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深緑の花婿  作者: 立菓
14/28

新妻、帰郷する(上)

 年末まであと数十日の、冬の中頃。

 建比古たけひことコノハが薬畑山やくはたさんに向かう日、彼らは早めの昼食を取った。

 その後、建比古たちは、太陽が南中する頃に皇宮を出発した。皇宮から近くの駅家えきかまでは徒歩で向かうようだ。



 塞院さいいんの中心地に着くと、建比古とコノハは駅馬えきばに乗り、実野谷みのやの地を目指すことになる。建比古は職業柄、馬の扱いに慣れている故、一人で馬を乗りこなしているようだ。

 一方のコノハは、雪麻呂ゆきまろの屋敷で数回乗せてもらった経験しか無いため、たくましそうな男性の駅使えきしが歩いて馬を先導することになった。


 建比古たちの後ろには、皇宮の御者ぎょしゃたちが巨大で頑丈がんじょうな荷車を引く馬を操っている。軽い荷物は、何十人もの使用人が背負って運んでいるようだ。



 朝からだいぶ寒かったが、雪が降ることは無かった。寒空の下、大王家おおきみけの行列は順調に前へ進んでいる。

 塞院を抜けて、江羽里えわりの地まで来ると、あっという間に夕方になっていた。それで、建比古たちは塞院との境の側にある、江羽里の駅家に一泊することになった。




 翌朝、江羽里の駅家で朝食を取った後、建比古たち一行は再び目的地に向かうことになる。

 低い山を通り、いくつかの橋も渡るようだ。激しい傾斜ではないが、上り下りが多い道を進んでいく。


 時より冷たい風が吹いているが、今日も昨日と同様に晴れている。

 急な悪天候で、どこかで足止めにならなければ、今日の夕方頃には薬畑山の中腹まで行くことができるらしい。


 建比古たち一行は江羽里の山を抜けると、再びなだらかな平地を進んでいく。

 小さな集落と集落の間には、稲が刈り取られて寂しい雰囲気の棚田が見えた。薄っすらと雪が積もっている棚田もあるようだった。



 江羽里を越して、実野谷の地に入ったのは太陽が南中する直前の頃。

 徐々に暖かくなる時間帯だが、たまに太陽が隠れてしまうような標高が高い山道が続いている故、一行は暖かい空気を感じることはできなかった。

 思わず「寒いっ!」と独り言を言う者も居たが、雪が多い場所に慣れているコノハは平気そうだ。とはいえ、馬に揺られながら、彼女は全く別のことを考えていた。


(ホント今さらだ……。ちゃんと好機をつかんで、自分の気持ちを伝えないとな)



 駅家で食事を取った時、コノハは他の人々より食べるのが遅かった。彼女は猫舌なので、熱々の料理を食べるのに何度も苦戦していた。


 建比古はコノハの食べる姿を、自然体の穏やかな顔で何度か見たようだ。コノハが食べるのが遅いのを謝っていたことに対して、「まー、気にすんな」と微笑んで言っていた。

 建比古のちょっとした気遣きづかいのおかげで、コノハは平常心を取り戻し、じんわりと温かい気持ちになったのだ。


(これから安心してもらえるよう、しっかり意思表明しないと! 建比古さまと『両想い』だって、ちゃんと話さなきゃっ!!)


 コノハは後方から建比古の背中を見つめながら、強く自分に言い聞かせたのだった。




 ようやく建比古たち一行は、昼過ぎに薬畑山のふもとに着いた。実野谷の駅家では遅めの昼食を取り、皆々ひと休憩をしたようだ。

 コノハの故郷まで、あともう少しだ。



 薬畑山の麓からは険しい道が続くようで、そこからは徒歩で行かなければならない。馬には頼れないため、最低限の荷物を背負いながら、一行は山を登ることになる。


 何度も迂回うかいし、ほとんど舗装されていない道を進んでいく。

 森の木々をよく見ると、枝や葉にしもが降りている。夜に近づくにつれて辺りは寒くなっていくせいか、一行は無意識に早足になっているようだ。

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