努力が負けたと思い知ったとき
「……ちゅう(……アンダルト様)」
アンダルトの弱った姿を見て、思わず心配になり、身を乗り出してしまったところで、セインと目が合った。複雑そうな顔をしているセインに、「隠れていて」と声を出さずに言われ、肩を落として、元居た場所へと戻った。
こっそり、落ち込んでいるアンダルトの表情を見ながら、心配になって、ついつい物影の外まで身を乗り出してしまう。
「アンダルト、今回のエリーゼ嬢との婚約が、本当にアンダルトにとって、自身を含めみなが幸せになれるものか、ちゃんと将来のことまで考えたのかい? 一時の気の迷いやエリーゼ嬢に強く願われたから、婚約を……」
「違うっ! そういうわけじゃない。エリーゼのことは、本当に愛して……。でも、俺はリーリヤがいないと何もできない! リーリヤなしでは、この先、どうすることもできないんだ」
「……リーリヤ嬢がいないとか。皮肉なものだね。アンダルトにとって、ただの都合のいい話だ。アンダルトが見えないところで、リーリヤ嬢は、とても苦しんでいた、悲しんでいたんだ。家同士が決めた婚約であったとしても、リーリヤ嬢は、本当に、アンダルトのことを慕っていたから。それをリーリヤ嬢が聞いていないからと、酷いことを言って彼女を突き放したのは、他でもないアンダルトだ」
「……それは、謝るよ。セイン様にも侯爵にもリーリヤ本人にも。何度でも何度でも。でも、先に消えたのは、リーリヤだ!」
「すでに、リーリヤ嬢の捜索は、独断で打ち切ったんだろう? 公爵は続けるように言っていたそうじゃないか。それをまた再開させるつもりかい?」
「そんなことはできない! エリーゼの手前、そんなことは……。それに、父に聞いたら……リーリヤとの婚約は、弟へも打診されていたんだ。俺が、浮ついているからと。それを知りながらも……」
アンダルトは悔しそうに膝の上に置かれた手を握りしめる。その手は、あまりにもきつく握られているせいか段々白くなっていく。その姿を見て、セインがため息をついた。
「アンダルト、君は、リーリヤ嬢を手放すべきではなかったな。リーリヤ嬢は、アンダルトにとって、かけがえのない存在だったんだ。近すぎて、それが、わからなかったんだよ。僕は、リーリヤ嬢だけでなくアンダルト、君のことも見て来たからね」
「……」
「アンダルトの決断は、間違っていたと思っている。正直言って、エリーゼ嬢では、リーリヤ嬢の代わりにはならないだろう。公爵家へ嫁ぐための努力を苦しくても続けたリーリヤ嬢に比べ、自由気ままに自身の人生を謳歌してきたエリーゼ嬢では、公爵家、ひいては公爵の隣に並び立つに相応しくない相手だ」
「……みなが口を揃えていう。エリーゼが公爵家には相応しくないと。何がいけないんだ? エリーゼは、あんなに可愛らしく」
「それだけしかないからだろう? 上位者に媚びることしかできない。行動を見ても突飛なことをして、何を考えているのかわからない。貴族間にある自身の家に対する利益をもぎ取るための針の穴に糸を通すような繊細で残酷で難しい駆け引きができない。リーリヤ嬢のように上位貴族、とりわけ公爵家に相応しい教育が全くない。貴族として基本的なものすら、知識もなくできていない。アンダルト、今の君が、誰よりも身をもってエリーゼ嬢がふさわしくない理由をわかっているんじゃないかい?」
エリーゼの本質のことをなんなく見抜いていたセインに私は驚いた。私だけでなく、アンダルトもハッとしたように顔をあげる。
……何か思い当たることでもあったのかしら? アンダルト様のいう真実の愛の前では、それすらも許せてしまえるの? 私を見捨てるくらいには。
アンダルトを心配をしながらも、エリーゼの可愛いらしさやあざとさに、幼いころから今までの努力が負けてしまったことを残念に思えてならなかった。
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