ep.1 私を処刑?されるのはお前だ
「陛下! この不届き者を処刑するべきです!
精霊を軽んじたも同然です!」
大広間に、臣下の大声が響き渡った。
私は神聖力拘束の縄をかけられた状態で、玉座に座る精霊王を見上げた。
精霊王は青い瞳で、じっと私を射抜いていた。
周囲の臣下たちと騎士たちの視線が、痛いほど私に突き刺さる。
「この人間の女の罪状は、精霊界の聖なる渓谷に立ち入ったことです!」
「我々精霊ですら立ち入らないのに! どういう了見でしょうか!」
「精霊の法を軽んじたこの女に厳罰を!」
周囲に立ち並ぶ臣下たちが、口々に私の処刑を求めた。
――まじかよ……。私は処刑か。神聖力が使えないから、逃げ出すこともできん……。このままじゃ、目的を達成できないじゃないか……。
精霊王が右手を挙げると、広間はぴたりと静まり返った。
精霊王は私に聞いた。
「なぜ立ち入り禁止の渓谷に入った?」
――わざとです……。なんて、今言ったら殺されるな。
「そもそもなぜ人間が精霊の国にいるのだ? お前からは神聖力を感じる。お前は神官なのか?」
――仕方ない。打ち明けるか。
「私は呪術師でございます。かつては神殿の神官でしたがね」
広間がざわついた。精霊王も驚いた顔をした。
「ですが、身の上話をして何になりましょう。私はどうせ処刑されます。墓場まで、この秘密は持って行くとしましょう」
――命乞いも、長話も、かっこ悪いからな。
精霊王は愉快そうに笑った。
「面白い人間だ。神官を処刑するのは、倫理に反する。お前、名前は?」
――本名はヌレンナ=デュッカートだが。バレたらまずい。適当な偽名でいいか。帝国で一番多い名前にしよ。
「サトーと申します」
「そうか。サトー。では、お前にチャンスをやろう。お前が解いたら、命だけは助けてやる」
――解く? 何を?
精霊王は玉座の側に立つ側近に耳打ちをした。
側近は頷くと、広間から退出して、しばらくすると戻ってきた。
側近は銀色のトレーを両手に持っていた。その上には、二枚の平皿が乗っていた。
側近は、私の目の前にトレーを置いた。
トレーの上には、金色の薔薇の模様が描かれた青い皿と、白い蔓草模様が描かれたピンク色の皿が乗っていた。
私が皿を凝視していると、精霊王は私に言った。
「二つの皿の内、片方は偽物。片方は年末の神聖儀式で使う神器だ。本物を当てたら解放してあげよう。外せば、お前は処刑だ」
――は? 精霊の神器の知識とかあるわけないだろ。人間の私がどうやって解くんだよ。
精霊王は優雅に足を組み替えると、私に言った。
「五分、考える時間をやろう。じっくり考えろ。お前が優秀な神官なら、分かるんじゃないか? 解いたら、敬意を示して許してやる」
――おいおい……。教皇だって解けないっつーの。精霊の儀式についてなんて、人間は知らないんだからな。
私は二枚の皿をじっと見つめた。
――まずい……。さっぱり分からないな。
やがて五分が経ち、精霊王が私に聞いた。
「さあ。どっちだ? 答えろ」
私は顔を上げて、精霊王を真っ直ぐに見つめた。
「ピンクの皿だと思います」
精霊王はにやりと笑った。
「残念だな。外れだ」
――くそっ。このまま約束を果たせずに死んでたまるか。だが、死ぬなら私の尊厳までは潰させない!
私はふっと笑った。
「私は死ぬ。精霊の美や神聖の基準は分からん。しかし、私はこの皿が神聖で美しいと思った。私は精霊の基準で死なない。私が美しいと思うものを選んで死ぬ。さあ、私を殺せ」
精霊王は大爆笑した。広間に、彼の笑い声だけがこだました。
「尊厳を守って死ぬつもりか? 面白い奴だ。ひとまず、拘束具ははずしてやろう。おい! こいつをひとまず投獄しろ! 沙汰は追ってくだす」
――よっしゃあ! 拘束具さえ解ければ、こっちのもんだよ! 誇り高い精霊なら、私の解答を評価すると思ったわ。結果オーライ。計画通りだな。
騎士が私の拘束具を外した。
私は、立ち上がると、懐から鍵の形のネックレスを取り出した。
それを、掲げた。
精霊王はネックレスを見た瞬間、青くなった。
「そ……それは」
周囲の臣下と騎士たちは不思議そうな顔をした。
「このネックレスに見覚えがあるようですね?」
「貴様! なぜそれを持っている!」
私が聞くと、精霊王は血相を変えて立ち上がった。
「ええ。これは、あなたがかつて捨てた皇妃のテラー様が持っていたものです。テラー様とその王子は追放された。そして、王宮を追放されたテラー様は貧しさの中で死んだのです。テラー様はね」
広間がどよめいた。精霊王は怒りで顔を朱に染めた。
「"テラーは"と言ったか? まさか、息子が生きてるのか?」
私は瞳をぎらつかせた。
「ええ。そうです」
――愚かな精霊王。私は、お前の前に引っ立てられるために、わざわざ渓谷に入ったんだ。そうでもしないと、精霊王になんて会えないからな。
広間のざわつきはさらに大きくなった。
「このネックレスには、テラー様と王子の恨みが籠もっている。精霊王! この怨嗟の下に、今からお前を呪い殺す!」




