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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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しばしの別れ

戦闘機の中はプライベートジェットそのものだった。確かにこの無人戦闘機、プライベートジェットくらいの大きさだ。偉そうな革の座席が4つあり、俺たちが座るとモニターに映像が映し出された。映っているのは山猫と100歳は越えているであろう老紳士だ。すると老紳士はアダム機関についての話を始めた。

「君たちに会うのは初めてだ。私はエドワード・フリーマン。アダム機関に関係のある人間だ」

俺たちは驚いているがエドワードは淡々と話を続けていく。

「私が産まれたのは第一次世界大戦の時だった。両親は戦争で死に、私は3歳で天涯孤独になった。だが両親が死んでから2日後に彼らは私を連れていった」

「それが、アダム機関ですか?」

「久遠、そう言うことだ」

エドワードの隣に座っている山猫は煙草の煙でわっかを作りながらそう言っている。

「その日から私は彼らの実験材料になった。ある日は私の脳に薬品を注入したり、またある日はよくわからない数式を何時間も解かされたり日によっては電気ショックまで受けた」

そんな狂った事を毎日?エドワードの話すリズムは話の内容とは大きくかけ離れており、それが実験の狂気や恐怖をさらに大きくした。

「そんな生活が6年も続いた。9歳になった私はあるテストを受けた。それは日本の東京帝国大学の入学試験だった。だがその時の私はそんなことは知らずそのテストを解いた。その時に私は気付いたんだ。私は異常だと。問題が年相応では無いことを私は知った。それなのに私にとってその問題たちはとるに足らなかったのだよ。試験は合格、その年から私は帝国大学に通うことになった。その時乗った船の事は今でも覚えている。そして人生で初めて友人が出来たんだ」

エドワードは嬉しそうに話す。初めての友人とはどんな人物なのか。今でも元気でいるのか。そういった考えてが俺の頭の中を回っている。だが、その友人がどうしているかは直後に分かった。エドワードは山猫の肩をポンポンと叩いているのだ。その行動が意味しているのはひとつしかない。

「もしかして、山猫ですか?」

「そうだ。俺がエドワードにとって初めての友人だ」

俺は驚き過ぎて思わず笑ってしまった。山猫とエドワードは不思議そうにしていたが気にしない。俺は気が済むまで笑い続けた。

「久遠、話に戻っていいか?」

「あ、いいよ」

「ある日幸太郎がいなくなった。私は思い当たる場所をすべて探したがそれでも見つからなかった。だが、思わぬ形で彼と再開することになった。彼は眠っていたのだよ。私が何年も過ごしたヨーロッパのアダム機関の研究所で。いくつものチューブに繋がれた状態でね。彼らは子供のように大喜びしていたよ。そして私に言ったんだ。『君は素晴らしいお土産も持ってきてくれた』と。その瞬間私の意識は遠くへと飛んでいき、気が付いた時には彼の体にまとわりついていたチューブをすべて外し、研究員たちをそのチューブで絞め殺していた。でも、幸太郎は助からなかったんだ」

エドワードは急に泣き出したがその意味を俺は理解することが出来なかった。山猫がエドワードの隣に健康な状態で座っているからだ。一体エドワードは泣いているのだろうか。泣くエドワードは喉から絞り出すように「彼の寿命は伸ばされていた」と言った。俺は最初は意味が分からなかったがエドワードは話のおかげで理解出来た。エドワードが言うには遺伝子の中には回数券のようなものがあり、その回数券を使い切ると人が死ぬのだという。つまりその回数券の回数が多ければ多いほど長生きが出来るわけだ。そう。山猫はその回数券の回数を異常に増やされたのだ。30代に見えるが実際にはエドワードと同じく100歳を越えているそうだ。エドワードの計算によると山猫は300歳まで生きる。80年の人生だって別れの悲しみは大きい。その数は3倍になったら間違いなく気が狂ってしまう。だから山猫はわざとチャラチャラした態度を取ることによって自分が狂わないようにしていたのだろう。

「エドワード、昔の話をするのはやめろ」

「なんでだい?」

「俺がジジイってバレたら女の子たちと遊べないだろ。あ!真理亜ちゃん、久遠。また日本でな!」

俺の考えは大きく外れていたようだ。

俺たちを乗せた戦闘機は何のトラブルも無く、2時間後には基地の滑走路に着陸し、椎名たちが出迎えてくれた。

「おかえりなさい」

椎名は優しく微笑んでいた。

「ただいま」

「桃花ちゃん!ただいま!」

「フフッ、おかえりなさい乃木さん」

俺たちはエディとジムに別れを告げ、女3人旅客機に乗り、日本へと帰った。


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