくれ……」

「チサ、病み上がりの人に突進はよくないよ」

 由月は哉妹を持ち上げ退かす。

「だってだって、梛莵が天に召されたとか言うんだもんっ」

「おい誰だ勝手に殺した奴」

「裙戸だよ」

「何でだ、俺があいつに何したって……したってんだ……」

「なんか心当たりなくはないって感じだね……」

「……間接的には?」

「まぁ、羽蘭関係でしょ」

「よくわかってんな」

「裙戸が干渉するのなんて羽蘭くらい、だし」

「ははは、」

「梛莵の保護者は柑実くんよね」

「保護者て……よく言われるけども」

「……そしたらチサの保護者は俺?」

 弟が保護者って。哉妹は姉として見られてないんじゃないか?

 本人は「そしたらあたしは雅の保護者かしら?」と。


「朱鷺夜、もう体調は大丈夫なの?」

「とりあえずは。今一応病院で検査受けてきて結果出るまで時間かかるし先に先生に報告しにきたとこ」

「そう……」

 何か気にする様子の由月にもしかして、と思い

「あぁ、由月のせいとかじゃないから気にしなくて大丈夫だぞ」

「……俺の影響受けてじゃないの?」

「あぁ全く別だ」

「そ、っか」と由月は半信半疑で受け入れる。まぁ仕方ない、のか?


「そうじゃぞ。こやつはこやつの問題じゃから他の影響ではないぞ」


「「……え?」」と声がする方……鞄を見る。

「いや、何でまた鞄に入ってんだよ!!」

「だって家で一人とか寂しいじゃろ!」

「何言ってんだ……」


「梛莵、おはよう」

「うおっ、あ、羽蘭おはよう」

 背後からいきなり話しかけられ少し驚く。何で皆後ろから狙うのか。

「元気そうでよかったよ」

 そう言う羽蘭の顔は笑っているが少し引きつっていた。

「悪い……迷惑かけた」

「迷惑なんかじゃないよ〜。わ……俺の方もごめんね、その、全部押し付ける形になって」

「いや、本を正せば俺が……それに羽蘭はあれこれ手を回してくれたしこのぐらい平気だ」

「あはは、そう言ってもらえると助かるよ。でも……本当に無理なようなら言ってね」

「ああ」

「ところで……ピヨ助ちゃん連れてきたの?」

「いや連れてきた訳じゃなくて付いてきたんだ……」

「あらま〜もうクラスの名物みたいな感じで置いておけばいいんじゃないかな?」

「そんな適当な……普通に駄目だろう」

「だってピヨ助ちゃん喋れるし普通の動物とは違うでしょ? あ、ピヨ助ちゃん人になれたりしない?」

 名案! と言わんばかりに目を光らせ指を鳴らした。

「いや何言ってんだ」

「今は無理じゃのう」

「完全に否定はしないのか」

「普段は人型で生活しとったしのう。今は術力の関係で小鳥型なだけじゃし」

「……ピヨ助ちゃんは人なの? 鳥なの?」

「神じゃと言っておろう! ……まぁどちらかと言えば本来は鳥じゃが」

「ふーん……」

「信用しとらんな?」

「いや信じてない訳じゃないよ。変化に関して俺は何も言えないし」

「そうかの? なら良いが」

「とりあえず付いてきちゃったものは仕方ないし先生にも言っとくしかないよね」

「まぁた怒られんのか……」

「さすがに事情知ってるし怒られないでしょ〜俺も一緒に行くよ」




「普通に怒られましたけど」

「うん、ごめん。でも一人じゃないよ」

「そういう問題でもないな」


 報告等も含め担任の所に行き、ピヨ助の事も話すと「事情があろうと良いわけないだろう」と引っ叩たかれた。じゃあもう俺はどうしたらいいんだ。


「なぜ人子はすぐに怒るのじゃ」

「あのなぁ……まず学校は部外者は必要外居ちゃだめなの! 燐はもう生徒だけどお前は違うだろ。それに動物なんか以てのほかだ」

「なんじゃ学校とはケチなのじゃな」

 ケチじゃねぇわこのやろう、と思いつつもツッコむまいと抑える。

「はぁ……羽蘭、俺結果聞いてくるから病院また戻るわ」

「あ、一旦戻って来てるだけなんだっけ。ピヨ助ちゃんはどうするの?」

「とりあえず鞄に突っ込んどく……お前大人しくしてろよ」

「む……仕方ないの」

「あはは、バレないようにね……」


 羽蘭と別れ梛莵は病院に向かった。



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