巫女との再会
景色が変わって行く毎に、変な緊張感と感傷的な気持ちが、ジワジワと白い布に墨が広がるよう、俺の胸の中を侵食していく。
それは、決して心地がいいものとは言い難く、責任感が伸し掛かってくるプレッシャーに似ていた。
意識していなかったが、多少なりとも重圧というものを感じているのかもしれない。
今までは、記憶もなかったし、人数も多かったから話題も多かったから暗いことをあまり考えることもなかった。
みんなが各々の事をやっていても、馬車の中でゆっくりと本を読んで過ごせて、ボーっと一人で何かを考えることはない。
エルグラン国を出たばかりの頃は、あれこれ話したりしていたが、完全に人国に入ってから口数が減っていき、食事の時以外は無言で馬を走らせていた。
三人とも人国での良かった思い出よりも、胸糞悪い思い出の方が強くて口が重くなるのも仕方がない。
兄ちゃん…ライルから渡された地図からしてもう少ししたら村が見えてくるはずだ。
魔国と人国は、大陸が繋がっているところが少ない。
しかし、俺たちが元々いた大陸とは、一部繋がっているのでそこから入るのだが…魔国から人国への侵入者…ましてや、魔国でも人国でも悪名高くなり始めているエルグラン国からの侵入者なんて攻撃されることはあっても歓迎されることはないだろう。
どの世界でも、悪口の方が広がるのが早いもんなんだなって変に実感しちゃうよ。
ほら、そんな重苦しいこと考えていたのがフラグだったように、遠くに見える塔からなんか飛んできた。
俺が逆の立場でも同じ対応するだろうから驚きはしないけど…
正面から入ったらまずいかもしれないけど、回り込んで侵入する方が村では目立ってしまう。
人口が少なく、全員顔見知りなのだから。
「さて…イヴェコ、ポール…俺たちの関係は?」
「私が、エル様を保護した者。」
「俺は、二人の護衛騎士。」
俺は、記憶を失った少年で、森をさまよい歩いているところをイヴェコとポールにたまたま保護され、エルグラン国へと保護をお願いしたら断られたので、こちらへ歩いてきたって設定。
きっと、こんなところにある村だから村民は、どんな事情があるやつでも怪しんで遠巻きで見てくるか攻撃してくるとは思っていた。
してこない方が厄介だったから、塔からの威嚇射撃は有り難い。
一番わかりやすいマイナススタートだ。
してこないで逆に友好的に来られる方が、腹の探り合いになって面倒だ。
「さて、威嚇射撃が終わったくらいに近づいてみるか?」
「この位置からなら、あの塔くらいなら破壊できるぞ。」
「やめて、モブ騎士。喧嘩売りに来たんじゃないんだから…なんなの?戦闘しないと死んじゃうの?」
「エル様もポールさんももう少し緊張感を持ってください。」
喧嘩になりそうになるとすぐにイヴェコが入って止めてくれる。
二人旅じゃなくて本当に良かった…二人旅なら最初の森を未だに口喧嘩してて先に進めなかったよ。
さっきからの威嚇攻撃が減ってきて、とうとう止み始めたんだけど…目を細めると人が一人、塔から出てきてこちらへと歩いてくる。
威嚇しても引かないから、人を送り込んで戦わせようって感じなのか?
それにしても、歩いてくるのは線が細い…女の人のようだ。
うっそ!女を差し出すから帰れってこと!?
オッサン二人だから性欲溜ってるとか勘違いされたのかな?
「エル…おまえ、今俺とイヴェコに対して失礼なこと思っただろ。」
「人の頭の中覗けるスキルでも持ってるの?」
ポールの大きな手が俺の小さい頭をワシワシと強めに撫でまわしてきた。
髪の毛抜けて剥げたら訴えてやる!
女の人近づいてくるまでの間ふざけ合っていたが、イヴェコに肩を叩かれて女の人の方を見ると俺たちは動きを止めた。
「……サフランじゃないか…」
「…ポール、イヴェコ…エル!!!」
初めて会った時よりも質素な巫女衣装で現れた彼女は、長い髪を短く切ってオカッパ頭になっていて、少し痩せていた。
次の言葉を続ける前に、ぱっちりとしている瞳から大粒の涙を流して俺に抱き着いてきた。
泣き虫だった彼女は、変わらず泣き虫で瞳が溶けてしまうんじゃないかと思うくらい暫く泣き続けた。
「サフラン…辛い思いをさせてしまったみたいだね…ごめん…ちょっと痩せたかな?」
「ぅぅううう…エルが優しいぃぃいいいい。」
「失礼だな…」
確かに、前世の記憶ではあまり優しくしてあげていなかたかもしれない。
これからは優しくしてあげよう…マントで涙を脱ぐってやると、照れたように微笑みを浮かべた彼女は、相変わらず可愛らしい女性だった。
年上の女性だが、思わず頭を撫でてしまったよ。
そこで気が付いた。
ごわっとした手触りと鼻をくすぐる髪や体から香る匂い。
姉様やお母様と全く違う…人間ってこんななの?
「サフラン…お前…くっさい!!!」
「うぎゃぁあああああん!!!ひどいです!!!」
「さすがエルだな。良い雰囲気を必ずぶち壊す。」
「だって!ポールもサフランの事匂ってみろよ!」
「ひぃぃいいい!やめてください!!!っていうか、エルがいい匂いすぎるんですよ!!」
サフランは、俺たちから離れてギャンギャン泣き叫びながら地面を何度も踏みつけていた。
姉様や兄様、ブルーノが前に話してくれた人国の話は本当だったんだ。
人国の人たちは、体を拭いたり川で体を流すだけって…それに、花石鹸もヘアーオイルもあまり出回っていないって…前世の俺、よく大丈夫だったな。
あ、前世のこと思い出した!
俺、魔法でこっそりお風呂入ってたんだった…でも、ポールはそんなに臭くなかったよな…
ふと思い当たってポールへ視線を向けると、サフランをとっ捕まえて匂いを嗅ぎ、ゲラゲラ笑っていた。
「サフラン、本当に臭いな!」
「うああああああ!!!なんでポールまでいい匂いしてんですか!!!エルと同じ匂いって!!!」
四つん這いになって地面を拳で殴りながら鼻血垂らしてるよ…うん、前世でも思ったけど女の子がそんな顔してそんなことしちゃいけません。
きっと、村の塔からもがっつり見られてるよ?
結婚がまた遠のいてるな…可哀想に。




