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勇者

 夜が明け、

 少年たちは兵士に連れられて

 領主の館を出る。

 向かう先は町の広場。

 そこにはすでに即席の処刑台が設えられ、

 黒騎士に従った町の代表者たちが

 縄を打たれてうつむいている。

 その先頭には

 黒騎士の命を乞うた

 あの男がいた。

 処刑台を兵士が囲み、

 さらにその周囲には

 住民たちがやりきれぬ表情で

 処刑を待つ者たちを見つめている。

 少年たちは処刑台へと上げられ、

 処刑人の剣を手渡される。

 処刑を待つ男は、

 少年に頭を下げた。

 少年は小さく首を横に振る。

 領主は処刑台の前に立ち、

 醜悪な笑みで少年たちを見つめて

 満足そうにうなずくと、

 人々を振り返り、

 愉悦と共に叫んだ。


「皆聞け!

 ここに捕らえられしは、

 魔物に魂を売り渡し

 卑しくも命を乞うた

 裏切り者、

 主なる神を冒涜する

 背信者である!

 私は今この町の領主として、

 これら邪悪の徒を断罪し、

 神の恩寵を取り戻さん!」


 領主の白々しい演説に

 人々は激しい憎悪の目を向ける。

 領主は嬉々としてその視線を受け止め、

 侮りの笑みを浮かべた。

 所詮貴様らには何もできぬ、

 千の兵に抗うことはできぬと、

 その笑みが語っていた。

 詐欺師は冷ややかな目で領主を見ている。

 領主が処刑を急ぐのは、

 暴力によって人々を威迫し、

 沈黙を強いることで

 魔物の襲撃に際し戦わずに逃げたことを

 隠蔽するためだろう。

 神の名を持ち出してまで

 自らの正しさを主張する様は

 あまりに滑稽だった。


「音に聞こえし予言の勇者が

 この愚者どもに引導を渡し、

 この世に正義の在ることを

 皆に示すであろう!

 予言の勇者は魔物の敵、

 魔物に与する者もまた、

 予言の勇者の敵となるのだ!

 さあ見よ!

 裏切り者の末路を!

 正義の光が

 闇を打ち払うさまを!」


 領主が指揮を執るように

 右手を鋭く振り下ろした。

 少年は処刑人の剣を手に

 処刑を待つ男の前に立つ。

 男は目を閉じた。

 人々から小さく悲鳴が上がる。

 少年が大きく剣を振りかぶり、

 領主はこらえきれぬ笑い声を上げた。

 少年が剣を振り下ろし――


――ガツ!


 処刑人の剣の切っ先が

 処刑台の床を抉った。




 何が起きたのか――

 広場は水を打ったように静まり返った。

 男を拘束する縄は断ち切られ、

 はらりと床に落ちる。

 生きていることが信じられぬと

 男は床に落ちた縄を見つめた。


「……なんのつもりだ」


 己の思い描いた通りにならなかったことが

 よほど不快だったのだろう。

 激しい怒りに顔をしかめ、

 領主は少年を問い質した。


「予言の勇者は人類の守護者ではなかったか?

 魔物の敵ではなかったのか!

 我らは正義の名のもとに、

 魔物どもとそれに通じた裏切り者に

 罰を与える義務がある!

 その義務を果たさずして、

 なんの勇者か!!

 お前はもはや

 魔物に魅入られし堕落者、

 人間の、

 敵だ!!」


 少年は振り返り

 領主を見下ろす。

 少年を強くなじる領主の言葉も

 少年を動揺させることはなかった。

 少年は静かに告げる。


「俺たちは人間の味方でも、敵でもない。

 俺たちは」


 その声は決して大きなものではなかったが、

 湖面に広がる波紋のように

 広場を渡る。


「殺す者の敵、

 守る者の味方だ」


 誰かが息を飲む音が聞こえる。

 少年の言葉は

 乾いた地面に水が染み込むように

 人々の内に届いた。

 声にならぬ高揚が

 膨れ上がっていく。

 詐欺師は嬉しそうに口の端を上げ、

 天に向かって声を張り上げた。


「『人である』というだけで、

 予言の勇者の助力を得られると思うな!

 予言の勇者は

 この世のすべての理不尽を

 討ち滅ぼす者なり!」


――オオオオオォォォォッッッ!!


 詐欺師によって形を与えられた高揚が

 人々の口を突き、

 大気を震わせる叫びとなって

 広場を満たしていった。

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