21.思いの詰まったリュックと森の変革
ワクワクしながらアヤコは錬金台となった、元の折り畳みの机の上に材料を並べる。
マジックバッグの元となる布は、〇十年前に夫が穿いていたジーンズだ。晩年かなり断捨離をしたから、これしかいい感じの布はなかった。今まで裁縫なんてしてなかったから、仕方ない。過去に作ったのなんて、高校生の時の家庭科の時間のスカートか、手作りマスクぐらいなものだからだ。ボタンもファスナーも服が壊れた時用のものぐらいしかない。
使ってもなくならない。
ありがたやありがたや。
さて、布の大きさは十分なはず。
その上にヴェルデからもらった魔石を2個置いて、設計図となるリュックの画像を前面から背面・側面・内面とあらゆる角度からのものをおく。
後はこの錬金台にひたすら出来上がるまで魔力を注ぐだけになる。
アヤコは大きく息を吸って、吐いてを繰り返して気合を入れた。
「錬金」
薬を作るときも、おもちゃUFOを作るときにも疲れた感じはなかったから、簡単だと思ってた。
この無理やり引っ張られるような魔力に、アヤコは「うそでしょ」とひとりごちた。
いや、ちょっと待って。
ダメだから、これ以上はダメだって。
魔石2つも置いたのは、欲張り過ぎた?
魔石を取り除くことも出来ないほどに、錬金台の上ではすべてが混ざり合っている。
そしてリュックを形成させるようにラインは整ってきたが、まだまだとばかりにアヤコから魔力が引き出され、錬金台へと引き込まれていく。
眩暈がしてきて、『ちょっと無理』となった時に、やっと引き出される魔力が無くなった。
ぐったりとしながら錬金台に鎮座しているリュックを見た。
それを見てアヤコは、何故魔力が枯渇するほどになったのかを理解した。
思いの詰まったリュック(マジックバッグ)(高品質)
思いが詰まったマジックバッグ。
攻撃されたら攻撃した者に反射または、マジックバッグに吸収される。
作者であるアヤコと、アヤコが認めた者でなければ使用不可。
容量は魔力に応じ変化する。現在ドームぐらいの大きさまでなら、生き物以外収納できる。
カンカン達の仲間を思う気持ちが、これにはとても反映されている。
その思いが深い分あれこれと機能が付いたから、それらを構成するために魔力がいったのだろう。
有難い機能けど、色々と深い。
反射はわかるのだけど、マジックバッグに吸収…どうなるのかが予想がつかない。
魔石が作られるのか、敵に攻撃するのか。
検証してみれば、わかるかな。
何はともあれ、思いの詰まったマジックバッグという名称が付くぐらいの物だ。大切に使わせて頂こう。
アヤコはリュックを前に手を合わせた。
これからよろしくね。
この後目録…リストがわかるように魔術を付与したいところだけど、今日はもう魔力がすっからかん。このあとはゆっくり休むことにした。
次の日。
朝からいろんな声が響く中、アヤコは目覚めた。
体力も魔力も十分。
ユーキの狩りの練習の時に一緒に行けば、昨日のリュックの検証が出来るのではないだろうか。シェーンがいれば、大抵は大丈夫だと思う。
そう思ったアヤコは、ユーキと朝食をとった後、シェーンにそのことを相談に行くことにした。
玄関のドアを開ければ、ユーキが待ってましたとばかりに飛び出していく。狩りが楽しくて仕方がないのだろう。無茶をして怪我だけはしないように、後で言いくるめておかないと。
「ユーキ。落ち着きなさい」
『だって!たのしー』
今までと違った感じで聞こえたことに、アヤコは首を傾げる。
何故か分からないまま、言葉を続けた。
「無茶をして、ユーキが怪我をしたらどうするの。ばあば、泣くわよ」
『ばあばが泣くの?』
「そうよ。ユーキが怪我をしたら、ユーキだけじゃなくてばあばも痛いの」
『ばあば、も痛い?』
「今は大丈夫よ。だからちゃんとシェーンの言うことを聞くのよ?」
『分かった!』
ユーキが成長したと捉えるべきなのか、世界の変化なのか。
本当に不思議しかない。
そしてその答えは、驚きをもってすぐに解決した。
「ああ…これはまた」
セーフティーゾーンにいけば、朝の賑やかな声の意味が分かった。
植えたばかりの果樹の木は既に2mを超え、アヤコの背を軽く越している。それどころか、花の濃厚な香りが漂い、この後の果実の期待を思わせる。そしてそれだけでなく、その花の馨しい香りに釣られてきたのか、色とりどりの蝶や昆虫が集まって来ている。
それを歓喜の声をあげながら、カンカン達やネプラが張り切って食事をしていた。
『アヤコ!グッジョブ』
ヴェルデからの軽くテンション高い言い方に、アヤコは固まった。
ヴェルデってこんな子だったの?今だけ?
声もユーキと同じように、スムーズに聞こえてる。でも奥ではぴゅぃぴゅぃの大合唱なので、契約をしている子だけが、そう聞こえるのかもしれない。
『アヤコ、今日は森が賑やかよ。最近近づいてこなかった人間が、森に入っているみたい』
「そうなの?セーフティーゾーンだけでなく、森の中にも変化があった?」
『森の魔が少し晴れてきたから、調査に入っているみたい。かなり魔力の強い子もいる』
「やっぱりここだけでなく、色んなところで変革が起きてるのね」
『ええ、森の中へは気を付けて入りましょう』
「私も昨日作ったリュックを背負って、探索に行きたいのだけど、大丈夫?」
『近隣なら問題ないでしょう。この周りは魔が深いモノは遠くへ退けられていますから』
システムは分からないけれど、意思疎通が出来やすいなら、いいことだ。
一緒に探索に行くというアヤコの声を聞き、足元ではユーキが駆けまわっていた。
『ばあばも一緒!』
読んで頂きありがとうございました。




