ハードな遠足
何故、諜報機関ではなく軍なんだ。いくら自由の国とはいえ自由すぎる。だが、エディがデブグル所属というのも嘘ではないのかもしれない。
彼の使っている小銃はネイビーシールズが使っている小銃だ。そしてデブグルはネイビーシールズの部隊のひとつ。小銃が同じ場合もありえる。
「お前たちは?」
「俺たちは普通の傭兵会社の社員だ」
「そうそう」
「はい。『カラカル』という傭兵会社です」
エディは少し考えるように頭を傾け話を始めた。
「お前ら、これは極秘の話なんだが俺はある大量破壊兵器について調査をしているんだ」
「でもエディは軍人だろ?なぜ軍人が?」
「俺もよく分からないんだ」
エディは頭を掻いていた。しかし、エディは随分と口が軽い。こいつは大丈夫なのだろうか。
「そういえばお前ら日本人か。知ってるか?日本にも諜報機関があるんだぜ」
なぜアメリカ人のエディが日本の極秘情報を知っているんだ?
エディは話を続ける。
「実はさ、俺が派遣される時に諜報機関の奴らに色んな情報を詰め込められたんだよ。ほんと、頭がパンクしそうだった」
「そうか、うちの組織のセキュリティは弱かったんだね。乃愛ちゃん、この人どうする?」
乃木は優しい顔でエディに小銃を向けていた。
「なんだ。お前らがその組織の奴らだったのか?ハァ、俺は口が軽いんだよな」
エディは諦めるような言い方だった。
「決めるのは乃愛ちゃんだよ。私たちのリーダーは乃愛ちゃんなんだから」
「俺がリーダーだったのか。今知った」
「乃愛ちゃんはいつも私をリードしてるじゃん」
乃木は濁りの一切ない笑顔を俺に見せてくれた。
「乃木、そいつは殺すな。4人ってのは行動するのにちょうど良い人数らしいぜ」
「小説に書いてあったの?」
乃木は不思議そうな表情をしている。
「あぁ、そうだ。それに山猫もなるべく殺すなって言ってただろ?」
「乃愛ちゃんがそう言うなら殺さない」
乃木は後ろに下がり、息を荒くしながら俺に抱きついた。
「やっぱり乃愛ちゃん良い香りがする。どうして?」
「なんでだろうな」
するとエディが驚いたように「ふたりは同性愛者なのか?」と俺と乃木に言ってきた。
「そうだ。それに日本では最近法律が変わって、同性婚が認められてるんだ」
「フッ、ようやく日本でもマイノリティに関する法律が出来たのか」
「皆さん、そろそろ行きますよ」
椎名はスマートフォンのようなものを持っていた。少しすると小型のドローンが椎名の元へ飛んできた。
「そのドローンは?」
「半径100メートルまで使える小型ドローン『ミツバチ』です」
「日本の技術力はすごいな。こんな静かなドローンを造るとは」
エディの言う通り椎名のドローンはほぼ無音に等しかった。
「このドローン、私の手作りなんですよ。敵の位置を調べるんです」
「椎名、ドローンの作り方を誰から教わったんだ?」
俺がそう聞くと椎名は満足そうに「山猫さんです」と答えた。
椎名もすごいが山猫もすごいようだ。しかし、山猫は一体何者なんだ?元自衛官で数ヵ国語も話し、その上ドローンを作ったりハッキングも出来る。山猫のことを知ろうとすればするほど分からなくなる。
「椎名は敵の位置を調べてたのか」
「はい、そうです。では皆さん。私に付いてきて下さい」
俺たちはテロリストしかいない廃墟と化した町を進む。この右も左も分からない場所では椎名が唯一の頼りだ。そう考えていると自然に椎名の隣についた。乃木も同じだった。しかし、ひとつだけ気になる事があった。大量破壊兵器はどんな見た目なのだろうか。大型なのか小型なのか、検討がつかない。見た目が分からないと無力化のしようがない。椎名はそれを察したのか、いつも通り穏やかな話し方で「現地に着いてからこの地上用ドローンで調べますよ」と教えてくれた。




