元に戻った侯爵令嬢は……
「……リー……リヤ嬢?」
頭の上から聞こえてきた声は、酷く驚いたもので、どこか、焦っているような戸惑っているような感じもした。
「んん……セイン殿下……? もう、起きられているのですか?」
「……あぁ、えっと、今、起きた」
「おはようございます」
「……」
セインの声がして、うっすらと瞳を開ける。朝なのか、レースのカーテンから日の光がもれて眩しく、一度、目をギュっと閉じた。小さな手でいつもペタペタと触れる距離にいたはずのセインはおらず、ベッドには温もりがなくなっている。
大きなベッドではあっても、セインはベッドの真ん中でお行儀よく眠るので、そんなはずはないだろう。
……? 温もりが感じられないのだけど、どういうことなのかしら? それに、いつもなら、私のことをリーリヤ嬢ではなく、優しくリアと呼んでくれるのに。
寝ぼけながら、『リーリヤ嬢』と呼ばれたことを不思議に思った。眠い目をこすりながら、ゆっくりとベッドから起き上がる。
「……リーリヤ嬢、その、……」
「どうかされましたか? セイン殿下、何か様子がおかしいようですけど」
「どうかって、うん。いや、えっと……なんていうか? その……」
言葉にならないほど焦るセインの声に、わけもわからず目をパチクリさせる。いつもなら、セインを見上げるはずなのに、すでに起きて私と距離をとっているセインと同じ目線で見つめ合っていた。いや、セインは、顔を赤らめて私から顔を背けていた。
……どうして? セイン殿下はこっちを見てくださらないのかしら? 私、寝ているあいだに何かしてしまったの?
拒絶されているようなその態度に寂しくなり、いつものようにセインの頬に触れようと手を伸ばし駆け出そうとしたとき、体がうまく動かなかった。ベッドの上でワタワタとする。伸ばした腕が見慣れた人間のもので……? そっと、体の違和感を見て確認する。
「……っ! きゃぁーーーーーーっ!」
慌てて、シーツをかき集め、私は急いで体を隠した。生まれたままの格好でセインのベッドを占領し座っていたのだ。
……み、見られた? セイン殿下に裸を……あぁ、あぁ……恥ずかしすぎる……っ!
顔を真っ赤にしながら、かき集めたシーツの中へと包まり潜りこんでいく。先ほど見た、セインの顔が赤くなっていた理由が分かり、羞恥で火が噴きそうなくらい体中が熱い。
……私、こんな状態で、セイン殿下と一晩過ごしたというの? 一体、どうなっているの! あのときとは反対に、いきなり、人間に戻ってしまったというの? エリーゼ嬢にかけられた呪いが、やっと解けたというの? でも、何故、今なの?
知らぬ間に人間に戻り、恥ずかしさでシーツの中に隠れながらもパニックを起こし混乱しすぎて、状況がよくわからない。
頭を抱えながら、フルフルと横に振る。
……どおりで、私の声が聞こえると思ったわ。人間に戻っていただなんて! それよりも、セイン殿下に……。
先程から「ちゅう」と鳴く声ではなく、馴染みのある私の声が聞こえてきていた。当たり前すぎて、気付かなかった。
「……どうかされましたか、殿下? 今、女性の悲鳴のようなものが……」
ベルが私の悲鳴を聞き部屋に入ってきて、ベッドでシーツに包まる塊を見て絶句した。ベルだけではない。もちろん、セインも言葉を失っている。
私は恥ずかしくて、シーツの奥深くに潜り込んでいくだけだ。
私たちの中、いち早く正気に戻ったのは、やはりベルであった。
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