ほろよいの
「最後は、ドールハウスですね……もう、修復は無理そう」
「ちゅう……(ひどいわ……)」
メイドたちが故意に壊したドールハウスは、全壊とはいかずとも、半壊はしていた。中にあった家具は、踏まれたり、落としたときにつぶれたりと壊れてしまった。
意匠に凝ったものが多く、どれも職人が手間暇かけて作ってくれたものだろうことは、ネズミになった私でもわかる。セインからもらったものだからというだけでなく、細やかな配慮がされているそれらを私も大切にしていたのだ。
「カトラリーは、全てダメですね。粉々です……リア様、こんなことになってしまい、申し訳ありませんでした。お城で、こんなことが起こるだなんて……」
ショックを受けているベルを慰めるように寄り添う。責任感の強いベルは、気に病んでいるようで、申し訳い。
「殿下には、ドールハウスなどのことは、明日、お話しましょう。実は、今晩、夜会が終わったあとに、お客様がここにいらっしゃるのです」
「ちゅう?(お客様?)」
「……公爵令息アンダルト様です。以前いらしたのは、覚えていらっしゃいますか?」
「ちゅう!(もちろん!)」
……私の元婚約者ですもの。忘れるわけはないわ。それに、セイン殿下に対して、あの無礼な態度も、しっかり覚えているわ。
さっきから、いいことが続かないと、しっぽが垂れさがってしまう。メイドたちの噂話に出てきた隣国の王女が来ていることも、壊れてしまったドールハウスのことも、今から来るアンダルトのことも。ネズミの私では、対処のしようがなく、なんともしようがないことばかりである。
「もうすぐいらっしゃいますので、ドールハウスは私の部屋へひとまず移動させますね? 危ないので触らないでください」
「ちゅう(お願いします)」
壊れたドールハウスを持って、隣の侍女室へ持っていくベル。その間、注意はされたが、割れたカトラリーを一か所に集めておこうとする。
気に入っていたふかふかのベッドや、綺麗な調度品。バラバラになってしまっていて、見ているのも辛かった。
「リア様、ダメです。ケガをなさってはいけないので。そこに置いておいてください!」
「ちゅう(でも)」
「いいのですよ。リア様も、怖い思いをされたでしょうし、こうなってしまって、悔しい想いをなさっているかもしれませんからね。大丈夫ですよ。私がいたしますから」
ベルがひとつづつ拾い、全てを片付けたころ、セインの足音が聞こえてきた。
「ちゅ、ちゅちゅう!(ベル、私隠れますね!)」
「リア様? 何処へ?」
物陰へ隠れる私を見て、なるほどと頷いた。机に置かれていたクッキーも片付けてくれ、お客を受入れる準備を早急に整えていく。
コンコンとノックされた扉を別の侍女が開いたときには、アンダルトの好むお酒やつまめるものが机に次々に並んでいた。
……さすが、ベルね。もう、準備が終わって。アンダルト様の好むものも多いのは、もてなすという意味が込められているわ。
「ベル、急なことで悪かったね」
「おかえりなさいませ、殿下。こちらにお酒と軽食のご用意が出来ています」
ほろよいであるセインを見るのは初めてだったが、肩を借りて部屋に入ってきたアンダルトは、結構な酒量になっていることが窺える。コソコソと物影から二人の様子を盗み見ていた。
「あの、アンダルト様は大丈夫でしょうか? 客間を用意いたしましょうか?」
「……うーん、そうだね。客間まではいらないかな? 屋敷も近くだし、もう少ししたら、公爵家のものを呼べると思うよ。男爵令嬢エリーゼを広間に置いてきてしまったから、先に帰ってもらうよう伝えておいて」
……エリーゼ嬢も来ていたのね。今は、アンダルト様の婚約者だもの、当たり前よね。
「かしこまりました」とベルは少し部屋を出て、案内をしてきた侍女に先程の伝言を伝えてきたようだ。そのあとは、セインの体調に合わせてお酒の給仕をしていた。
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