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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
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出国準備


お父様の衝撃的な報告から2週間が経ちました。

王命というキャンセル不可の決定事項に、国に仕えている我が家は大人しく従うしかなかったので、体調がすぐれないお母様を気遣いながらも準備を始めた。

花の季節という領地としては、とっても忙しい時期に領主不在という事は出来ず、隠居して隣の国にいたお爺さまを代理として立てることで乗り切ることに。

お爺さまには、緊急回線で繫がっているクリスタル製の魔道具で、お父様がお伺いを立てたところ快く引き受けてくれ、連絡した翌日に国を出発し、本日到着なさいました。

はい、俺は緊張しています。

魔族である父方のお爺様で、名声高き将軍様でした。

お父様は、肌が浅黒くて筋肉質で、額からは小ぶりな角が4本生えていて凛々しい見た目です。

お爺さまは…なんていうか…顔だけヤギなんです。

体つきは、大きくてマッチョで胸毛で…服がはち切れそうなくらい胸板が厚いです。

…なんか怖いんです!ミノタウロスのヤギ版だよ!?

そんな怖い人の膝の上に乗せられて2時間ほど経過しています。


「お…お爺様?」

「なんじゃ?」

「あの…明日、国を出るので準備があるんですけど…」

「そんなの他の者がとっくに済ませているだろう。エルは、じぃじのお膝にいるのが仕事だ。」


お爺さまのごっつくて大きい手には、俺の小さな頭はすっぽり収まってしまうのに、追加攻撃かのようにぐりぐりと回されます。

俺の頭が果物だったらとっくに捥げ落ちていることでしょう。

痛いよー。愛情表現が大味だよー。

こんな心休まらない仕事なら転職したい。

伽羅も白檀もお爺さまが苦手だから近付いてこないで忙しい振りをしています。

誰も猫の手を借りたいだなんて思ってないからね?


広間の温かな暖炉の前で、ロッキングチェアに揺られているお爺さまと俺は言葉少なく時間が過ぎていくのを感じていた。

前に会った時のお爺さまは、昔の話やお婆様の話、領地で何が取れて、何が流行っているか。

隣の国ではどんなことがあるのか。ひっきりなしに話してきたけど、今回は何も話してこない。

時々、俺のことを抱きしめなおしたり、顔を除いて微笑んできたりするだけ。

お爺様なりに心配し、別れを惜しんでいるようです。

マーサが、何度も広間へ様子を見に来てくれるので、助けて欲しいと視線を向けても微笑むだけで部屋から出て行ってしまいます。


「お爺様、俺が外に出るの心配?」

「外に出るだけなら何も心配せん。あの国に行くというのが心配なのだ。」

「教えて…エルグランって国はどんなとこ?」

「…はー…いつか聞かれると思っておったが…」


正直で嘘や隠し事が苦手なお爺さまに聞くのは、俺としても酷だとは思う。

けれど、これから行くところの情報が欲しい。

そうしないと傾向と対策っての立てられないから。

お爺さまは、俺を横抱きにしてチェアを揺らしながら、ポツポツ話した。


エルグランは、とても頭が切れる二人の覚醒魔人が中心となって建国された。

二人は、とても美しい容姿で体の大きさも人間と変わらない。それどころか青年という若い姿。

血の気の多いモンスターや魔族は、見た目に騙されて戦いを吹っ掛けた。

ところが、モンスターは元の姿が残らないほど無残に焼き払われ、魔族は降伏しなければじわじわと拷問されて殺され、躯はアンデットとして甦らせられて城を作るために扱き使われた。

人間達も二人の美しさに吸い寄せられるように寄り付いてきたが、魔族やモンスターよりも無残に殺された。

二人は、人間をとても恨んでいたのだ。

そして、その二人を守るように常に側にいるのが胸に大きな穴の開いた飛竜。

竜は、3つの心臓がある。そのうちの一つを無くしても問題なく生きられる生き物だから飛竜は2つの心臓は無事だという。

美しく冷酷な覚醒魔人達と大きな飛竜は、城を作って国を作ったと魔国と人国に表明した。

これがエルグランの始まり。

建国後は、国の周りに石の高い壁ができて覗くことができない。

門には、大掛かりなカラクリがしてあって、中に居住権があるものでないと分からない。

中に入ったものは、外に出ることはなく、謎に包まれた国になった。

更に、エルと名前の付くものを人国でも魔国でも血眼になって探しているという噂もある。


「だから…俺を外に出さなかったんだね。」

「そうじゃ…お前の名前を知るのは、この屋敷の者とワシと北の国の王様だけ。北の国の王様は、お前のお父さんの親友だからな。」


俺を求めている、冷酷で残忍な魔人が治める国。

なんだろう…ひっかかる。

奥歯に肉が引っ掛かってるような気持ち悪い感じ。


「お爺様…多分、大丈夫だと思う!」

「エル…強くなったな…」


抱きなおされて、鼻に逞しい首筋が当たるとお爺さまの香水の匂いがした。

次に、白く硬い毛が、柔らかい頬にチクチク刺さって痛いけど抵抗しない。

だって、お爺さまが泣きながら頬擦りしてくるから。

すっごく心配してくれていたんだと胸がジンッと熱くなって、俺の瞳からも涙が滲み出てきた。

俺とお爺様が泣きながら抱擁している遠くから、沢山の鼻水を啜る音が聞こえて、二人でドアの方を見るとお父様とお母様、マーサと伽羅が号泣していた。

皆泣いてるから可笑しくなって笑っていると、お爺さまは、照れくさくて咳払いをしながら俺を床に降ろし、両親の元へと背中を押してくれた。


眠れない夜に飲むホットミルクような甘く優しい時間。

これから待っている出来事は、とても厳しいものかもしれないけど、これだけ大事にされてきたんだから大丈夫。

どんな運命でも負けないよ。

貴方達の子供だから。


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