第十九羽:伝承の神様とシキミドリ
突然の来訪 語られる言葉は
ひとまず私の部屋に通す。お店の方はちょっとした騒ぎになっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
サクラと名乗った女性はひたすら謝る。いやぁ、そこまでぺこぺこされても……
「えっと、サクラ、さん?落ち着いて。まずはお話を……」
サクラさんはひと息つく。深呼吸をして語り出した。
「そうだね。改めて、私はサクラ。リタナシアと一緒に旅をしているの。ごめんなさいね。リタナシアの名前を出しただけで騒動になるとは……。あいつめ、まさか詳しい事は話さないで出てきていたなんて……」
「危険、としか。リタは最初からあなたと旅をするつもりで出発したんですか?」
サクラさんは頷く。
「私のお願いに……わがままに付き合ってくれたの。」
そしてサクラさんは色々と話してくれた。雪の集落の事。リタとの出会い。旅の約束について。
特に衝撃だったのは集落の話だ。雪に閉ざされた環境。どんなに辛かった事だろう。いや、環境よりも住民だ。ここの人達とは正反対に、手を取り合う事無く生きている。環境でそこまで人は変わってしまうんだ。その事実が何より辛かった。
「リタナシアの話し通りだ。ここの人達は優しいね。あんなに騒ぐって事は、それだけ心配している証拠だもん」
そうだ。私には気になって居ることがある。
「あの! リタは、この町の事を、何か言ってましたか? 出発前に話しをした時、この平和に不満がありそうな感じで……」
サクラさんは少し考える。そしてゆっくりと口を開いた。
「たぶん私の集落を見たからだろうね。よく"住む場所によってこんなに人生が左右されるなんて理不尽だ"って言っていたから。でも安心して。不満があるとしたらきっと伝承に出てくる神様に対して」
「伝承の神様?」
これは意外だった。少女の願いを叶えたと言うあの神様の事だろうか?
「"何で少女の願いだけを叶えたんだ。季節を戻して欲しいと願った人もいただろうに"って。これもよくぼやいてた。リタナシアは平和が不満なんじゃ無くて、私の集落みたいに不幸な場所が存在するのが納得できないんだよ」
サクラさんは優しい笑みを浮かべる。そうか……よかった……リタはこの町が嫌いなわけじゃ無かった!
「それにね、"無職の私を養ってくれるし、誰も何も言わないから良いところ"って紹介してくれたもん。嫌いなわけ無いって!」
リタナシアさん、帰って来たら働きましょう? おじいさんとおばあさんのために……
「そうだ、大事な事を忘れるところだった! あなたが持っているんでしょ? フォウの羽!」
ふぉうのはね?……とは何だろう。もしかして……
「シキミ……ドリ……?」
サクラさんは頷き、ずっと抱えていた荷物からある物を取り出した。
正真正銘シキミドリだった。その輝きはおじいさんの物とも、私の物とも違い、深い色をしている。
小瓶を取り出す。小さな羽も懸命に光を放つ。
「わぁ、まだ小さい頃のフォウを思い出すなぁ!」
「あの、もしかして……まさか……」
「うん。フォウは私が飼っている鳥。リタナシアからシキミドリって聞いたのは2年前に再会した時だけどね。あなたの持っている羽はフォウがまだ小鳥の時に落とした物を、リタナシアが偶然持ち帰ったやつよ」
大小二つのシキミドリを見る。え? オリジナル? しかも二つ?
「そ、そのシキミ……いえ、フォウさんは……?」
オリジナルの羽どころか、生きているシキミドリを見れる?
「残念だけど預けていて、ここには居ない」
私はまだ呆けている。実在した。本当に居た! 会え無いのは残念だけど、その事実だけで胸が高鳴る。
「さすがに町中を連れて歩く訳にはいかないから。ごめんね」
「い、いえ!」
いつか会いたい。でも我慢だ。今はそっと思いを胸にしまう。
「じゃあ、そろそろ本題。リタナシアについて」
そうだ。サクラさんだけでリタは居ない。
「今、どこに居るんですか?」
「実は……」
その後に続いた言葉を聞いた瞬間、私は部屋を飛び出した。
次回予告
「私にはやりたいこと、やらなきゃいけないことがあるの……!」




