初めてのキス
アンダルトとの決別があった日から、セインはぼんやりしているときがある。長年の友人であったものを失うことで、どれほど心を痛めているのだろう。
アンダルトほどに気を許せる友人がいなかっただろうセインの気持ちは計り知れない。
……アンダルト様が個を重んじず、もっと、セイン殿下に寄り添える方だったら、こんなことにはならなかったのに。私との婚約解消以上に、セイン殿下を側で見ていれば、お二人の決別したことのほうが悔やまれてならない。
結果が出ていることだ。残念でならないが、今更言っても仕方がない。私がアンダルトの心をしっかりとどめられなかったのも、原因の一つだから。
その痛みを隠すように、毎夜、セインは人間の私の捜索の報告書を見て、ため息をつくことが多くなった。報告書の内容は想像ができる。『足取りは掴めておらず……』であろう。
「ちゅう、ちゅちゅう! (そろそろ、お休みしてください!)」
セインが勉強しているときに読んでいた本を見ながらも、チラチラとセインの様子を窺っていた。セインのほうもひと段落したらしいので駆け寄った。思い悩むセインの曇った顔に声をかける。遅い時間になっていたので、セインの肩に駆け上がり、頬に手を当てた。
「リア、もう、眠いのかい?」
「ちゅう!(そうです!)」
嘘でも、セインの体調を考えれば、就寝した方がいい。今は、特に心が疲れているのだから、疲労が本人ではわからないかもしれない。
迷惑をかけている私にできることはこれくらいしかないからこそ、セインに寄り添いたいと考えた結果であった。
「わかったよ。それにしても、さっきの本、夢中で読んでいたけど、そんなにおもしろかったのかい?」
「ちゅちゅうちゅちゅちゅう!(とてもおもしろかったです!)」
机の上で開きっぱなしになっている本の方を見て、ぴょんぴょんと飛んでみる。とても喜んでいると伝わったのか、セインが優しい表情になった。
「難しい本なのに……リアは、すごいね?」
「ちゅ?(難しい?)」
私がいつも読んでいた本に比べたら、それほど難しいわけではない。たくさんの知識を詰め込んでいるが、セインの図書室にはまだ見たことのない本が多いため、見識を広めていくことが楽しかった。
「ちゅちゅう、ちゅちゅ!(初めて読んだ本だったので、また、読みたいです!)」
言葉はあいかわらず伝わらないが、共同生活が長くなってきたので、少し理解してくれるようになった。
「気に入ったのなら、明日は、他の本を貸してあげるよ! 読ませたい本があるんだ。それに、本ならリアでも、めくって続きが読めそうだし」
新聞は体より大きすぎるので、めくるのが難しいのだが、本ならめくれることがわかった。表紙だけは重くて大きいので、開いてもらうことにしている。
時計を見れば、いい時間で、急に眠くなった。
「おいで、一緒に眠ろう」
セインの手に乗り、ベッドへ連れて行ってもらう。
横になったセインを見つめると、このしばらくのことが思い浮かび、胸が苦しい。
「リーリヤも、僕を置いて行かないでよ?」
「ちゅう……(セイン殿下……)」
「……おやすみ」
目を閉じるセイン。連日の疲れからか、私が「おやすみ」をいう前にすぐ眠りについた。
セインを見つめ、そっと唇に触れる。目を閉じ、初めて唇にキスをする。
……セイン殿下が、「出て行くように」というまで、ずっと、私は側にいます。出て行けとは言わないでくださいね? セイン殿下。
ベルが言ったとおり、セイン殿下のことが好きです。伝わらなくても……心に優しいあなたが。
私も眠くなり、そのまま、セインの隣で体を丸めて眠むる。フワフワと不思議な夢を見て……。
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