近くて遠い恋
沙羅に、聖と付き合うと、打ち明けられてから、凛は何だかモヤモヤした気分の日々。
大和からも、告白されて、返事を返す日が段々と近づいていた。
果たして、凛の気持ちはー!?
その日の昼休み。
お弁当を食べようと、バックから出そうとしたけど、入っていないのに気がついた。
お弁当、忘れたー!
「凛、どうしたの?」
一緒に机を並べて、お弁当を広げようとしていた沙羅が、心配そうにあたしを見た。
「お弁当、忘れちゃったー」
「えっ、珍しいね」
沙羅は、お弁当を広げていた手を止める。
「購買に行ってくるから、先に食べてて」
あたしは、急いで購買へ向かった。
購買は、結構、混むから、パンやおにぎりはすぐに売り切れてしまう。
「おばちゃん!あんパン頂戴」
「こっちは、たらこおにぎりー!!」
購買へ行くお昼ご飯を買う人で、溢れかえっていた。
うわぁ~!もう、こんなにいる。
あたしは、人の群をかき分けながら、なんとか前へ行こうとしたけど、途中まで入って行った所で、みんなに押されて挟み撃ちになってしまった。
「卵サンドとツナマヨおにぎりくださいー!!」
それでも、何とか手を伸ばして、声を振り絞った。
でも、他の人の声にかき消されて、なかなか買える状態じゃなかった。
これじゃ、なかなか買えない。
あたしが、もう一度、言おうとした時、誰かに腕を掴まれて、人ごみの中から引っ張り出された。
「な、何するのよ!?」
せっかく、もうすぐ買えそうだったのに、これじゃ、もう一度やり直しだ。
あたしは、ムッとした顔で相手の顔を見ると、聖が目の前に立っていた。
「ごめん、急に……ほら、ツナマヨと卵サンド」
謝りながら聖は、あたしの手に持たせた。
「……あたしの分、買ってくれたんだ?ありがとう」
あたしは、聖にお金を払おうと、ポケットからお財布を出した。
「俺のおごりだから、気にするなよ」
お財布から、お金を出そうとしているあたしに、聖は笑顔で言った。
「でも……」
「いつも、おばさんにご飯をご馳走になってるし、お礼ってことで」
「……わかった」
あたしは、納得するとポケットの中にお財布を戻した。
あたしは聖の後をついて、教室へ向かった。
「三浦から聞いたよ。大和と付き合うことになったって……」
背を向けたまま、聖が口を開いた。
「う、うん……」
朝、学校へ来ると、沙羅が告白のことを聞いてきたので、報告したんだった。
「大和が、嬉しそうに言ってたぞ」
「……」
あ……そっか。大和から聞いたのかー。
「……凛の想いが叶って、本当に良かったな」
「……うん。せ、聖だって沙羅とー」
沙羅とのことを話そうとした時、
「あ、いたいた凛ー!」
沙羅が慌てて、急ぎ足でこっちに歩いてきた。
「凛、宿題職員室に持ってくるようにって、先生から伝言だよ!」
「あ……」
すっかり、提出するの忘れていた。
「ありがとう、沙羅」
あたしは、宿題をとりに、急いで教室へ行こうとした。
「良かったな。三浦と仲直りできて」
聖の横を通ろうとした時、聖はボソッと囁いた。
「……」
あたしは、思わず振り向く。
「何、何?何の話?」
沙羅が、興味本位に聞いてきたけど、
「何でもない」
聖は、苦笑いしすると歩き出した。
「え、何か気になる~」
沙羅は、聖の腕に絡みついた。
「こら、離れろよー」
聖は、気まずいそうに沙羅から離れようとした。
沙羅が聖に、絡んでいるのを見て、何だかムッしてきた。
「しゅ、宿題持って行かなきゃ……!!」
あたしは、怒った態度で、その場を離れた。
やだ、何であたし怒ってるんだろうー。
付き合っているんだから、くっついていたって当たり前なのにー。
聖の顔を見るたび、放課後になっても、その気持ちは消えなかった。
「凛、帰ろうぜ」
大和に言われて、あたしは帰る用意をして学校を出た。
「最近、聖の奴沙羅と帰る日が多くなったと思わないか?」
帰り道。
歩きながら、ふと思ったのか大和が聞いてきた。
「そうだね」
「あの2人、付き合い始めたのかな~?」
「大和、聖から何も聞いてないの?」
てっきり、聖から聞いてるとばかり思っていたのにびっくりだ。
「何だ~。そうだったのか。聖から凛に言ったってことは、凛のこと諦めたってことだよな」
大和は、ホッととした顔をさせると、あたしをギュッと抱き締めた。。
「ちょ、ちょっと。大和、苦しい……。それに、みんな見てるしー」
あたしは、恥ずかしそうに、顔を真っ赤にさせた。
「ごめん!」
大和は慌てて、あたしから身体を離した。
「大和、勘違いしてるけどー。聖じゃなくて、沙羅に聞いたの……」
「沙羅に……?」
「うん。だから、聖からはまだ、聞いてないのー」
何だか、聖が何も言ってくれないことに、腹がたってきた。
いくら、あたしのこと諦めると言ったって、沙羅と付き合うことになったことくらい、報告してくれてもいいのに。
「お!ちょうどいいや。あそこに聖がいるから聞いてこようかな」
家の近くまで行くと、大和が足を止めた。
大和の視線の先には、近くの公園中にあった。
よく見ると、遊具の近くに聖が立っている。
大和は、聖に近づいて行った。
「聖!そんなとこで、何やって……」
背中越しの聖に、言いかけて、大和は足を止めた。
「どうしたの?大和ー」
キョトンとした顔で、ふと聖の方へ目を向けた。
「……!!」
目の前で、聖と沙羅がキスしていたので、思わず鞄をドサッと落としてしまった。
物音に気づいて聖と沙羅は、ハッとこっちを振り向いた。
「凛、そんなに驚かなくてもー」
大和は、苦笑いしながら、あたしが落とした鞄を拾った。
「はは……。ちょっと、驚きすぎちゃったー」
あたしは、大和から鞄を受け取る。
「びっくりした~。大和達、いつからそこにいたんだよ……?」
聖は、はにかんだ笑顔で、あたし達をみた。
「今、公園の前を通りかかったら、聖の姿が見えたから、来てみたんだけどー。俺達、邪魔だったかな~。な?凛」
大和は、チラッとあたしの方を見ると目配せる。
「そ、そうだね……。帰ろう、大和」
あたしは、大和と口裏を合わせたけど、聖と沙羅のキスを見てから、心臓がチクンと激しく高鳴っていた。
その時、あたしの中で弾ける物があったー。
「しかし、驚いたよな~。付き合ってすぐ、キスだなんて」
大和は、歩きながらあたしを見た。
「……」
「どうしたんだよ?さっきから変だぞ?ま、幼なじみとしては、あんな現場、目撃したら複雑だよなぁー。それに、聖は今まで凛のことが好きだったわけだし」
「……」
確かに、それも一時あるけど……今更だけど、気づいちゃった……あたし、聖のこと……。
「あ……あのね。大和、話があるの」
あたしは、改めて大和を見た。
「ん?」
大和は、あたしの言葉に首を傾げた。
「家に帰ったら、大和の家に行っていい?それから話すー」
「わかった。待ってる。宿題も持って来いよ。一緒にやろうぜ。話は、その後でもいいかな?」
「……うん」
一緒に宿題をやる気分じゃないけど、とりあえず、大和の言うことに頷いた。
家に帰ると、着替えてから宿題を持って、大和の家へ。
「あら~。凛ちゃん、いらっしゃい」
大和のお母さんが、明るく出迎えてくれた。
「大和、上にいるからあがって」
「お邪魔します!」
さっそく、大和の部屋へ直行すると、ドアの前で立ち止まった。
「大和ー。入るよ」
「ああー」
部屋の中から、大和の声が聞こえてきた。
部屋に入ると、大和はベッドに寝ころんで、雑誌を読んでいた。
「遅かったな」
大和は、雑誌を読むのをやめて、起き上がる。
「これでも、急いで来たんだけどなー」
あたしは、持ってきた宿題をバックから出すと、テーブルの上に広げた。
「よし!やるかぁ~」
大和も気合いを入れて、宿題を広げた。
「大和ー。ここの問題わかる?」
宿題を始めてから、さっそくつまづいてしまって、大和に聞いてみた。
「あ、ここは過去形だから……」
大和が、ヒョイと顔を近づけてきたので、あたしの心臓がドキンと波打つ。
こんな事で動揺していたら、大和に言いたいことも言えない。
「凛ー。わかったか?」
説明が終わると、大和はあたしの髪をクシャとした。
「え?う……うん」
「凛、大丈夫か?何か変だぞ。話があるって言ってたけど、関係あるのか?」
「……」
大和に聞かれて、戸惑ってしまう。
「凛ー?」
「しゅ……宿題、やってから言うね……」
あたしは、少し気まずそうに、宿題の続きを始めた。
「終わった~」
しばらくすると、大和がばんざいをすると、ぐ~んと身体を伸ばした。
「凛、終わった?」
「うん……」
「じゃあ、今度は話せるな」
気になった顔で、大和はあたしを見たけど、まともに大和の顔を見れずに俯いてしまった。
「凛ー?」
「……あのね、あたし大和とこのまま付き合えない……」
「な……何言ってるんだよ?俺のこと好きだって、言ったの嘘だったのか!?」
大和は、驚いてあたしの肩を掴んだ。
「嘘じゃない!!今でも好きだよ。でも……」
あたしは、言葉に詰まってしまう。
「……もしかして、聖のことが好きなのか?」
「……」
あたしは、小さく頷いた。
いつの間にか、聖のことが好きになってたなんて、自分でもびっくりだ。
「やっぱりな……聖と沙羅のキスを目撃してから、凛の様子がおかしかったから、まさかとは思ったけど……」
「……」
「それで、どうするんだよ?聖が凛のこと好きだったのは、沙羅と付き合う前の話だろ?今は、凛のこと幼なじみとして、見てるかも知れないぜ」
「……」
大和に言われると、戸惑ってしまう。
「凛……」
大和はそっと、あたしの肩を掴もうとしたけど、あたしはパッと立ち上がった。
「ご、ごめん!大和」
あたしは、急いで部屋から出た。
「あら?凛ちゃん。もう帰るの?」
階段を下りようとした時、大和のお母さんが飲み物をトレーに乗せて、階段を上がってきた。
あたしは、軽く頭を下げると、何も言わず階段を下りて行った。
大和の家を出た後、あたしは無意識のうちに、聖の家の前に立っていた。
今まで、大和を好きだったあたしの話を聖は、いつも真剣に聞いてくれた。
それなのに、自分の勝手な気持ちで今更、聖のことが好きだなんて、告白して信じてもらえるのかな?
「そんな所に立って、どうしたんだよ?」
あたしが、聖の家の前で立ち往生していると、いつの間にか、買い物袋を持った聖が近くに立っていた。
「聖……。買い物に行ってたんだ?」
「ちょっと、コンビニまでなー。それで、何か用か?」
何だか、前より聖は冷たくなったような気がする。
「用って言うか……」
「何?大和のことかー?」
「……」
何て言ったらいいのかわからず、言葉に詰まってしまう。
「……だったら、昨日や今日の付き合いじゃないんだし、直接、大和に言ったほうがー」
「ち……違うの。聖に言いたいことがあって」
「ーー?」
「せ……聖は、もう、あたしのこと幼なじみとしか思ってないかも知れないけど……あたしは、聖のことが好きだから……」
思いきって、自分の想いを打ち明けた。
「……!!凛は……大和のことが、ずっと好きで、やっと付き合えるようになったのに……」
聖は驚いた顔で、ただあたしを見つめていた。
「大和のことは好きだよ。でも、聖のこと好きな気持ちのほうが強いて言うか……。変だよね……大和と沙羅が付き合っていた時も、辛かったけど、聖と沙羅が付き合ってるって知ってから、もっと辛くて苦しいなんて……」
あたしは、そっと唇を噛み締めた。
「ちょっと、待てよ。俺と誰が付き合っているってー?」
聖は、唖然とした顔であたしに目を向けた。
「え?だから…聖と沙羅がー」
「あのさー。三浦とは、付き合ってないんだけど」
「え!?だって、沙羅が言ったんだよ?聖と付き合うって……それに、公園でキスしてたじゃない……」
大和とあたしで、目撃した。
「あれは……三浦が、目にゴミが入ったって言うから、とってあげてただけたぜ。それに、三浦に告られたけど、断ってるし……」
「……」
どうして、聖と付き合ってるなんて、嘘ついたのー?
……!!もしかして、沙羅……聖があたしのこと好きだって、気づいていたー?
聖も気づいたらしく、溜め息をついた。
「凛を諦めようと思って、なるべく接しないようにしてたのに、好きって気持ちが、抜けきれなくて顔に出てたのかなー」
聖は、少し恥ずかしそうに、口に手をやった。
だから、あたしが話しかけても、避けてたのか……。
そんなことを言われたら、キュンとしてしまう。
「あ~あ。凛の気持ちを知っていたら、大和に渡さなかったのに」
聖は、悔しそうに溜め息をつく。
「あ、あたしね……聖のこと好きだから大和とは、付き合えないって言ったの……」
「えっ。それで、大和は何て……?」
「まだ、返事は貰えてないけど、聖と沙羅とのこと気にしてた……」
「大和にまで、誤解されてたのかー」
聖は、あたしの肩にコツンとおでこをのせた。
「せっ、聖ー」
これじゃ、ドキドキが止まらないよ~。
「凛のこと見守っていこうと決めたのに……、それでも、凛が大和といる所を見ると、やきもちで一杯になって……幼なじみに戻れるか、自信がなかったんだ……」
「……」
あたしも、聖と幼なじみに戻れるか、自信がなかった。
「でも、凛も同じ気持ちだったなんて、ホッとした」
聖は、嬉しそうにあたしを抱き締めた。
「大和には、俺からも話してみるから。きっと、わかってくれるー。だから、その時は、幼なじみじゃなくて、彼女として俺の側にいて」
「うん!」
あたしは、聖の腕の中で小さく頷く。
聖が、ゆっくりと身体を離すと、あたしの瞳を覗き込んだ。
そして、あたし達は、瞳がぶつかり合うと、甘いキスをした。