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「…………さてヤニク」
「そ、そうです! まだヤニクさんが残っていました!」
ドロシーは若干期待のこもった目つきでヤニクの方を見た。
「おいおい、オレは別にサバ読みロリジジイだったり、弓の勇者のハゲ隠しだったりってことはねえぜ。至って普通の男さ」
ヤニクは、そう言って酒を飲む。
「ヴァレリーを千と千◯の神隠しみたいに呼ぶな!」
俺は腰にささった剣を抜き、その切っ先をヤニクヘ突きつけた。
「えええええええええええええええええ!? ひえっ? あえ、ひいいいいいい!」
ドロシーは、驚いて叫びながら椅子から転がり落ち後ずさる。
器用なやつだ。
それに対して、ヤニクは俺に剣を突き付けられているというのに悠然と構えている。
「ちげえよ。盾の勇者の◯り上がり……だ」
どっちでもいいわ。
「それで、これは一体どういうことだ? 説明してもらいたいもんだぜ」
「お前が……俺と、アンの……俺たちの……故郷を焼いたな!」
「なるほど……そういうことか」
「俺たちはずっと仇を探していたんだ! それが……それがお前だったなんて!」
ヤニクは、ニヤリと笑った。
「……思い出したぜ。あの時俺が殺し損ねたガキどもの顔。なるほど、よく考えてみりゃ確かに面影がある。……面影どころかまんまのやつもいたが……」
「俺はともかく、アンに気づかないのはどうかしてるぞ!」
「何年前の話だと思ってんだ? 無茶言うなよ」
剣を突きつける俺の手が震える。それは彼に対する憎悪からか、仲間に刃を向けることに対する恐怖からか、自分でもわからない。
「そんな……ことって……!」
唖然とするドロシー。
「だけど、ヤニクがまだ幼かった私たちを見逃してくれたこともまた事実よ。……本人は殺し損ねたなんて言ってるけど」
「幼かったのはレイさんだけでしょう」
「てへ」
こいつら緊張感ないな。
「なあ……答えてくれヤニク。正体を隠して俺達に近づいた理由はなんだ? 駆け出し冒険者だった俺に一から剣術を教えてくれた理由はなんだ? 生きる術を教えてくれた理由はなんだ? ……俺たちに……負い目を感じていたんじゃないのか? だから……ずっと近くで……こうして見守ってくれていたんじゃないのか……?」
「……覚えちゃいねえよそんなこと。ただはっきりしてんのは、俺がお前にとっての仇だってことだけだぜ、レイ」
そう言って俺を見るヤニクの目はどこか虚ろだった。
「………………っ!」
「なあ、レイ」
「どうした?」
「久しぶりに……剣の稽古でもするかァッ!」
刹那、ヤニクの放った一閃が俺を切り裂いた。
俺はなんとか間一髪のところで避けたので、少し腹に切れ込みが入るだけで済んだ。
「あぶねえ! どういうつもりだヤニク!」
「どうもこうもねえさ。早く俺を殺さねえと、お前が死んじまうぜ! さあ来いよ! かかって来い!」
ヤニクは剣を構える。
「本気……なんだな……」
「言わなかったか? 俺がこいつを抜くときはいつだって本気だッ!」
――ゴンッ!
「あひぃ!」
ゴンッ! という綺麗な音と同時にヤニクは倒れた。
「えええええええええええええええええええええ!?」
驚くドロシー。
「喧嘩するなら外でやってください!」
鉄の盆を持った給仕が、眉毛を釣り上げて俺たちを注意する。
「あ……はい、すみません、大人しくしてます……」
俺は剣を収めて給仕さんに頭を下げた。
「…………きっと、あなたの言う通りヤニクも負い目を感じていたのよ。だからわざとあんな風に挑発するようなことを言ったのね」
アンは白目を向いて倒れるヤニクのまぶたを閉じたあと、祈りを捧げる。
「どうか安らかに――AMEN」
「死んではいないと思うぞ」
「しかもそれ、私の仕事じゃないですか!!!!」
ドロシーが叫んだ。
神官のくせに全然仕事しないなこいつ。
「……最後はお前だ、ドロシー」
「何言ってるんですか! してません! 私は何もしてませんよっ!」
首をぶんぶん振るドロシー。神官のくせに往生際の悪いやつだ。
「神に誓って! 髪がないことを隠したり! 年齢をごまかしたり! レイさん達の故郷を焼いたりなんてことしてません! 断じて!」
俺をまっすぐ見つめてそう宣言するドロシー。
だが、こいつに言いたいのはそんなことじゃない。
俺が人間に絶望するに至った最大の理由が、こいつにはある。
「私が! 何をしたって言うんですか!」
神官のくせにこの期に及んでとぼける気らしい。
俺はドロシーをキッと睨みつける。
「アンを……寝取ったな」
「……あ…………はい」
この日、俺はその場に居た全員と縁を切った。
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