第〇一八九話 魔族のエネルギー源を断つ
「ふーんあなた、クロスと同じ香りがする。二人とも悪くないわ。あたしは好きよ」
「それでクラサビ相談があるんだけど」
「何ですか」
「こうなっちゃうとここの魔王城、どうしたらいいんだろうね」
「ここはもともと、主様のものじゃないんでしょうか? そのように魔王様がおっしゃったのですから」
「へえそうなの。魔脈を差し出すなんて、ドミニオンマスターさまは滅びた魔王にまで、それほど心服されていたのね?」
「あ ── それはちょっと理由があって」
クラサビに、滅多なことを言わないよう目配せしておく。
{ごめん ── 。人間じゃないからついいい過ぎちゃった}
{こういう話はこっちでしてね。そうだよね、この魔王城を自分のもんだっていう者は、もう永久に現れないんだ。いや、それがボクか ───}
{だって魔王様はそう言って消滅されたのだもの。でも主様は魔王の脈じゃなくて、普通の脈からエネルギーが取れてるのよね? あたいたちも、そんな主様から力をいただいているので困らないし}
それを聞いたラーゴは不思議に思う。聖霊たちが膨大な量を持つという自分の脈には、聖脈からエネルギーを充てんしてきたのだろうと。ならば、脈から離れてしまった今は、どうなっているのか?
そして気づいた。旅に出てから、いろいろと活躍したように錯覚してきたが、それはすべてラゴンのやったこと。あちらは体内の造血システムから、新たなエネルギーを生み出す。対して自分は何もしていないに等しく、しかも二食昼寝つきでエネルギーを必要とする機会がないのだと。
(─ ウイプリーはラーゴの血を吸ってエネルギーにできる。だけど、それ以外の残存魔族がエネルギー補給を欲したら、どうしたもんだろうな?)
そこまで考えないでやってしまったが、もうなってしまったものは仕方ない。その回避策は後から悩むとして、他にもやっておきたいことをパルスゴーストにお願いした。
「前にやってもらった、賽銭金庫みたいに、ここにもボクの鱗は貼れるかな」
「どこに貼るの?」
「そこに三つ大きな扉があるでしょう。その内っ側に貼って欲しいんです。はい、これ鱗三枚。ひとつずつ扉の裏側に付けてきてもらえます?」
「了解しました」
あっという間にパルスゴーストの仕事は終わる。この魔王城の中、とくにこれら三つの倉庫には王城の各部屋よろしく、もともと魔脈が引き込まれた配管がつけられていたようだ。
まあ、脈がつながったところの移動などは、自分でも一瞬なので別に驚くほどのことでもない。つまり脈が引き込まれた場所と知っていれば、自分でもできたのかも知れなかった。
千里眼で簡単に確認し、自分の頭の中でこれが食料庫、あちらが宝物庫、こちらが武器庫というように位置づけて覚えておく。
「ありがとう。中の確認もできたし、これでどこからでも出し入れ自由なんですね。セキュリティっていうか、宝物庫や武器庫に守るシステムとかありましたか」
「そうねちょっと覗いたけど、悪魔の形をしたゴーレムが二体ずついたわ。でもエネルギー不足で動けないみたい。どちらにしても、扉を開けて入ってこないと起動しないようだから大丈夫よ。外に出しても暴れだしてしまうタイプね」
「聖泉がひかれてもそいつらは消えないんですか?」
「主様、ゴーレムは魔族じゃないよ、それになかなか強いの」
クラサビがそう教えてくれた。
「食料庫はすごいわね。時間操作がなされていて、ものが腐らないようになってたりして、宝物庫はうちのしょぼい金庫とは全然レベルが違いそうよ。でもあっちもいつでも使ってやってね。小銭が要るときはとくに便利だから」
「ありがとうございました。それからもう一つだけ……」
最後に、魔王島の残骸部分となった陸地のどこかから、聖泉があふれ出てくるような細工をお願いする。だがそれには、明日までかかるということだった。聖泉らしい場所の選定や、あふれ出した泉が今後枯れないようになど、すでに脈があった場所と違って注意点が多いようだ。
お願いが聞き届けられたと言うことで、浜に戻ろうとするラーゴ。最後にレヴィアタンの上空に、もう一重の物理・情報結界の蓋を作り上げる。クロスがやったように、エネルギー源を今引かれたばかりの聖脈へつなぎこむと、半永久的な自立結界が完成した。その上に表面を平らに整え、砂をかけるなど擬装しておく。これで海上から潜ってきた場合も、この下に何かあるとは、まずわからないはずだ。
「あれ、やっぱり……」
「どうしたの?」
「中に居たときおかしいな、と思ってたのよ。あたいたちが外へ出た後、主様が結界の中に魔王城を閉じ込めてしまうまで、魔脈 ── じゃないわ、聖脈から以前のように魔力が流れてきていたの」
「それが今、切れちゃった? だって元魔脈だからじゃない?」
「そうなのかなー、おかしいな。あたいたち魔族が聖脈から魔力がもらえるなんて」
「だって、クロスも聖脈からとれてるんだよ」
「あっそうね。それが変だって言ってたけど……」
結論は出ないまま、野営から少し離れた場所に上陸し、クラサビと自分だけが入った結界を解除すると、二人とも少しも濡れているところはない。ミッション完了 ── ということでいいだろう。
すると急に砂浜の上から声がかかる。
「その魔力、あなた様はもしや、魔王ガレノスさまの、忘れ形見ではありませんか?」
二人にかけていた結界をといたので、自分のごまかしも解いてしまっていたようだ。
暗闇の中だが千里眼を使えばすぐにわかる。それに気づいて声を出したのは、ピンク色のヒトデだった。