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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
30/65

また仕事

「それでだ、君たちふたりに頼みがある」

「急に改まってどうしたんですか?」

「総理のボディーガードをしてもらいたい」

「総理ってあの女性総理ですか?」

「そうだ」

2年前、日本の歴史が動いた。与党である民自党の総裁が変わり女性総理が誕生したのだ。それも、総理にしては随分と早い40代だ。

しかし彼女は若いだけの人間ではなかった。とにかく仕事は電撃作戦。総理に就任してからあっという間に憲法を改正し、自衛隊に関することを明記した。その上味方となる人も多かった。つまりはそのぶん敵対視している者も多いという訳だ。マスコミはレジスタンス気取りで総理に関するアンチ報道を毎日のようにテレビで流し国民を騙そうとした。だが総理の電撃作戦は憲法だけに留まらず税金、公共事業、徹底的な無駄の排除も行われ、国は確実に豊かになりマスコミは国民を騙すことはできなかった。

「ボディーガードって言っても総理を誰から守れば良いんです?」

乃木はソファーで横になり不味いコーヒーを飲みながら山口司令に聞いた。

「君たちも最近民自党の議員が襲撃にあったのを知っているだろ?」

「新聞に載ってましたね。確か議員のひとりが腕の骨を折る重傷でしたっけ」

「そうだ、そういった輩から総理を守って貰いたいんだ」

「でも、護衛なら警察で十分なのでは?」

俺が山口司令にそう聞くと小さなため息をついた。

「久遠、君の言っていることは正しい。だが、これは総理の希望したことなんだ」

「総理が?何故?」

「警察よりも組織のほうが信頼できるらしい」

「そうなんですか」

「ずいぶんワガママな人ですねぇ。うえ、マズ」

先程まで不味いコーヒーを飲んでいた乃木がそう言った。

「乃木、そう言うな国のトップなのだから」

山口司令も不味いコーヒーを飲んでいた。この組織では不味いコーヒーがブームになっているのだろうか。

「まぁ、そういう訳だ。作戦は明日から開始、期間は法案が可決するまでだ」

「総理は電撃作戦だから大丈夫だよ」

乃木は呑気だった。

「ふたりとも、頑張ってくれ」

俺と乃木は司令室を出た。

「緊張するなぁ」

「なんで?」

乃木は不思議そうに聞いてきた。

「だって総理大臣だぞ?」

「総理だって人間だよ。それに同じ日本人なんだからそこまで緊張する必要はないよ」

「そうかなぁ」

「なんなら私が緊張をほぐすために抱いてあげようか?」

「今日は遠慮しておく」

「えー」

乃木はやや不満そうだった。




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