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64.冒険も終わりが近い

てけてけうさぎを連れてアヤコは宿に戻ることにした。

食べ物はリュックの中に幾らでもあるし、家に戻るまでの数日飼育するには問題ない。食べ物は問題ないが、それなりにいるてけてけうさぎを、このまま宿の部屋で飼うわけにはいかない。

となれば、今日と明日の朝城内を散策して珍しいものを買ったら、転移で帰ろう。これからはいつでもコッソリ転移で買い出しに来るぐらいはできるし。

まあ、焼き肉のタレを作るという依頼は、適当にこちらで買ったものを持ち買って研究すると言っておけばいい。


ユーキとルーチェが可愛くキャリーを押しているのを微笑ましく見ながら、アヤコはそう結論に達した。


「アヤコ殿、てけてけうさぎをどうするつもりだ?」

「飼いますけど?」

「…簡単に言ってくれる」

「保護を求めてきた子達を売ったりしませんよ。あの子達が自ら付いていくなら別ですけど」

「…貴族が出てきてもか?」

「ええ、相手が貴族であっても、国であっても関係ありません。お金に困っているわけでもないですし、この国でなければならないというしがらみはありませんからね」

「……はぁ、本音でそれとは、どこまで肝が据わっているんだ」

「守るべきものがあれば、人は何処までも強くなれますから」

「…そう、か」


アヤコは肯定の笑みを浮かべた。

そう、ユーキとルーチェを盾にとるなら、それ相応の罰を受けてもらうに決まっている。ここは日本ではない。あの森で暮らすのに、なにも困っていない。ユーキとルーチェの成長の為に、人との触れ合いを持ってもらいたいだけ。最悪貴族が法となる可能性があるのなら、それを上回る力と利益を生み出せばいい。リュックの中には死蔵している宝らしきものは沢山あるし、他国に恩を売るのも出来る。やりようは幾らでもあるのだ。


「では、一度城内に戻りますね」

「ああ、わかった」


何とも言えない表情のアレクを残して、アヤコは可愛い孫二人のにこにこ顔と共に、門へと向かった。アレクがただの冒険者ではないことは、先ほど鑑定画面が出てきたことで分かった。だけど分かったところで、今すぐに何かが変わるわけではないし、アヤコが出来ることはない。喧嘩を売りたいわけじゃないけれど、買いたいわけでもないのだ。


多少冒険者ギルドには興味はあるけれど、登録しなければ情報が漏れることもない。

気になる場所ではあるのだけど、

うん、ラノベで出てくる場所だけに、いつかは…。


アレクサンドル・ケアード ドゥーコメルス貴族の三男(剣士)19歳 冒険者D

冒険者ギルド諜報員 ランクA


宿に戻りながら、出ている露店を見て歩く。一番の目的は焼き肉のタレを作るべく、珍しい食材はないかと鑑定していくこと。とにかく使ってみないことには、どんな味になるのか全く分からない。

今後この世界の人たちと出会うことも増えてくると思う。その時に出身地など誤魔化すことのできる、この世界の食材で調味料のようなものを作っておくと強みになる。


ただ露店で買いやすい値段だからなのか、質がそれなりのものがあるが、微妙なものも多くある。何かを発酵させているようなものから、完全に腐っているでしょ!と言わんばかりのもの。その中でも、本当にそれが食料だったりするのだから、どこでも食は奥深い。ただ発酵が行き過ぎて、肥料になっているものまであるのは、どうかと思うが。


それでもアヤコは鑑定で食べ物と出たものは、一通り買うことにした。折角の異世界、何でもチャレンジ…予定である。流石に鑑定で肥料とでたものは止めたけど。

ユーキとルーチェもアヤコが買っているものが何なのか気になるのか、背伸びしながら覗き込む。だけど匂いが鼻につくのか、何度か顔を顰めてからは興味を無くしたようだ。

二人は確かに人間よりも鼻は効くからね。

あとちょっとだけ待って。


宿に戻れば、ダンジョンのことが通達されていたようで、森の奥には行かないようにと受付で言われた。

「わかりました。明日のお昼にはここを出立しようかと思います」

「現在冒険者が状況を確認中ですので、もうしばらくお待ちいただいた方がいいかと思いますが」

「大丈夫ですよ。森の中を通らず、魔物や動物が出ない街道を行きますから」

「かしこまりました。ただ冒険者ギルドから門を閉じると通達が出た時には難しくなりますので、ご了承くださいませ」

「わかりました。ただその予定で動きますので、シュゲさんにお伝えいただけますか?」

「かしこまりました」


さて、タレのことをシュゲさんと話したら、外に出れなくなる前に家に戻ろう。



部屋に戻り一休みとばかりにソファに腰かけた。

「ばあば、てけてけうさぎをだしてもいい?」

「そうね。出してあげたいけど…誰かに見られない方がいいから」


アヤコが悩んでいるとドアを叩く音が聞こえた。

「はい」


ドアを開けるとそこにはシュゲとライサが立っていた。

言伝してすぐって、――流石です。


「アヤコさん、この街は楽しまれていますか?」

「ええ、そうですね。色々と買い物ができて良かったです」

「それは良かったです。そう言われると、嬉しいですね」

「ユーキとルーチェにも、色々と見せてあげられましたし、いつか他の街にも行ってみたいですね」

「その時は是非、私共モッテンセン商会に声掛けを頂きましたら、ご案内します」

どうやって?と聞く前に、目の前に封筒のようなものを渡された。


「これは魔道具になっておりまして、魔力を通していただきますとモッテンセン商会に届くようになっています」

どうやら特殊なインクで住所が書かれており、その場所へ届くシステムとのこと。

メールみたいな物らしい。


「その特殊なインクは、お店で売られているのですか?」

「ええ、ございます。ただ受け取るのに別の魔道具が必要な為、店頭には置いていません」


詳しく聞けば、村長とか役場とか冒険者ギルドにような、連絡を取り合わなければならない重要な場所に1つあればいい方らしい。定期的に魔石の取替が必要な為、高額になるのだそうだ。

金額はどうにかなるにしても、深淵の森にあるあの家に届けるのは難しそう。住所ないし家の場所を特定されたら、面倒なことになるし。


「そうなんですね。それは残念です」

高いから買えないと、濁して終わるのがいい。


「色々と研究されてタレができましたら、是非!是非ともお知らせください!」

「……そうですね。ええ、お知らせします。ですので、シュゲさんが準備できる食材をひと揃え頂きたいのですが」

「では、今から準備させていただきます。出立は明日のお昼ごろと聞いておりますので、朝には新鮮なものを揃えます」


「お願いします」

それでは腕がなりますとばかりに、シュゲさんは出て行った。

ライサは少しだけ心配そうな表情をしたが、すぐに表情を戻し、他に何か思いつくもの御有りでしたらお知らせくださいと一礼して、部屋を出て行った。


大丈夫ですよ。すぐに森の中に入ったら転移で帰りますから、と言えないのが心苦しいが、てけてけうさぎのことを考えたら、早い方がいい。

さあ、冒険もあと少し。


読んで頂きありがとうございました。


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