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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
8/50

傷つきすぎた騎士

北の国の城を出て、高速馬車で数週間経ちました。

窓から見える景色は、見たことがない木々でいっぱいで、物知りな兄様に色々と質問してしまいます。

その度に、兄様は嫌な顔を一つしないで、優しく教えてくれ、花や果実を見かけると姉様が何も言わずにとって来てくれて至れり尽くせり。怖い位快適です。

当初の予定通り、大きな街道を進んでいますが、これといったトラブルもなく…あっても多分兄様と姉様が解決しているのかもしれないけど、俺的には何もなく順調に進んでいると思います。

お父様の話だと、もうすぐ国境に着くというので、ワクワクで顔が自然と緩んできて、両頬を手で押さえていたら伽羅に笑われてしまいました。


「お父様、国境という事は馬車から降りて身体検査のようなものがあるのですか?」

「ははは、それは庶民のみ。私たち貴族は、狙われやすいから馬車の中から検問を受けるんだ。」


ガッカリだよ!

色んな魔族やモンスターが見れると思ったのに…また小さな窓越しかぁ…

凹んだ心は、伽羅の気持ちいい毛並みで癒してもらう事にします!


「伽羅、慰めて…」

《仕方がないなー。お前を癒せるのは俺だけだからな!》


伽羅が、俺の膝の上でごろんと寝転がり、特に柔らかい毛の生えているお腹を丸出しにしてくれ、心いくまで撫でさせてくれました。

はぁ、はぁ。この毛並み溜まらんです!

最終的に伽羅のお腹に顔を埋めて擦りつけていると、窓の外からクーン、クーンと切ないくらい細い鳴き声が聞こえてきました。


《ふふ…ブルーノめ…これが俺と此奴の関係…羨ましかろう!》

「伽羅、意地悪言っちゃメッ!…ブルーノ、後で一緒にお昼寝しようね。」

《うん!検問が終わったら露店がある場所があるから、そこでご飯食べたらお昼寝しよう!》


伽羅は不服みたいでブツブツ言っていたけど、ブルーノも家族なんだから平等じゃないと。

……モンスターに限りだよ?

兄様と姉様が、馭者台(ぎょしゃだい)から馬車の中が見える窓を通して、もんのすっごく見てくるんだけど…抱き着かないからね!

俺は、二人に向けて優しく微笑みかけて首を横に振った。

二人とも表情が乏しいから分かり辛いけど、こういうときはよくわかるよ…表情に明るさがなくなって人形のようになるから。

なんでブルーノと同じだと思っているんだろ…抱き着かないよ?


この間、二人に抱き着いたら鼻血塗れになったからね!


俺は、学んだのだよ…二人が俺に免疫がついてから抱き着いたり、手を繋いだりしようって。

お父様とお母様のあの時の表情は忘れられないなー。なんていうか、スンッていう顔してた。今の兄様と姉様みたいな顔に近いね。



他愛もない話をしているとあっという間に、検問が行われている国境を象徴している大きな門へ到着。

一つの城と変わりない大きさの内部では、出国する人やこちらに入国してくる沢山の魔族やモンスターでいっぱいです。

俺達は、見るからに貴族の馬車なので、兵士に誘導されて馬車専用の検問通路へと案内されました。

この時期、こちらの国へ来る貴族は多いみたいだけど、北の国から東の国へ行く人は少ないみたいで、検問の番がすぐに回ってきて、馬車のドアがノックされました。


「ランチア侯爵様、検問の兵士が到着しましたのでドアを開きます。」


姉様が、余所行きのカッコいい声で告げてきたので緊張のあまり背筋が伸びます。

開かれたドアからは、一旦姉様と兄様が顔を見せて微笑みかけ、その後、怖そうな顔をした兵士が頭を下げてきました。

お父様は、慣れているので言葉少なく対応してから王様から渡された証書を見せるだけで、俺もお母様も顔を出さずに済みました。

結構あっけなく通過できたので拍子抜けしてます。

再び走り出した馬車の中で、背凭れて背中を預け、張り詰めていた何かを吐き出す様に大きく溜息を吐いた。


「結構気を張ってたんだけど…意味なかったかな?」

「今、気を張っても意味がない…馬車を走らせる前に兵士が教えてくれたんですが、東の国で変な事件が勃発しているそうです。」

「何でも、鎧を身に纏った大柄の男が、小さな子供を見つけると素早く近寄ってきて、顔を見ていくだけで何もないそうで…でも、顔立ちが可愛らしい子供を必要以上に見ていくそうです。」

「…気味が悪いわね…この子はマントを被っているから変に捲られても困るわ。」


兄様と姉様からの話で背筋がゾッとし、何かに縋りたくて伽羅を抱きかかえた。

鎧を着た変態が子供達を物色しているってことだよね…鎧を着た変態?ん?何か引っかかる…

伽羅の頭に唇を押し当てて、引っ掛かっていることが気持ち悪くて考え込んでる俺の肩をお父様が優しく抱き寄せてくれた。

温かくて頼もしいお父様の顔を見ようと、少し頭にかけていたマントをずらしたけど、すぐに戻した。

抱き寄せてくれている手は、いつもと変わらずに優しくて暖かいのに…表情は城で見たような険しいものだった。

正面にいるお母様も見たことがない位、表情が強張っていて、能天気な俺は、事の重大さに気が付いた。


問題の騎士は、エルグランの手先なのかもしれない。


東の国に入ったのに、景色を見る気分になれず無言のままブルーノが言っていた露店の立ち並ぶ公園のようなところにやってきた。

フードスポットと呼ばれているところで、食べ物や飲み物、旅に必要な衣類を調達できる場所で、東の国の街道ではよくあるんだって。

東の国は、魔族の暮らす場所が点々としていて、何万もの住人がいるところもあれば、数人しかいない集落もある。

だから、移動をするときに、こういう場所がないと品物の流通が難しい。

北の国を旅している間、冒険者ギルドを通じて魔国の殆どを回ったことを兄様と姉様が教えてくれて、とっても詳しく説明してくれたので予習済み。


街道を少し外れた馬車置き場に馬車を止め、兄様がドアを開けて顔を見せてくれた。


「東の国名物のフードスポットに着きました。ここで食事を済ませ、次の町を目指しましょう。」

「そうだな…心配なことが沢山あるが、そろそろ宿で休まないと皆疲れが取れないだろ…」

「アナタ、この子も少し外に出してあげないと…流石にお尻が痛そうですわ。」


お母様!!!

俺は両手を胸の前で組んで、多分この旅一番の笑顔をお母様に向けた。

そうなんです!お尻も痛いし、膝も曲げることが多いから思いっきり伸ばしたい!歩きたい!走りたい!

うずうずして体が上下に無意識に動いてしまい、その様子を見ていたお父様が、俺の頭をグリグリと撫でて笑い声を上げました。


「仕方がないな。馬車の周りだけだぞ。」

「はーい!!」


マントを目深く被って、上がり続けるテンションが抑えきれず、馬車の扉から兄様の胸目掛けて飛び出して抱き着きました。

兄様は、俺を抱きとめると、頬を擦りつけてマント越しにキスをしてから地上に降ろしてくれたのですが…

また、鼻血が出ていないか心配で、チラッと見上げると蕩けそうな微笑みを浮かべているだけで大丈夫でした。

抱き着くだけで、兄の鼻血の心配をする弟が、この世の中にどれだけいるのでしょう。でも、もう慣れたみたいだから心配いらないかな?


兄様と姉様は、兵士から聞いた情報の詳細を調べるため、お父様とお母様は食事を買いに馬車から離れていき、俺と二匹はお留守番がてら馬車の周りを追いかけっこです。


「ほら、ブルーノ!こっちだよ!」

《もっと早く逃げないと捕まえちゃうよー!》

《コイツは子供なんだから手加減してやれ!》


俺以外にもこうやって馬車の周りで追いかけっこや、かくれんぼ、色鬼などをしている子供たちが何人かいたけど、みんな大人が側にいます。

やっぱり、兄様と姉様が言っていた話を皆、気にしてるみたい。

俺は、ブルーノと伽羅がいるからいざとなったらブルーノに乗って逃げられる。

そう思っていた時、周りがざわざわとしだし、俺の背後を見て逃げていきます。


勇敢に守ってくれそうなのに、驚きで毛を逆立てたまま立ちすくむブルーノと恐怖で動けないのか瞳孔が開き切った伽羅が目の前にいるという事は、俺の背後には、とんでもない違うものがいるという事。

心臓の激しく脈打つ音が煩すぎて、周りの声が遠くに聞こえ、恐怖で小刻みに震えながら振り返ろうか迷っている俺の肩を、真っ黒な鎧に包まれた大きな手が、掴んできて俺の体を強制的にひっくり返した。

あまりに予想をしていないことが続いて、一連の動きがスローモーションの画像のように見える。

勢いが良すぎてマントから俺の頭が外れて顔が晒され、瞳に黒光りしている兜が映しながら冷たい地面に倒れた。


「……お前だ…お前が俺の…主だ……見つけた……やっと…」


しゃがれた声が聞こえた後、兜の隙間から滴がポタポタと垂れ、倒れている俺の頬へと伝っていった。

どうしてだろう…声を聴くまで怖くて堪らなかったのに、こいつの手を払いのけられない。

自分でもよく分からないけど、両手を伸ばして兜ごと力いっぱい抱きしめた途端、涙が溢れて止まらない。


「ごめん…」


何に対して謝ってるのかも分からなかった。でも、この騎士は壮絶な経験をして、何かを探していた。

その何かが、自然と俺のことだと分かり、どうしても謝らなくてはならないと思った。

黒い鎧は、どこもかしこも傷だらけで、修復されているところも沢山あった。

新調した方が早いと思うくらい…でも、彼はこの鎧を何らかの理由があって着続けたのだろう。


《君は……一人なの?》

「ああ……ところで…お前は…俺を……知っているのか?」

《!?》


動けずにいたブルーノが、いつの間にか俺達のすぐそばに立っていた。

俺から、ブルーノの様子を見ても知り合いに話しかけるような感じに見えたけど、この人は知らないみたい…

マントで鼻水と涙を拭いて、抱きしめていた黒い鎧を解放した。

ショックを受けている様子のブルーノを慰めたいから離れようと、腰を浮かせる俺を鎧はガッチリ抱き着いてきてホールドした。


「ちょ…なんで?」

「俺は……主から……離れない…見失わない…一人にしない…」

「これじゃ、動けないよ!」

《……君、名前は?》

「ない……わからない……主しか…わからない。」


記憶喪失。この人は、記憶喪失なのに俺を探していたの?

胸がギュウッと掴まれたように苦しくて、再び涙が溢れてきた。

涙で歪んだ視界に映るブルーノは、耳と尻尾が垂れ下がり、泣いてはいないけど悲しんでるように見えた。


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