03-43 無人島実習を終えて
「マレソムディア島に魔女が棲んでいた――あの逸話は事実だったな」
船の個室で利哉は敷き布団の上にあぐらをかく。
「嘘であって欲しいって何回思ったか」
雅稀は布団の上で足を伸ばし、苦笑する。フォーリン=クズハに苦戦し、体も限界を超えてボロボロになったことを振り返る。
「ホントだよ。あの過酷すぎるアスレチック実習の後の戦闘は参ったぜ」
「間違いない。もう二度とマレソムディア島の実習に参加したくない」
「同感だ」
利哉と雅稀は笑い合った。
「おーい、2人ともー!」
ガチャッと個室のドアが開くと、一翔が顔を出した。彼の手の上に銀色のトレーがあり、ワッフルが3つ載っている。
「おっ! 美味そうじゃん!」
利哉は立ち上がり、ワッフルをじろりと見つめる。薄茶色の焦げ目のついたワッフルは、湯気と共に蜂蜜の甘い香りが彼らに食欲を注ぐ。
「戦で疲れた後の甘いものは最高だ」
雅稀はワッフルに目を輝かせる。
「プレーンのワッフルに蜂蜜をかけたやつを持ってきた。一緒に食べよう!」
一翔は一番上に載っているワッフルを掴む。
「いただきまーす!」
3人は合掌し、ワッフルをかじる。
「美味ーっ!!」
利哉はワッフルを口にした状態で声を出す。
「一翔が取りに行ってくれてなかったら、食べ逃してた」
ありがとう、と雅稀はお礼を言うと、一翔は「これくらいお安い御用」と返事した。
「よっしゃ! ちょっと食欲が湧いてきたぜ!」
利哉はワッフルを飲み込むように早食いし、立ち上がった。
「今なら食堂コーナーに行ったら朝食が食べられるよ」
一翔は食堂がある方向を指す。
「もしや食べる気なんか?」
雅稀は味わいながら利哉に顔を向ける。
「当たり前だろ! 朝飯逃して寝てしまったら、何も食わずに1日過ごすことになるんだからさ」
「お前、ご飯に目がなさ過ぎだろ」
「目がないのは認めるけど、オレたち夜通しエネルギーを使いまくってたんだぜ。マルス先生のお陰で動けるとは言え、空腹には敵わないさ」
利哉は少し呆れたような眼差しで雅稀の腹部を注視する。そこから、あろうことか空腹のサインの音が鳴った。
「ほら、マサのお腹がそうだって言ってんぞ」
利哉はニヤリとした目つきで雅稀の腹部を指さす。
「ちょっと、恥ずかしいこと言わないでくれ」
雅稀は腹部を押さえて赤面する。
「でも、事実じゃん」
「わかった。俺も行く」
雅稀は食べかけのワッフルを一口で頬張り、手についた粉を皿の上で払い落とす。
「カズも何か食べるか?」
利哉は一翔に視線を移す。
「僕は2人がここで喋ってる間に食べたから大丈夫」
一翔は行ってらっしゃいと手を振る。
「どっちが多く食べるか勝負だ!!」
利哉が闘心を燃やす傍ら、雅稀は
「大食い選手権でも何でもないとこで勝負してどうすんだよ?」
と不満そうに唇を尖らせる。
「勝負するなら、週明けの交戦デビュー大会の時で良いんじゃない? 少しの間だけでも休んだ方が良いよ」
一翔は雅稀と利哉の間で散っている火花をアドバイスで消す。
「そうだな。血が騒いでしまった」
利哉は恥ずかしそうに頭を掻く。
「じゃ、俺たちは何か食いに行ってくる。また後で」
雅稀は扉へ移動し、利哉と一緒に食堂へ向かった。
今回の実習で舞台となったマレソムディア島には100年に一度、女子学生に限ってさらうと言われていた魔女が実在していた。
シャドウ=リリスと恐れられていたその正体は、400年前の無人島実習で失踪した茶松樟葉の亡霊だった。彼女は400年前に死んでからも未練を残し、地縛霊としてこの世に居続けた。
樟葉は自分と同性の日本人で光属性の魂を喰らえば強くなり、そうすれば成仏できる。これがマレソムディア島の逸話の真相だった。
連れ去られた力武ヒカルを助け、なおかつ逸話の恐怖に終止符を打つべく、雅稀らは深夜の激闘の果てに勝利を掴んだ。
その後で、樟葉は未練を断って成仏したが、彼らに「堕天使には、気をつけて――」と意味深長な言葉を残した。
一方で、魔女との決戦で雅稀らは無事帰還し、ヒカルの意識は取り戻したことにより、無事4泊5日の過酷な無人島実習を終えた。
しかし、新たに大きな謎ができてしまった。
樟葉が言い残した『堕天使』とは一体誰なのか。何を意味するのか。
彼らがその正体を突き止め、堕天使と名乗る者から究極の選択を強いられる場面に遭遇するのは、ここから数年先の話である。
――第4章へ続く――
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