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第〇一三七話 究極の目的のために

 ラゴンの空いた時間を使って、またクリムの器用さ技術爆発だ。クラサビたちが真王陛下から借りたドレスを成型し、ミリン用の作業着も作成する。それを一体化させて、引き抜きの衣装に仕上げ、預かりものとほぼ同じに見えるドレスを、さらに一着複製しないといけない。

 もちろん一着は替え玉のクラサビ用、もう一着はチェンジするミリン用で、これが一瞬に作業着姿になるほうである。


(─ カブキだっけ? まあ、どっちでもいいけど)


 急がなければ、夜が明けたら今度は陶芸の一日になるからだ。


「主様、何をなさっているんです?」

「うん。クラサビが使う、殿下の替え玉作戦用のアイテムをさ」

「急に器用になったんですね」


 たしかに、指摘された通りである。ラーゴのところへ別れの挨拶に来た、クリムの生来固有能力(ネイチャー)『器用さ』がコピーできたためだ。居残り組に街で買ってきてもらったそれらしい鬘を、ひそかに城の上空でクロスへ受け渡す。そしてモーイツに向かい飛んでいるラゴンの手元へ、脈ルートで送っていじらせた。クリムに鬘いじりの経験はなかったが、器用さ技能でほとんど、ミリンの髪型と(たが)わぬ姿になったと思う。

 そもそも居残り組が苦労して、市中の鬘屋をすべて当たり、もっともミリンの髪とふう合いの似通った鬘を調達してもらったものだ。なぜか、変身できても赤毛だけは変わらないクラサビが、ミリンに化けるときに使うための小道具にと、すでに真王の前でかぶって見せたらしい。当たり前の話だが、陛下にも自分の(むすめ)と見間違える、 ── まるで双子のようだと賞賛いただけたのだと報告を受けた。


(─ 双子はやりすぎじゃないかと思うけどね)


 しかし王国にはいないが、実際もっと状況の厳しい国なら、整形魔法とかを使ってでも、替え玉を立てなければならない王侯貴族も存在しそうだ。そんな術も、あるところではあるのだろう。


 夜が明ける前に、作業着のほうは仮縫いまで完了した。ミツも背丈が同じぐらいだったからと思って腕を通してもらったら、胸のあたりの仮止めがはじけてしまう。育ち盛りということではない、やはりミツは魔力タンクであるおっぱいだけが、このところ異常に発達して来たようだ。

 しかたなく仮止めをやりなおすと、体形や背丈も違うものの、胸まわりの温和しさが近いクオレに、試着してもらって仕上げにかかる。

 こうした手作業はラゴンの自立モードに任せながら、ラーゴはラゴンチームに今後の方針を説明しておいた。


 タオから頼まれたのは、モーイツにいる特定の個人、およびその家族の救出だ。一方でラーゴ本人は、王国の治安を乱す国内組織ユニトータの殲滅が目的の、ミリン率いる教会軍(カルタジニアス)を従えてボコボへ向かっている。

 今や属国とも言える、ラーゴに助勢付与まで依頼して来た王国に仇名すものは、我々が究極に目指す目的の邪魔者でしかない。そのユニトータの後ろ盾が、この街に巣くっているマフィアだ。つまりこいつらは王国周辺より一掃しなければ、自分たちが究極の目的を遂げる足かせとなる。だから二つの組織をぶつけて全滅させるというのが、ラゴンチームに対して納得させた今回の骨子であった。

 その過程で、どちらの街に被害を出してもラーゴたちの不利益だし、魔族(ディアボロス)の存在を気づかせれば、今後の作戦がやりにくくなる。


(─ モーイツは共和国の都市だけど、貿易ベタの王国にとって、この食糧難を乗り切るための輸入ルートに、無事でいてもらわなきゃね)


 しかも、現在まだ王国内でグスグスしている教会軍(カルタジニアス)が、がぜんはりきって魔族退治を始めるだろう。そうはならないよう、ことは秘密裏に行なわれなければならない。つまり、二つの組織の仲違いによる自滅を偽装するのだ。


(─ 究極の目的は、もちろんボクの平和でセレブなぺット生活の確保だけどね)


 一方、本日ラーゴのいる王城の朝は、いつもと違ってすこぶる早い。ミリンが教会軍(カルタジニアス)とともに出征をするためとはいえ、その全容が伏されたまま、表向きはゴードフロイたちの出発式典等を執り行なう関係からだ。

 昨日クリムから仕入れた情報を、さっそくクロスに伝えておいた。すると夜明け早々、城内が動き始めるとともに調査を行なったらしく、アサシーについての追加情報が返ってくる。


{主様。そのメイドは今までお目見え以下だったのですが、グラリス引退も決まったために玉突きで昇進して国王付となり、今朝から朝食手伝いの仕事についているそうです}


 『お目見え以下』とは、国王陛下の前に出られない下働きの名称だ。ミリン付き筆頭、グラリスの抜けたシフトに変わっているため ── まだ本人はいるが ── 、新しい体制に移行したらしい。だれか国王付のベテランがミリンのほうへ回って、せり上がったと言うことなのだろう。


{念のため、注意しておいて}

{主様、実は今彼女の控え室 ── 寝室の前にいるのですが、さっそく怪しい箱を見つけました。鍵のかかる、メイドが持つのにふさわしくないような ───}

{何か入ってるの?}

{薬瓶? みたいなものが ───}


 それ以上のことが、クロスの能力でわからないというので、ここは千里眼(プレビジオニス)の出番だ。案の定、中身は経口摂取型の麻薬である。どうやら半分以下に減っているのは、使用済みと言うことらしい。しかし、その瓶の置かれかたが不自然だと云う。つまり、この入れ物の中にはもうひとつ、似たような容器(いれもの)があったのではないか、とクロスは見ていた。

 ラーゴは、そこに残るわずかな残滓から何が入っていたかを調査する ───


{ ── クロス、その箱には毒を収めてたみたいだ。箱の中にわずかだけれど、麻薬以外に残る成分は、強烈な毒に違いない。それを持って行った先は?}

{真王陛下の食事の席です! !}


 クロスが血相変えて駆けて行く。まだ真王陛下はテーブルに着いておらず、なんとかことなきを得るだろう。ラーゴはクロスの手腕に任せることにして、高みの見物を決め込むのだった。



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