ベルはお怒り
「……大変、申し訳ございませんでした」
「申し訳ありません」
「……」
「申し訳ないで、済む問題ではありません! あなたたち、ここは王太子殿下の私室だということを十分承知のうえで、こんなことをしでかしたのかしら?」
「……」
「このドールハウスは、あなたたちには想像もつないほど、とても大切なものなの。なんてことをしてくれたの? この部屋へ入ったことも含め、殿下のものを勝手に触ったうえに、故意に殿下が大切にされているものを壊してしまうだなんて! 非常識にもほどがあります! あなたたちの安月給で賄えるものでは、到底ないのですよ! 明日、親を呼び出しますので、覚悟なさい!」
ベルに凄まれた三人は、言葉をなくし、項垂れ、涙する。すすり泣く三人が、少々可哀想な気になったが、ベルの顔を見ればわかる。この状況を見て、胸を痛めるのは、他ならぬセインなのだと。心優しいセインが、この事実を仕方がないと受け入れてしまう姿が浮かんでくるが、セインの心を予測で来てしまうベルの怒りはもっともなことだ。
「泣く権利なんて、あなたたちにはありません!」
ベルが手をパンパンと叩くと、兵士が二人入ってくる。留守の間、部屋の前で見張りをしていたらしいその二人は、部屋の中を見て、泣いているメイドたちや壊れているドールハウスなどを見てギョッとしていた。
「なぜ、この者たちを通してしまったのです?」
「……殿下の部屋の掃除をすると言っていましたので、そうなのかと」
「こんな時間から、掃除などありえません! それに、私が殿下の部屋の掃除を他のものに任せたことが一度でもありましたか?」
「……いえ、変だと思っていたのです。ただ、夜会の日には、必ず来ていたので、そういうものだと」
「夜会のたびに来ていたのですか?」
兵士の告白は、ベルも知らないことだったようで、驚いていた。メイドたちの方を無表情になって見下ろすベル。蛇に睨まれたカエルとは、こういうものなのだろうか? 捕食者に狙われる身となっていることは忘れ、その様子を見つめていた。
「……なんの目的のために? 殿下を害するためだというのなら、なおさら、許せません!」
「あの!」
ベルの剣幕に反論しようとして、先程まで黙っていたメイドが口を開いた。
「なんですか?」
「……申し訳ありません!」
「申し訳ないでは、すみません! 殿下の私室は最も安全な場所でなければならない場所です。そんな場所に、許可なく入るだなんて!」
キッとベルに睨まれ、すくみ上るメイドたちと兵士たち。騒ぎを聞きつけた他の侍女や兵士が駆けつけてきた。
「どうかされましたか?」
部屋を見て、言葉を呑んでいた。
「殿下が帰ってくるまでに部屋を整え直します。そこにいるものたちを牢へ。今晩、そのものたちの親も来ていたので、明日の朝、呼び出しておいてください!」
「かしこまりました。ベル様。お手伝いは、必要ですか?」
「いえ、結構です!」
プリプリと怒ったベルは、部屋にいたものを全て追い出した。ふぅっと大きく息をはく。とても優しいベルが怒るということは、それだけ、良くないことが起こっているということだ。すぐに、部屋を整え始めようとするベルの手を止めることは、あまりいいとは思えなかったが、物影から顔を出す。
「ちゅ? (ベル?)」
「……リア様。ご無事でしたか。よかった……。怖い思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
深々と頭を下げるベル。駆け寄って行き、お仕着せの裾を引っ張る。屈んでくれたので、その膝に飛び乗った。
「ちゅう! (大丈夫!)」
ベルの方が大丈夫か気になり、見上げると、目に涙が溜まっていた。
……ベルは何も悪くない。
でも、ベルは自身が許せないのだろう。唇を噛んでいて、痛々しい。
「ちゅ、ちゅう!(ベル、やめて!)
手で、ぽんぽんと叩くと伝わったのだろうか。涙が一滴、頭に落ちてくる。
「……リア様も、とても優しいのですね?」
涙をエプロンで拭き、ニコリと笑う。
「ありがとうございます。殿下が戻るまで、あまり時間がありません。今から部屋を整えますので、どうぞ、こちらに」
そういって、セインの机に乗せられた。テキパキと整えていくベルは、あっという間にドールハウス以外は、整えてしまった。
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