13.契約
灰色豹を保護して一ヶ月。
この世界だからなのか、動物と違って魔物に分類されるからなのか、成長が早い。
魔物図鑑の説明によれば、早ければ3カ月で子離れらしい。
その為に狩りを教える時期らしく、母灰色豹がどこからか小動物を捕まえて来るようになった。
始めはうさぎのような子豹と同じぐらいの大きさから、始まった。
ユーキには手出しをさせないように、基本抱っこしてその様子を見せている。
何故ならアヤコは狩りをすることを教えてあげることが出来ない。子豹は本能でどうすればいいのかはわかるようで、果敢に急所を狙って行くのは流石だ。だけど集団で狩りをするときの役割、追い詰め方、手際のいい仕留め方などは、多分実戦をしなければならないのだろう。
―――というのは、地球での知識で知っている。
集団で狩りをすることを覚え、そして独立して自分も仲間を作って行くのは、世界が変わってもきっと同じ。それがいらないのは、哺乳類ではない爬虫類たち。
この世界でも爬虫類たちはいるが、魔物図鑑を見ると大きさが半端ない。確かにアマゾンのワニとか蛇とか日本ではありえない大きさを誇っていたが、それが個々では普通で…。更に魔石が付いている魔物だと2~3倍。ワニで5mとか、それ怪獣?って世界だ。
しかも最近アプリが入った魔物図鑑を読み進めていると、その怪獣のようなワニはこの森の湖にいるというし、その湖が何処さえ分からないけれど、改めてこの森はヤバい。
そんな思考になっていることにアヤコは苦笑した。
最近年齢が若返ったせいか、この世界に来たからなのか、常識がない世界という認識のせいか、随分と若者らしい嗜好になったように思う。
それでもこういうことを考える時点で、若くはないのだが…それは誰に言い訳するわけでもないからいい。
姪や甥の子供たちに、おばあちゃん頭かたーい。と言われていたのは、気にしていない。
『ギャン(ばあば!)』
「何、ユーキ」
『ギャンギャン(おなか、すいた)』
「そう。じゃあ、何か焼きましょうね」
ユーキを連れて家に戻ろうとすると、灰色豹がそれを遮るようにアヤコの前に出てきた。
「どうしたの?」
残念ながら灰色豹さんとは、ユーキのように言葉で意思疎通が出来ない。
魔物図鑑で知ったことは、動物とは動物が魔力を持たないために契約できないが、信頼関係により仲良くなることは出来る。逆に魔物は魔石があるので信頼関係の元、契約でお互いを縛ることが出来き、念話で意思疎通が出来る。
もっと詳しく言えば、
人間側のメリットは、契約者との意思疎通が出来、その魔物の能力が信頼関係の高さにより、人間側の能力も上がる。(※信頼関係により10%~50%アップ)
自分の能力が上がる。しかも、自分の選んだ相棒とともに強くなるというのは、理想形だと言える。
デメリットは、お互いの信頼関係が築けない時に起きる。相手の了承を得ないで、従属させようと力で
契約をした場合は、魔物の能力は半減する。しかも人間側の能力は上がらない、だけど魔物の能力は半分だけ命令することで使用できる、というものだ。
最悪は魔物の能力が上の場合、契約解除を試みて殺されることもある。
魔物側のメリットは、契約者との意思疎通が出来、信頼関係の高さにより能力(10%~30%)が上がる。お互いの信頼度が80%を超えた時点で、種族が上位の者へと変わる。
山豹(50㎝~80㎝)➡灰色豹(100㎝~150㎝)➡黒豹(150㎝~300㎝)
畏怖される種族になればそれだけ寿命は延び、能力も上がる為に生存率も高くなる。
中には、魔物から幻獣や聖獣と言われるものに変化した者もいる。
そこには注釈も入っており、ここ数百年その事例がないということで、伝説、おとぎ話のような扱いになっているとのこと。
メリットだけで考えれば、契約はお互いにとって悪いものではない。
だが、住み分けされているこの世界は、狩るか、狩られるかになることが多く、契約を穏便に結べることなど殆どない。よって力を示して契約を結ぶというものが主流となっており、歪んだ内容が常識となっている。と書かれてあった。
そうなるのは当然だろうとアヤコは思う。
契約しませんか?と人間側が持ちかける魔物は、ほとんどが上位の魔物。呑気に話しかけている間に、殺されることの方が殆どだろう。逆にその言葉に耳を傾けて殺されるなど、魔物だってありえない。
結局、同レベルの契約を結ぶのは難しい。魔物側に知性があり上位の者で、往なせる余裕がある者か、人間側が魔物の一撃を凌げる強さを誇る者という力差が出る。
魔物図鑑の最後のあとがきに、そのようなことを永延と説いていた。愛情が伝わるその著者の人は、きっと大切な相棒が居た人なのだろうというのが伺えた。幸せな人生だったに違いない。
アヤコもユーキと孫と祖母という契約を結んだことになっている。
アヤコは家族が出来て、とても満ち足りている。
『ギャンギャン(このひょうさん、おともだちにって)』
「友達?ユーキとはもうお友達でしょ?」
『ギャン(ぼく、じゃない)、ギャンギャン(ばあばと、ともだち)』
「…そう。ユーキ、教えてくれてありがとうね」
『ギャン(うん)』
「えーと、灰色豹ママ。この子達を生かすために、上位の者になりたいですか?」
灰色豹はその場に座り、頷いた。
「わかりました。この子達が巣立つまでは、一緒にいましょう。巣立った後は、またお話しましょ。それでいいかしら?」
灰色豹は大きく二度頷いた。
それをみてアヤコは名前を考える。
しなやかで強いて美しいこの灰色豹が、ここに居てくれるならアヤコにとってもこのユーキにとっても幸せだろうと思う。出来ればずっと一緒に居てくれたら嬉しいけれど、まずはお互いが出せるメリットで始めて行きましょう。
名前を告げて了承したら、相手の魔石に手を触れるだったわね。
「『シェーン』美しいって意味の言葉よ。どう?」
灰色豹が大きく頷いたのを確認して、アヤコは目の前に立つ。
そして優しく頭を撫でて、魔石の上に手をかざした。
「シェーンは子豹を守る為に私は帰る場所になり、シェーンはユーキに生きる術を教える。――お互い、幸せになりましょう」
アヤコの腕に抱かれたユーキと、シェーンの足元に並んでいる子豹3匹に見守らる中、温かな光が皆を包んだ。その瞬間、繋がったという確かな感覚があった。
ユーキと名付けた時には、お互いの寂しさを埋めるように家族になった。
シェーンと繋がった時には、友と握手を交わしたときのような優しさがあった。
「シェーン。これからよろしくね」
『アヤコ、トモとオモッテくれて、アリガトウ』
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