第十八羽:お客さん
大切なお客さんの存在
今日もレスト・パーチは元気に営業中です。
「お待たせしました~!」
いつものように注文を運ぶ。お昼時は大変だ。
「メグルちゃんも働き者だねぇ」
「店長、もう一人くらい人を増やしても良くないかい?」
「メグルちゃんもちょっとは楽になるだろうしね」
お客さんはそう言って気づかってくれる。ありがたい。
「大丈夫ですよ~。そう言って貰えるだけで嬉しいです」
忙しいのはお昼時くらいで、それ以外は比較的にゆっくり出来る。無理はしていないのだ!
「あ、それにリタ……リタナシアが帰ってくれば人手は……」
そこまで言い掛けると、遮るように言葉が飛び交う。
「あいつには無理だ」
「うん、無理だ」
「と言うかお店が潰れる」
「さすがに可哀想だね……」
リタ、あなたは私がここに来る前に、一体何をやらかしたんですか……
確かに普段は凛としていて頼りになるけど、時々飄々としてつかめない事もある。意外と悪ふざけも好きなのでその辺りが心配されている要因だろうか?
調理場へ戻る。奥に座るおじいさんは少し険しい表情をしていた。
「?」
「……来る」
そこではっとする。シキミドリを見た。赤かったシキミドリは一部が青く変化し始めている。
「冬……!」
お客さんがピクリと反応した。
「……皆さん、よろしく」
おじいさんの言葉を合図にお店全体が動き出す。窓際の席に座る人達は窓を閉め、お店に常備しているブランケットを各席へみんなで回す。
私が暖炉まで行くと、すでに薪を組み始めているところだった。
「もう少し持ってきますね!」
「あぁ、頼むよ」
薪置き場へ走る。いつも思うけど、凄いなぁ。
季節が変わる際に見られる、レスト・パーチ名物『謎の団結力』
誰が言い始めた訳でも無く、自然と始まったお店とお客さんとの共同作業。ちなみに名付けた人も誰なのか謎らしい……
ものの数分で冬を迎える準備は整った。体感としてはまだ春だが、じきに冷えてくるだろう。
「ありがとうございます。後はゆっくりして下さい!」
みんなから小さく拍手が起こる。たぶん、みんなはみんなでこの共同作業を楽しんでくれているのだろう。お客さんどうしで握手を交わしたり、肩を組んだり。見ているこっちもつい笑ってしまう。
本当に平和だ。和やかだ。当然のようにみんなで手を取り合う。リタは私がまだ来る前、この光景をどう思い、見ていたのだろう……
ドアが勢いよく開いた。
「いらっしゃいませ!」
いつものように迎える。一人の女性が立って居た。
「……ここがレスト・パーチ!」
「?」
女性は使い込まれた上衣を取りながら言った。
「私、サクラ。リタナシアの弟子だよ!」
お店に居た誰もが、時が止まったように硬直した。
次回予告
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」