お土産
すると男は右足を俺たちの方に思いきり倒し、たった2歩で俺たちの目の前に立ち俺を蹴り飛ばした。俺の体は3メートル程飛び、壁に衝突し、目から火花が飛び散るような衝撃を味わった。俺をはね飛ばした足は次に乃木を狙いに定めた。乃木はなんとか避けたが、男はナイフを取りだし、乃木の肩を切った。
「うぅ」
乃木の肩からは血が滴り落ち、元々白かった床を紅く染めてしまった。
「ウオォォォォォォォォォォォ!」
立ち上がった俺が自身を大声で奮い立たせながら小銃を連射する。しかし、ほとんどの弾を男は軽々と避けた。まるで止まった弾でも避けるように。
だが、1発だけ男の足に命中した。男の足からは血が垂れ始めている。「フん、少しワやルみたイだナ」男がそんなことを言った時、ひとつの発砲音が男の後ろから聞こえた。
椎名が男の背中を撃ったのだ。男は背中をさすりながら自身の首に注射をした。
「アドレナリンだ。マダまだだナ」
男がそう言った瞬間、エディが男に並んだ。
「悪いな、右腕は貰うぞ」
エディは散弾銃の引き金を引く。男の右腕の肉は花火のように飛び散り、白い床を汚す。片腕を無くした男はバランスを失い、倒れそうになる。そのタイミングでエディは男の前に立ちはだかり、男の顔面に1発喰らわせた。男は倒れたがすぐに立ち上がり、やはり片言の日本語で「オ前らワ必ずこロす!必ズだ!」と俺たちに叫んでダクトの中に逃げ込んでしまった。
「乃木、大丈夫か?」
「かすり傷だよ。大丈夫」
「あの男は追うか?」
「ううん、追わない。乃愛ちゃん。私たちの任務はアラハバキの無力化だよ」
椎名はすでに医者を拘束していた。
「先生、今すぐアラハバキを停止させて下さい」椎名は医者のこめかみに拳銃を押し付けていた。
「私は父親代わりでもあったんだぞ!417!父親を脅すと言うのか!」
「417?なんですか?それは。私の名前は椎名桃花です。私はモルモットではありませんよ。分かってるんですか?」
椎名はなかなかの迫力で言った。まるで迫力で医者を殺してしまうのではないかというくらいの迫力だ。
「久遠さん、乃木さん。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「うん、大丈夫だよ」
椎名は手際よく、乃木の肩に消毒液を塗って、ガーゼを被せた。
「桃花ちゃん、急にはやめてよ!痛いじゃん!」
「痛いから急に塗ったんです。ゆっくりやったらもっと痛いですよ」
「そうなの?」
「はい」
「エディ、ひとつだけ俺のお願いを聞いてくれないか?」
「なんだ?」
エディは数十分ぶりの煙草を吸っていた。
「アラハバキのデータは回収してもいい。だが、開発者は俺が連れて帰る」
「別に良いぞ。元々俺の任務は大量破壊兵器のデータの回収だったしな」
俺たちは医者を脅し、アラハバキを無力化させた。アラハバキの正体、それは音響兵器だった。地面にやれば地震が起き、火山にやれば噴火する。そんなヤバい兵器だった。
地上に上がった俺たちは別れ、山猫が待っているキャンプに戻った。
「お帰り、無力化できた?」
「あぁ。それにお土産も持ってきた」
俺は医者を山猫のほうへ突き飛ばした。
「これは随分と豪華なお土産だな」
山猫は感心していた。




