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領主さんちの次男坊です。  作者: 小さい飲兵衛
第1章 北の国から
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回り出す歯車


お爺さまが、くっ付いて離れなくて出発が遅れてしまいましたが、ただいま人生初の馬車に乗っています。

この馬車が、また凄い!

馬は、大きくて足がしっかりしているし、体毛が白く長い毛で走って風を受ける度に靡いて綺麗です。

目つきはちょっと怖いけど、優しい気性。

二頭で引いてくれるのは、青紫の光沢があり所々彫刻があしらわれている貴族専用の馬車。

座り心地も最高で、クッションの中身はハードスライム素材です。

馬車がどんなに揺れてもお尻に響かないから一般庶民も愛用しています。低価格ですぐに手に入る素材だからベッドのマットにする人も。

この土地は寒いからクッションだけにしか使われないけど、南の国はなんでもスライム素材を使っているってお爺さまが教えてくれました。

丸く作られた覗き窓から見る景色は、屋敷の窓から見るものとは全く違っていて新鮮。

雪が少ししか残っていない道を進むと街が見えてきました。

屋敷から一番近い街に到着です。

馬車が優秀だとあっという間に着いてしまうので少し物足りない気がするのですが…色々なことで時間を取ってしまったから急いで城へ行かなくてはなりません。

本当だったらここで一泊したり、買い物したり、噂で聞いていた図書館に行きたかったけど…諦めるしかないようです。


「パパとママは食料を買ってくるから馬車から出ないで、大人しく待っているんだよ?」

「絶対に出ては駄目!伽羅、頼んだわよ!」


俺は、覗かれてもいいように白いマントを頭からすっぽり被って、馬車から出ていく両親を大人しく見送りました。

二人とも顔いっぱいに不安と書いてあるのが見えた気がしたので我が儘を言い出すことが出来なかったんです。

退屈していて外で飛び回りたかったであろう伽羅を見ると、大あくびをして俺の膝の上に寝転び、慰める為か分からないけど長い尻尾をクネクネと動かして鼻をくすぐってきました。


「伽羅ったら…そんなに気を使わなくても大丈夫だよ。ちゃんと理由を知ってるから逆に出ようとは思わない。」

《俺は、聞き分けの良さが時々不安になるよ…》

「ふふ…そう?手が掛からない良い子でしょ?」

《…全部自分一人で背負って無理しそうだから…俺には我が儘言って欲しいよ。》


なんて優しい子なんだろう…俺にはもったいない位の親友だよ…

口に出していったら伽羅が泣いてしまいそうだったから心の中に言葉を留め、伽羅には微笑んで顎の下をチョイチョイと指先で軽く掻くだけにした。

赤ちゃんの時から大声を出して泣くような子じゃなかった俺が、お父様が帰ってきた日に、原因は分からないけど大声で泣き叫んでいたという事があったらしい。

俺の記憶にはないけど、伽羅から聞いたから作り話ではないと思う。

そのことが切っ掛けで、伽羅は事ある毎に俺を気遣うようになった。

頻りに寂しいと連呼していたのだという。

沢山の人に囲まれているのに寂しいだなんて…


考えを払うように伽羅とじゃれ合っている内、お父様とお母様が両手いっぱいに袋を抱えて馬車に帰ってきた。

何でも、領地の名産品で作られたお菓子で、城にいるお父様の友達が大好物だというのでお土産に買ったそうだ。

この領土は、食べ物がとっても美味しいらしいから、このお菓子もファンが多いんだって。

食べ物を買い込んだら夜更けまで止まることなく、城に向かって馬車を走らせる。

この馬車は、疲れ知らずの高速馬車で王様から借りたもの。

やっぱり、ギリギリまで王様に引き留められていたから特別に貸して貰えたと馬車の中で教えてくれた。

確かに、俺の家では見たことがない馬たちだし、こんなピカピカの馬車もなかなかないと思う。


「お父様、夜中についてもすぐに謁見できないでしょ?」

「…いや、夜中だから謁見するんだ。」

「え?いくらお父様が王様と親しいからって…」

「お前を誰にも見られないようにする為だよ。」


そんなに気を付けないといけないのか。

あの国の力は謎に包まれているから警戒を重ねても足りない位なのかもしれない。

真剣な表情のお父様に、俺も真剣な眼差しを向けて無言で頷いた。

恐らく、屋敷から出たことでお父様もお母様も俺のことをフルネームで呼ぶことはないだろうし、極力愛称でも呼ばないと思う。

領地から離れていく度に、どこで誰が聞いているか、見ているかもわからない状況で、馬車の中はピリピリしていた。

神経が鋭く研ぎ澄まされたころ、外は真っ暗で静まり返っていた。

賑やかな城下町を抜けていくのかと思ったが、途中から森へ入り、要人しか知らない洞窟へ。

突き当りまで来るとお父様が馬車から出て、何かをしている。

外から岩が擦れる大きな音が聞こえてくると、見たことのない表情のお父様が馬車へと乗り込んできた。

城で仕事をしている時の顔なんだと思う。

とても厳しそうで話しかけがたい雰囲気を纏い、神経質そうに眉間に深い皺が刻まれていた。

お母様は、その表情を見てうっとりしている。

お母様、お父様のこと大好きだもんね…わかります。


お父様の話だと、今馬車で進んでいるのは、城へ直接繋がっている通路で、極一部の人間しか通ることを許されていない仕掛けの施してある信用できるものなんだって。

特別感漂うよね…ただの地下通路なんだけど。

城へはもう少しかかるのかと思ったら、すぐに馬車が停車した。

カーテンを引いていた窓に近づき、外の様子を見るためにカーテンの隙間から覗くとオレンジ色の光が揺れる部屋に止まっていた。


「着いたぞ。ここから王のところまでマントをしっかりと被って、口を開かずに歩きなさい。」

「伽羅も一緒に来ても大丈夫よ。」

《ああ…》


皆、緊張して表情が強張っているのが分かる。

俺は、お父様に言われた通りマントを被って、お母様に手を引かれながら馬車を後にし、魔法陣が展開されている床へとみんなで立った。

空間移動用の魔法陣でお父様が魔力を込め、陣の柄が赤く浮かび上がると眩しい光に包まれた。

思わず手を繋いでいたお母様にしがみついて、目をぎゅっと瞑ってしまった。

貴重な体験だけど、フワッと内臓が浮き上がるような感覚が苦手で背筋が震えてしまう。


「よくきたな…待ってたぞ。」


地響きがしそうなくらい低い声に、お母様にしがみついたまま目を慌てて開く。

目に入ってきたのは…見知った顔だった。


「あれ?」

「口を開くな!」


言葉を続けようとしたらお父様の大きな手で口を塞がれてしまった。

この魔人知ってる!時々遊戯室の町で会うもん!

俺と一緒によく白黒遊びしたりもしたし、全身が蛇の鱗で覆われてる魔人なんて間違えようがない!ボトヴィッドじゃないか!


「子供な上、世の中に出したことがない故、作法がなっていない点はご容赦ください。」

「この場には関係者しかいないから気にするな。それよりも…イェオリ、妻ヘリュ…今回は我の力不足故申し訳ない。お前たちの宝を…」

「仕方がないことだ。国を思えば、利用できるものは利用しなくては…ボトヴィッドはギリギリまで頑張ったじゃないか。」

「まさか、あんな小さな出来たばかりの国が、交渉の為にあれやこれや脅すような行為をしてくるとは思わなかった。出来る限りは答えたんだが…最後に貴族の子供を交渉人として国に招きたいなどと…」


貴族の子供。

うちは、由緒正しい侯爵家だ。公爵家は、王の血族しかいないから王族扱いとなり、貴族の頂点は侯爵家になる。

その中で子供が生まれたという話は聞かない。つまり、俺しかいないのだ。

ボトヴィッドは、俺のうちに遊びに来ていたから俺の名前も知っているし、家族や使用人がどれだけ可愛がっていたのかも身をもって知っている。

王様の苦渋の選択か。


大人三人で話している間に気になることがあった。

塞がれていた口を解放され、何もすることがなくなった俺は、部屋の端で伽羅と遊んでいたら、目の前に大きな犬が現れた。

白檀くらいの大きさで、四本の足にクリスタルが付いている。


「君は王様の犬?」

「ああ、いい忘れていた。お前たちの旅に同行するものを用意した。冒険者ギルドを通じて秘密裏に雇ったSランクのチームで名前くらいは聞いたことがあるだろ…インディゴブルーだ。」


俺の声で王様が気が付いたようで、影に潜んでいた冒険者を紹介してくれた。

お父様とお母様は、聞いたことがあるらしく、笑顔で二人と一匹に挨拶しているのを俺は、不思議と落ち着かない気持ちで眺めていた。


「この子は、事情があって顔と名前を晒すことができない。呼ぶときは、肩を叩いて呼んでくれ。」

「よろしくお願いします。」


お父様とお母様は、この人たちにも隠し通す気でいるみたいだ。

確かに、モンスターと半魔族みたいだから信用しきるのは良くないかも…しれないんだけど…名前、呼んで貰いたいな。

ボーっと考えている俺の側に、冒険者たちが足音も無く歩み寄ってきていた。


「立ったままで失礼します。視線を合わせるとお顔が見えてしまいますので…私は、ストラトス。隣の女性は、妹のリブラ。このモンスターは、ブルーノです。半魔族と特殊モンスターで心許ないとは思いますが、エルグランへの護衛を全力で務めさせていただきます。」

「ストラトス…リブラ…ブルーノ…いい…名前だね。」

「はい。私も二人もそう思っております。名付け親が素晴らしい方ですから…」


三人の名前を口にした途端、ちょっと眩暈がして景色が回るように見えたけど、何とか倒れずに持ちこたえられた。

目の前に立つストラトスは、顔は見えていないけど、とても嬉しそうなのが声で分かる。

ところで、ブルーノはさっきから落ち着きなく俺の匂いを嗅ぎまくって伽羅に威嚇されているんだけど…ストラトスは止めに入らないのかな?


《いい匂いがするんだから邪魔しないでよ!》

《邪魔するに決まってるだろ!俺のもんなんだから嗅ぐな!減る!》


俺は、伽羅の親友でモノになったつもりはないんだけどな…珍しく独占欲丸出し。

ブルーノも懲りずに鼻を擦りつけてくる。

これは、騒がしい旅になりそうだな…

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