11.この世界に来た意味
『キャン(おそい)』
と騒ぐユーキを撫で、一緒に果物がなっている樹の下に向かった。
「さて、どれ食べる?」
『キャン(ぜんぶ)』
「欲張りだねぇ」
そういいながらもアヤコの顔は緩みっぱなしだ。
季節感のないままになる果実は、働き蜂たちが熟れたものから収穫してくれる。それをこの間キウイ・すももは皮を剥いで干し、ブルーベリーはそのまま干した。その他の果物は、微妙にそう言うのに向かない為にお酒にしたり、ジャムにしたり、ジュースにしたり。結構な時間をかけて終わらせたはずなんだけど、同じぐらいなっているように見える。
真剣に勿体ないから売りに行きたい。
まずはどれが好きなのか知るために、ブルーベリー、キウイ、スモモをユーキの前に並べてみた。
どれも勢いよく食べている。スモモなんてすぐに種があるから食べるの難しいかと思ったのに、種ごとガリッと食べているのを見た時には、あんぐりと口が開いた。
そりゃぁー。暗殺狼と呼ばれるよ。一噛みであの世かな。
梅・花梨・柚子・スダチはそのまま食べるものじゃない。さすがに食べないだろうと並べたが、花梨だけは齧って食べていた。だけど香りだけで味はあまりしないのか、積極的にもっと!という感じではない。梅、柚子、スダチはボールみたいに転がして楽しんでいる。
だよね。
リンゴやバナナとかブドウ、みかんとか、あったらいいなと思うけど、育てるイメージ沸かなかったし、育てたことないし。どこかで仕入れることがあったら、育ててみるのも面白いかもしれないけど。
庭の探索とばかりにユーキがクンクン匂いながら進む。柵伝えに庭のすべてを一周したら落ち着いたのか、疲れたのか、玄関に入った途端に玄関マットの上で高いびきを掻きながら寝始めた。
君、昨日まで野生の子だったんだよね?
そう突っ込みたくなるほど、だらけた格好で寝ている。
孫認定した限りには、ここでリラックスしてくれて馴染んでくれるのはいいことだけど、それにしても、だ。
「自由だね」
じゃあ、ユーキが寝ている間に。
ユーキが食べた果物をカゴ一杯になるまで取り、ボールに水を入れて灰色豹のところに行った。
「これお水。そして果物。どれか食べられるものある?」
子供たちに近づかないように、遠くから声掛けをすれば、こっちを見た。鳴き声は聞こえないから、どうやら赤ちゃんは寝ているらしい。
なんとなくだけど、全部いると言っている気がして全部檻の中に入れてみた。野生の狼、それも気が立っている母親の傍に行くのも、入口から手を入れるのも始めは正直戸惑ったが、自分が傷つけられるというイメージはない。勘で動くには危ない行為だと思うが、この柵の近くにいることが出来る、それだけで敵意がないというのが分かるからなのかもしれない。
さて、どれを食べるかな?
もし食べなくて残ったら、それはそれでいい。どうせこのままでも余らせてしまう。
取りあえずお腹が一杯なのか、灰色豹は唸ることなくアヤコをジッと見つけた。見定められているような気がしないでもないが、ここを出て行くのも、しばらくここに落ち着くのも自由だ。
虐げられて一人にされてしまった子狼ユーキと違うのだから。
「取りあえず、檻の中綺麗にしておくね」
クリーンをかけ、檻の中の排泄物や灰色豹の汚れをとった。その方が野生の動物や魔物を呼び寄せなくていい、と思ったからだ。
「また来るね」
『グルル』
偶然なのか返事をしたのか分からないけれど、落ち着いているならいいやと、アヤコは柵という今や壁となった門をくぐった。
「本当に不思議な世界ね」
突然ここに来たから、どこまでが常識なのかさっぱりわからない。行きつくはずの町に行く前に、この世界の常識というアプリが入る事を祈るばかりだ。
スィートバチ達がこの庭に住むことになり、この庭は2倍になった。
そして子狼ユーキを孫認定して家の中に住むようになったら、この家を守るかのように柵が5mほどに大きくなった。そして灰色豹が門の近くにいるようになってから間もなく、材質が木製のごつい柵が合成のアルミ?のような巨大な壁に変わった。そしてそれだけでない。灰色豹の前にまるで傷ついた動物のセーフティーゾーンとばかりに、先ほどまであった木製の5mの柵がそびえたっていた。
アヤコはこの世界で平穏を望み、話し相手になる可愛い子が居てくれたらと言ったけれど…。
この森の動物の保護活動をするのが、アヤコがここに来た理由だろうか、と思うほどに保護しているような。
家の外壁が立派になるのは、そういうことだろうか?
一人で出来ることは限られている。
転移をするときに、使命を言いつけられたわけでもない。
出来ることをすればいいわね。
まずは、お昼ご飯はどうしようかな。
読んで頂きありがとうございました。
次回 12.実験と強行突破




