恋心より友情をとった結果
「そうか……婚約解消となった今、アンダルトの弟にリーリヤ嬢との婚約がうつるのか……それは、リーリヤ嬢を先に見つけて、気持ちを聞いたうえで、断固として阻止をしたいな……公爵は抜け目がない」
アンダルトとの思い出を遡っていると、セインが何か呟いている。
「……リーリヤは、何故、賢い弟でなく、こんな俺を選んでくれていたんだろう?」
「それは、幼いころから決まっていた婚約のせいで、アンダルトとの未来が全てだったからじゃないか? リーリヤ嬢は、公爵家に嫁ぐために、他の令嬢とは比べようもないほどに努力をたくさんしているはずだ。リーリヤ嬢の矜持をアンダルトとエリーゼ嬢が土足で踏みにじったこと、忘れるな。
エリーゼ嬢とは別に、一生忘れられない女性になりそうだな」
「……リーリヤ」
弱り切ったアンダルトに名を呼ばれ、ほんの少しだけ、心がざわつく。アンダルトの情緒は上下しているようで、とても不安定であった。深酒しているのもそのせいだろう。私が側にいれば、そんなになるまで、飲むこともなかっただろうし、こんなに弱りきるようなこともなかった。
公爵家の令息として、相応しくないことは、全て私がさせないできたのだから。
……アンダルト様が、ご自身で選んだ道です。婚約者でない私には、もう、何もしてあげられません。むしろ、……今は、何もしたくない。
私は……。
ザワついた心に蓋をして、チラッとセインの方を見上げた。すると、また、セインと目が合った。今度は、優しく微笑んでくれ、アンダルトのことで冷たくなっていた心がほわっと温かくなる。
「そうだ、確認したいことがあった」
「なんですか?」
「公爵から預かっていたものだが……」
そういって、セインはおもむろに立ち上がり、机の引き出しから1通の手紙を取り出した。私にも見覚えがあるそれをジッとみた。
……全ての始まりだわ。あの日、手紙になんて従わなければよかったのに。
「……これは?」
「この便箋と文字に見覚えはないかな? 公爵は、これの送り主を探しているそうだ」
「……父上が?」
ジッと目を凝らしてみているアンダルトの顔つきが変わる。少し強張ったようになった。
「……この文字は、エリーゼの字。あと、この便箋も……」
「そうか。どこかの令嬢の特注品だというのはわかったのだが、誰かまでは、わからなかった。公爵にも誰のものか同じように伝えておいてくれ」
「父上にですか? これは、一体何なのですか?」
「……エリーゼ嬢に聞けばわかるのではないか? 書かれている日付は、僕らがリーリヤ嬢と最後にあった日のもの。この手紙は、あの日、リーリヤ嬢が僕から見えないようにと隠したものだ」
アンダルトの表情はとても険しい。この手紙から、私に何が起こっていたのか、想像したのだろう。唇を噛みしめる。ただ、そうしたとしても、今のアンダルトには、何もすることができなかった。
「夜も更けた。そろそろ、屋敷に戻ったらどうだい?」
「……セイン様は、俺を見捨てるのですか?」
「見捨てるも何も、僕は、ずっと、アンダルトに、リーリヤ嬢のことをこれまで以上に大切にと言っていたはずだけど?」
「それは、セイン様が、リーリヤのことを好きだから、婚約者である俺に嫉妬しているのだとばかり……」
「……アンダルトがリーリヤ嬢の婚約者だと知った日から、嫉妬しなかった日は1日もないよ。それこそ、アンダルトとリーリヤ嬢が肩を寄せて歩いているのを見るだけでも、どうにかなりそうなほど、苦しい思いをしてきたんだ。それと同時に、僕はアンダルトの親友だったつもりだよ。忠告を聞かなかったのは、アンダルトだ。リーリヤ嬢への恋心よりも、アンダルトとの友情をとって身を引いていたんだ。婚約解消をアンダルト自身が望んでしたのなら、僕は、アンダルトにも公爵家にも遠慮することはない。リーリヤ嬢のことは、決して諦めないから。必ず見つけ出して、公爵家から奪い取ってみせるよ」
セインがグラスを持ってグイっと酒を飲み干し、立ち上がる。帰ってくれという意思表示に他ならないのだが、項垂れているアンダルトには、見えていないのかもしれない。
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