日常とニュース
その数字が刻一刻と減っていくのを見ていると、否が応でも緊張が高まってくる。
「よし、ユウト!ここまで来たらもう腹を括るしかないな!」
僕は拳を握りしめながら言った。
「そうだな!頑張ろうぜ、お互いに無茶だけはするなよ」
「もちろんだ、大丈夫なんとなるから!」
僕はいつもの口癖を大声で叫んでみせた、自分に言い聞かせるように。
---駅前の広場に差し掛かると、ふと大型スクリーンの映像が切り替わった。それに気づいたのは、ユウトが「おっと」と足を止めたからだった。
画面には荒れ果てた施設の内部が映し出されている。赤い警報灯が不規則に明滅し、慌てて走る人影。爆発音なのか、マイクが割れるようなノイズが混じっていた。
『――本日未明、外縁部惑星コロニーにて一部住民による武装蜂起が発生しました』
淡々としたナレーションが流れる。映像の中では、簡易装備を身につけた集団と、それを取り囲むように展開する治安部隊が睨み合っていた。
『現在、秩序回復のための対応が進められており……』
再び閃光。そして、画面が乱れる。
『当局は、今回の行為を“重大な社会秩序の攪乱”と位置づけ、厳正に対処する方針です』
周囲から小さなざわめきが起きた。「まじかよ」「社会不適合者の最後の抵抗だろ」「どうせすぐ終わるって」……でも、それはほんの一瞬で、すぐにまた元の静けさに戻ってしまった。みんな自分のことで精一杯なんだろう、今日は特別な日だから。
ユウトがちらっと画面を見て、肩をすくめた。
「無駄だよなぁ」
「何が?」
「反乱とかさ。どうせ抑えられるのに」
レンは少しだけ考えてから答えた。
「意味はないだろうな、秩序が崩れたら、全体が困るだけだし」
「だよなあ」
ユウトもあっさりと納得した。
画面ではすでに別のニュースへと切り替わっていた。何事もなかったかのように、次々と情報が流れていく。
「……まあ、関係ないか」
ユウトがポケットに手を入れて前を向く。
「関係ないな」
レンも同じように歩き出した。
それよりも今は目の前の試験のことだ。他のことにかまけている余裕なんてない、自分のやるべきことをやる、それが一番大事なんだから。
ふと視線を上げると、空中に投影された特大のカウントダウンが目に飛び込んできた。
――試験開始まで 02:24:33――
数字が減っていくのを見ているだけで、胃のあたりがキュッと縮むような感覚になる。でも、それは恐怖とは違う、体が戦いに向けて準備を始めているような、奇妙な高揚感だった。
「よし! いよいよだな」
レンはわざと明るく声を出した。隣のユウトもニカッと笑って拳を突き出す。
「おう! 気合入れていこうぜ! 俺たちがどう立ち回るか、見せてやろうじゃないか」
「そうこなくっちゃ! 俺たちならどんな状況でも生き残れるって!」
ぶつけた拳から、ユウトの掌が少し汗ばんでいるのが伝わってきた。やっぱりこいつも緊張してるんだなと分かって、なんだか少し安心した。
周囲を見渡せば、同じようにカウントダウンを見上げる若者たちの姿がある。知らない誰かが深呼吸をしているのが見えた。遠くで誰かが泣いている声も聞こえた。それぞれがそれぞれの思いを抱えて、この瞬間を待っている。
「大丈夫なんとなる」
レンは小さく呟いた、自分自身に言い聞かせるように。
カウントダウンは容赦なく進んでいく。
――02:08:46――
「やることは決まってる」
ポツリと零したレンの言葉に、ユウトが眉を上げた。
「何? なんか策でもあんの?」
「策ってほどのものじゃないけどさ、心の正しいと思うことをやる、それだけだよ」
「……それだけ?」
「それだけ! 大丈夫なんとかなるさ」
レンは胸を叩いてみせた、自分に言い聞かせるように、そしてユウトの不安を拭うように。
「それが一番後悔がないし、きっとうまくいく。変に小細工するより、自分を信じて突っ走った方が結果もついてくるって!」
「ははっ、お前らしいな。まあ、その根拠のない自信だけは羨ましいよ」
ユウトが呆れながらも笑う。その笑顔が少し引きつっていることにレンは気づいたが、あえて触れなかった。
人の流れに乗って、二人は会場へと向かう。さっきの反乱のニュースを気にしている者は、ほとんどいなかった。それもそのはずだ、今日は特別な日、全ての20歳が自分の運命に集中する日だ。他のことにかまけている余裕なんてどこにもない。




